名古屋の不動産会社が刊行した住宅情報雑誌の「アパートニュース」は、着実に販路を拡大し、発行部数を増やしていきました。この雑誌は賃貸物件の入居希望者から支持を得ただけでなく、不動産業界の商習慣にも大きな変化をもたらすことになったのです。

「自社で情報誌を発行する」という、最大の強み

賃貸住宅情報誌には「不動産会社が独自で出版しているもの」と「広告代理店が出版しているもの」があります。

 

筆者の会社が創刊した「アパートニュース」は前者です。後者は複数の不動産会社からの出稿を募って紹介するタイプの賃貸住宅情報誌です。「アパートニュース」に掲載されている物件は100%私たちの会社がオーナーから預かった物件です。そのため情報の信頼性が高く、リアルタイムで空室情報を紹介することができるというメリットがあります。

 

自社で出版することの強みは3つあります。

 

1つは本当のお勧め物件を各地域や営業支店のトップページなどの最も目に付きやすい位置に置くなどして、読者に分かりやすく紹介できることです。

 

もう1つは仮になかなか空室が埋まらない物件がある場合、オーナーと相談して家賃を下げるなどの対策をして、魅力的な物件にしてから改めて掲載することができる点です。

 

たくさんの賃貸住宅を見てきた不動産会社だからこそ売れ残っている原因を突き止め、原因を克服して競争力をもたせる対策を的確かつ具体的にアドバイスできます。

 

広告代理店ではこうした助言は本来業務ではないため普通はやりません。オーナーは有効な対策を打てないまま掲載を続けてしまうことが多くなります。適切な対策を講じて再び賃貸住宅情報誌に掲載すれば、より早く、そしてほぼ確実に入居が決まります。

 

空室が埋まればオーナーは不動産会社への信頼を深めてくれますから、今後も取引を継続してくれる可能性が高まります。また、賃貸経営が順調なら「もう1つ新しい賃貸住宅を建てようかな」と考えるオーナーもいて、新規の管理物件が増えることもあります。

 

さらにはハウスメーカーや銀行がオーナーを紹介してくれるようになります。「日正は面倒見が良いので安心してオーナーを任せられる」と思うからです。ハウスメーカーや銀行にとって大切な顧客であるオーナーを、信頼のおける不動産会社に紹介したいと思うのは当然の考えです。

専任物件の多さが読者を引き寄せる

3つめの強みは、掲載物件の多くが専任物件であることです。専任物件とは1社のみと仲介契約している物件のことです。オーナーは自分の物件をどの仲介会社に委託してもよいので、複数の仲介会社と契約を交わしている物件が多くあります(これを一般物件といいます)。複数委託しておけば、どこかの仲介会社が入居者を見つけてくれる確率が高くなるためです。下手な鉄砲も数撃てば当たるというわけです。

 

しかし、複数の仲介会社に委託するということは、専任物件を優先する仲介業者にとってはモチベーションの上がらない物件となり、後回しにされることにもなります。また、複数の仲介会社が紹介する場合、のちのちの入居者間トラブルの元になることがあります。

 

その点、専任契約にすれば安心できます。ただしその1社が入居者を見つけてくれないと空室は埋まりません。そのため、オーナーは仲介会社を慎重に選びます。つまり、「この仲介会社なら確実に満室にしてくれる」と思える仲介会社としか専任契約は結ばないのが普通です。

 

幸いにも「アパートニュース」には優良な入居希望者が殺到するため、私たちの会社は専任依頼が多くなったのです。では専任物件が多いと何が良いかというと、自社の賃貸住宅情報誌で他誌には決して載らないレアな物件を紹介できるため差別化が図れます。

 

「アパートニュース」に掲載される物件の7割は専任物件のため、読者にはここでしか巡り合えない一期一会の出会いがあるのです。実は読者はいろいろな賃貸住宅情報誌を見ていて「アパートニュース」には他誌にはない物件があるということをよく知っています。そのため複数ある賃貸住宅情報誌のなかからあえて本誌を選んでいる人が多いのです。

 

オーナーも読者からの反響があれば「専任にしておいて正解だった」とお得感を感じてくれ、次も専任契約や管理契約を結ぼうと思ってくれます。

 

以上の3つの強みによって、既存のオーナーとの付き合いが長くなるとともに新規のオーナーとの出会いが増えていき、自ずと良い物件が多く集まるようになります。営業マンは豊富な物件のなかからベストな1つを提案することができ、入居成約率が上がるのです。すると、ますます物件の回転がよくなり「オーナー・入居者・不動産業者の3者に利益がもたらされる」という理想的なスパイラルが生まれます。

 

この三方よしのビジネスモデルは、力の偏りがないため安定しやすく、上昇しながら永続的に回っていきます。こうした成長スパイラルを創りだすことこそ「アパートニュース」が秘めた本当の力なのです。

 

 

加治佐 健二
株式会社ニッショー 代表取締役社長

 

賃貸仲介・管理業一筋50年 必勝の経営道

賃貸仲介・管理業一筋50年 必勝の経営道

加治佐 健二

幻冬舎メディアコンサルティング

メーカーから転職して1976年に28歳で営業職として入社し、充実した日々を送っていた筆者。 その矢先、突然社長と常務から呼び出され「東海エリア初の賃貸住宅情報誌の創刊」を命じられたのです。 そして右も左も分からな…

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