②財務的な柔軟性
航空機は非常に高額のため、購入に際しては大手エアラインでも巨額の借り入れを行うことが一般的です。その結果として貸借対照表に巨額の負債を計上することになり、会社の財務内容や信用格付けに悪影響を与えてしまいます。
各国の会計基準より異なりますが、エアラインがオペレーティングリースとして航空機を取得(リース)すると機材コストを営業費用として取り扱うことができるようになるため、財務的な柔軟性を目的にオペレーティングリースを選択することは大手エアラインでも珍しいことではありません。
そのほかにも、少々後ろ向きな要素も含みますが、エアラインにとって航空機はキャッシュが不足したときの換金手段の一つにも成り得、業績が悪くなった会社が本社ビルを売却するように、エアラインも経営が苦しくなったとき、もしくは何らかの理由によってキャッシュが必要になったときに、自社が保有している航空機を売却しリースとして継続利用する、いわゆるセール・アンド・リースバック(SLB)によって資金調達を行うことが選択されることがあります。
コロナ禍においては、エアラインとリース会社・ファンド間でこのようなSLB取引が非常に多く実施されていました。※
※エアラインの財務諸表を見る上で「固定資産(機材)売却益」は粉飾決算を見抜くためにも非常に重要な要素です。経営が悪化したエアラインは不足する流動性や収益を航空機のセール・アンド・リースバックで補うことがあり、航空機の売却価格を中古市場価格より高く設定し、差額をリース料に上乗せ(プレミアム)して支払うことで架空利益を一時的に捻出することが可能となります。したがって、固定資産売却益が連続して計上されている場合は注意すべきです。
③機材戦略の柔軟性
エアラインにとって路線ネットワークと航空機は最も重要な経営資源ですが、同時に経営リスクの塊でもあります。
路線ネットワークと航空機の両方に共通しているのは一度決定すると変更が難しいという点であり、例えばある新規路線の採算が想定よりも(はるかに)悪かったからといっても航空路線改廃は容易なことではありません。
改善策としてコスト削減のためにより小さな航空機に変更するサイズダウンという施策がありますが、こちらも自社保有機では簡単に航空機を入れ替えることはできません。
これは一例ではありますが、エアラインにとって航空機を自社保有するということはさまざまなリスクを内包することにもなり得るため、オペレーティングリースによって機材の柔軟性を高めることも重要な視点となります。
また、これは別の視点として、特にLCC(ローコストキャリア)がオペレーティングリースを好む理由の一つですが、オペレーティングリースを活用しある一定の年数を経過した航空機はリースを延長せずに返却し、新しいリース機に入れ替えることで運航機材の平均機齢を若く保ち、経年による整備費用の増加を抑制するような機材戦略をとることも可能となります。
④前払金が不要
エアラインが航空機を取得するためにはエアバスもしくはボーイング等の航空機製造メーカーから巨額の前払金が求められることが通常です。
2014年4月にスカイマークがエアバスA380という2階建ての巨大な航空機の購入に際して累計で200億円超の前払を行いながらも予定された前払金8億円が未払いとなり(200億円の前払いから考えるとたったの8億円で!)、最終的に経営破綻したことをまだ記憶されている方もいらっしゃると思います。
当時のスカイマークの当期純利益は50億円前後でしたので、身の丈を超えた設備投資であり破綻は免れなかったという意見はもっともではありますが、累計で200億円以上も払いながらも航空機を受領できない(=収入を上げることができない)という、航空業界特有ともいえる機材調達に係るリスクも無視できません。
スカイマークの経営判断の是非についてはいろいろと議論があるかと思いますが、オペレーティングリースには航空機の調達に際して前払金は不要であり、これはオペレーティングリースの大きな利点になっています。
次回記事では「エアラインが航空機リースを活用する7つの理由」の残り3つについて紹介します。