政策金利の引き上げは日本経済を苦しめる?
為替を一定のレンジに収めるために、金融政策を放棄するのか?
大手メディアの論説記事に、
「海外情勢に振り回されて円安と円高を繰り返せば、日本経済はかえって不安定になる」
とありました。これは、為替レートをある程度のレンジに固定するために、海外の金融政策と歩調を取って自国の金融政策を変更することがよいと解釈して間違いはないでしょう。
ここで重要なのは、「海外情勢に振り回されて円安と円高を繰り返」さないように、海外の金融政策に合わせて自国の金融政策を変更するということは、海外の経済情勢(≒外国の需給ギャップ)に合わせて、自国の金融政策を動かすわけで、「自国の金融政策の、他国からの独立性」が失われているということです。
『国際金融のトリレンマ』は、①固定為替相場制、②他国から独立した金融政策、③資本移動の自由のうち、2つしか達成できないことをいいます。
論説に従い、①為替相場を固定し、③資本移動の自由を続けると、他国の政策金利が5%なら、たとえ自国の景気が悪くとも、自国の政策金利を5%に引き上げなければなりません。なぜなら、裁定機会によって、固定相場制を維持できなくなるためです。
たとえば、固定相場制を維持しているにも関わらず、日本の景気が悪いために政策金利を1%に設定すると、国内で円を金利1%で借りてドルに換え、米国でドルを金利5%で運用して固定相場でドルを円に換金すると、無リスクで4%の利益が得られます。
このように固定相場制で低金利政策を採用すると、「濡れ手で粟」の収益機会ゆえに、猛烈な自国通貨売りと外国通貨買いが発生し、外貨準備を使い果たし、固定相場制が維持できなくなります。それが、1997年のアジア通貨危機で起きたことです。
メディアはどのくらいのレンジに円相場を収めたいのかはわかりませんが、たとえば、ドル円を110円~130円くらいの幅に抑えたいということならば、「レンジを持った固定相場制」ですから、日本の政策金利を米国と同程度に引き上げることが求められるでしょう。
1ドル=148円のドル円相場を130円に戻すために、(食料とエネルギーを除く)インフレ率がいまだ0%近傍のなか、政策金利を2~3%に引き上げるのは日本経済を苦しめるだけに思えます。