ノーベル賞受賞者が強く指摘しても「鈍い」省庁の実態
「引抜き研究」で筆者も競争的資金・科研費を申請したことがある。数回の採用不可の後、思い切って「ナノ」とか「ピノ」とか「ポニョ」とか、使い慣れない当時流行の単語を散りばめ、自分でも恥ずかしくなるような申請書に書き直したところ、やっと通った経験がある。
大学の評価について、注目研究重点主義で決める弊害は極めて大きい。若い研究者は現在流行中の、短期的に成果の出やすい研究に走りがちである。
名伯楽や信頼できる第3者機関による評価が期待できない現状では、研究費の“選択と集中”をやめ、研究費配分は個々の大学に任せ、大学ごとに特色ある研究・教育に戻すべきである。
多くのノーベル賞受賞者がこの点を強く指摘しているが、財務省・文科省の対応は鈍い。政府は、最近10兆円規模の大型ファンドを創設すると発表したが、その配分法は政府の有識者会議で決めるという。有識者が名伯楽になるとは限らない。ここが問題である。
誤解を招く表現だが、「下手な鉄砲、数打ちゃ当たる」が、長期的に見れば、最も確率高く、優れた結果が得られる方法であると著者は信じている。
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浅川 基男
1943年9月 東京生まれ
1962年3月 都立小石川高校卒業
1968年3月 早稲田大学理工学研究科機械工学専攻修了
1968年4月 住友金属工業株式会社入社
1980年5月 工学博士
1981年5月 大河内記念技術賞
1996年4月 早稲田大学理工学部機械工学科教授
2000年4月 慶應義塾大学機械工学科非常勤講師
2002年4月 米国リーハイ大学・独アーヘン工科大学訪問研究員
2003年5月 日本塑性加工学会 フェロー
2004年5月 日本機械学会 フェロー
2014年3月 早稲田大学退職、名誉教授
著書:基礎機械材料(コロナ社)ほか