昭和の名古屋。不動産会社発の住宅情報誌刊行で実績を積み、営業本部長となった元営業マンが最初に着手したのは「宅地建物取引士」の取得強化でした。この施策に踏み切った数年後、法改正により宅建士の重要性は増し、自社での教育制度の充実と、資格保持者の採用が実を結ぶことになります。

 

「宅地建物取引士」資格取得の強化に乗り出す

筆者が営業本部長に就任した時点で営業部には8支店が開設されており、新支店の売上も順調でした。今後はさらに展開をスピードアップし年間に3~4支店を開設していくことになります。そこで課題となるのが支店の人員配置です。1支店あたり宅地建物取引士は理想として2名必要でしたが、今のままでは不足が目に見えていました。多くの宅地建物取引士がいることのメリットは業務の正確性・業法遵守を徹底でき、顧客の信頼を得られることです。

 

宅地建物取引士というのは不動産の取引に関する専門知識・スキルを備えた有資格者です。具体的な役割としては、宅地や建物の取引で契約を結ぶ際に関係する権利や法令上の制限、取引の条件などの重要事項について「重要事項説明書」を交付して説明することです。資格を取得するためには全国で行われる資格試験に合格し、その都道府県の知事の登録を受け、宅地建物取引士証の交付を受ける必要があります。

 

宅地建物取引士の試験は年に1回で、私が着任した半年後の10月第3日曜日(例年同日)が試験日でした。そのため私は4月の着任の挨拶時に「半年後の合格を目指そう」と営業社員全員に向けて大号令をかけたのです。

 

私自身はこの会社に入社した年に1回目の挑戦をしましたが、やはり知識も経験も未熟なため不合格でした。試験はとにかく出題範囲が広く、理解して完璧に暗記しないと攻略することが難しいのです。悔しくて猛勉強し、翌年には合格することができました。

 

現在は不動産業界で働くなら宅地建物取引士の資格をもつことは当然のようになっていますが、それでも毎年約20万人前後が受験して合格率は15%ほどです。私が入社した頃は受験者数も少なかったですが、合格率も13%程度と厳しいものでした。

 

私は初年度に使ったものと同じ出版社のテキスト・参考書・問題集を2年目以降も購入し、何度も繰り返して弱点を克服していく勉強法が効果的であったことや、休日を有効に使って勉強するのが大事であることなどを社員たちに伝えました。

法改正で「従業員5名につき宅建士1名」の配置が義務化

私が宅地建物取引士の強化を急いだ理由は、いずれ宅地建物取引業法(宅建業法)の改正で宅地建物取引士が不足して人員配置が厳しくなることが業界では以前からいわれていたからです。

 

アメリカにも宅地建物取引士に相当する資格が存在し、不動産取引をする社員は全員がその資格をもっていなければならないという厳しい法の縛りがあります。契約大国のアメリカにおいて厳格に不動産取引を行い、リスク回避をするために非常に重要な資格なのです。

 

アメリカで導入されたことは何年か遅れて日本にも導入される例が多いことからも、不動産取引の厳格化は避けられない道でした。いつ日本で導入されても困らないように有資格者の確保をしておきたいと思ったのです。

 

私が有資格者の増員に動き出した6年後の1988年4月、業法改正が現実のものとなり、従業員5名までにつき宅地建物取引士を1名、6~10名までは2名を配置しなければならないルールとなりました。私たちの会社の場合は1支店あたり6~8名なので、有資格者は2名ずつ必要になります。

 

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賃貸仲介・管理業一筋50年 必勝の経営道

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加治佐 健二

幻冬舎メディアコンサルティング

メーカーから転職して1976年に28歳で営業職として入社し、充実した日々を送っていた筆者。 その矢先、突然社長と常務から呼び出され「東海エリア初の賃貸住宅情報誌の創刊」を命じられたのです。 そして右も左も分からな…

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