国税庁の案が意見公募手続によって撤回に追い込まれたのはなぜか?
では、国税庁が「サラリーマン副業300万円問題」において、パブリックコメントの結果、原案の撤回に追い込まれた理由はどのようなものでしょうか。
今回のパブリックコメントでは、7,000件を超える意見が寄せられたとのことです。しかし、単に数だけでは、国税庁を動かすまでには至りません。先述した、ルール案の致命的な欠点を的確に指摘する意見や、ルール案よりも説得力のある意見が含まれていたからこそだと考えられます。
以下、検証します。
理由1.国税庁の通達案の致命的な欠点を的確に指摘した意見の存在
まず、国税庁の通達案が法令の趣旨に反するという指摘がありました。
ある業務が「事業所得」にあたるかどうかの判断基準については、確立された最高裁判所の判例があります(最判昭和56年4月24日)。以下の通りです。
「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」
これは、売上金額等によって形式的・画一的に判断するのではなく、「反覆継続して遂行する意思と社会的地位」という表現にみられるように、意思的な要素も含めて総合的・実質的に判断しなければならないという意味です。
「収入金額300万円」で判断するという国税庁の原案は、この判例の基準にてらし、違法である疑いが濃厚だったといえます。
なお、国税庁の通達案には、この他にも様々な問題がありました。詳しくは2022年9月26日の記事「恐るべきサラリーマンいじめ!? 副業への増税方針を打ち出した国税庁のねらいと問題点」をご覧ください。
理由2.国税庁の通達案よりも説得力のある意見の存在
次に、国税庁の「収入金額300万円」という基準よりも説得力のある案が提案されていました。
それは、「帳簿書類の作成・保存」の有無で判断するという案です。
すなわち、先述した判例を前提としつつ、帳簿書類を作成し保存していれば、通常は、「反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる」というものです。
以上、今回のパブリックコメントにおいては、国税庁の案が法令の趣旨に反するという的確な指摘がなされたうえ、それを上回る説得力のある案が提出されたといえます。そのため、国税庁は、最終的に原案を撤回し、かつ、パブリックコメントで出された案を考慮に入れて新たな通達を定めざるをえなくなったということです。
今回の一件で、パブリックコメントが行政の恣意・横暴を抑止し歯止めをかける手段として有効であることが証明されました。その意義は計り知れないほど大きいものであり、積極的な活用が期待されます。
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