(※画像はイメージです/PIXTA)

国税庁は、2022年8月1日、所得税に関する通達の改定案を公表し、サラリーマンの副業による収入について、収入300万円以下は原則として「事業所得」と認めず「雑所得」と扱う方針を打ち出しました。そのことが何を意味するのか、どのような問題点があるのか、検証します。

無理筋な節税を封じるねらい?

国税庁が公表した「所得税基本通達」の一部改正案は、一言でいうと、副業の収入が300万円未満の場合は、特に反証のない限り「事業所得」ではなく「雑所得」として扱うというものです。

 

国税庁のねらいは、これによって、高額な給与所得を得ているサラリーマンが副業による無理筋な節税を行うのを防止することにあると考えられます。

 

どういうことなのか。前提として、事業所得と雑所得の違いを押さえておく必要があります。

 

事業所得とは、国税庁HPに記載されている定義によれば、「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得」で「不動産の貸付けや山林の譲渡による所得」以外のものをさします。

 

これに対し、雑所得は、他の9つある所得分類のいずれにもあたらないものをさします。

 

事業所得と雑所得の計算方法はいずれも「総収入金額-必要経費」ですが、「事業所得」として扱われると、以下の2つのメリットがあります。

 

1.赤字が出たら他の所得から差し引くことができる(損益通算)

2.「青色申告」による特典を受けることができる

 

逆にいえば、「雑所得」とされると、これらのメリットがなくなるということです。それぞれについて説明します。

一番のターゲットは「損益通算」

まず、最も重要で、かつ、国税庁がターゲットとしているのは、「1.赤字が出たら他の所得から差し引くことができる(損益通算)」ということです。

 

すなわち、給与所得の額が大きい人にとっては、副業を事業所得として申告し、かつ、そこでマイナスを計上できれば、給与所得から差し引くことによって、節税ができるということです。

 

損益通算が認められているのは、事業所得以外には「不動産所得」「山林所得」と、「譲渡所得」の一部のみです。

 

したがって、「雑所得」でマイナスを計上しても、給与所得から差し引くことはできないのです。

 

たしかに、昨今、一部で、給与所得が大きくなった場合に「節税」のために事業所得で大きな赤字を作って損益通算を行うという提案が行われています。

 

今回の通達改定案は、そういった無理筋な節税の動きに一定の歯止めをかけるねらいがあると考えられます。

「青色申告」もターゲットに

なお、「青色申告」ができることによる特典も、人によっては節税につながりますので、一応、簡単に触れておきましょう。ごく大ざっぱにいえば、必要経費にできる範囲が広がるということです。主な特典は以下の4つです。

 

・最高65万円の控除を受けられる(青色申告特別控除)

・赤字が出たら他年度の事業所得から差し引くことができる(繰り越し控除・繰り戻し還付)

・1つ30万円未満・総額300万円以内の減価償却資産を全額即時に費用化できる(少額減価償却資産の特例)

・家族への給与を必要経費に算入できる(青色事業専従者給与)

 

この「青色申告」が認められているのは事業所得以外には「不動産所得」「山林所得」くらいしかありません。

 

したがって、今まで「事業所得」と扱われてきたものが「雑所得」とされると、これらの特典も受けられないことになります。

 

以上のように、今回の通達改定案の意図は、もっぱら、サラリーマンが副業による収入を恣意的に「事業所得」として申告することによって、「損益通算」「青色申告」による節税メリットを得ようとする動きを抑止しようとすることにあります。

 

もちろん、「特に反証がない限り」という留保がなされているので、収入が300万円以下であっても事業所得と認められる可能性はあります。

 

しかし、これには以下の3つの問題点が考えられます。

 

・税法の趣旨に反する可能性がある

・副業全般に萎縮効果が及ぶ可能性がある

・資産家ほど得をする可能性がある

 

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