自分の特性を知ることから始まる
私たちが感じる時の流れとは、脳内で起きる「予期と想起」の連なりにほかならず、それゆえに現実の時間とのずれが頻繁に発生します。この点を理解しないままだと、せっかくの時間術が逆効果になりかねません。
つまり、本当に時間を使いこなすには、私たちは次のステップが必要です。
- 時間に関する自分の“個体差”を把握する
- “個体差”に適した技法を選ぶ
名匠の刀剣が家庭料理には向かないのと同じく、どれだけ名の知れた時間術でも適した場面で使わねば無駄の極み。なにごとも適材適所です。
そこで、「予期と想起」のフレームワークを使い、まずは「予期」の問題に取り組んでいきたいと思います。ですが具体策を提案する前に、簡単な頭の体操をしてみましょう。
「予期のリアリティ濃度」を測るテスト
10年後の自分を考えてみてください。
そう言われたら、あなたはどんな人物を想像するでしょうか?この質問で求められている答えは、「痩せてスリムになった自分」や「成功して幸せそうな自分」といった将来の理想像ではありません。
ここで考えて欲しいのは、「想像上の自分を本当の自分だと実感できるか?」というポイントです。
あなたは、頭に浮かべた10年後の自分を、年を取った自分自身のことだと感じられるでしょうか? それとも、知り合いや見知らぬ人を考えているのと同じ、たんなる想像の産物のようにしか感じられないでしょうか?
質問が分かりづらいときは、[図表2]の尺度を見ながら「私は10年後の自分とどれくらいつながりを感じられるだろうか?」と考えてみてください。10年後の自分がいまの自分とまったく同じ人間だと思えるなら7点で、完全な他人のようにしか感じられないなら1点です。
以上の質問は、「予期の現実感の濃さ」を調べるために使うテストです。この質問に「10年後の自分もいまと全く同じ自分」と答えた人は「予期の現実感が濃い」と判断され、「完全に別人」と答えたなら「予期の現実感が薄い」とみなされます。
なんとも単純なテストですが、「予期のリアリティ濃度」の違いは、私たちの人生に大きな影響を及ぼします。スタンフォード大学などの調査を見てみましょう。
研究チームは、[図表2]の尺度で参加者の「予期のリアリティ濃度」を採点し、この点数を全員の銀行残高やクレジットカード残高などと比べました。
すると、それぞれのデータには明確な関係性が見られ、将来の自分とのつながりの感覚が7点だった人は、1点の人よりも総資産額が平均30%も多い傾向がありました。
予期の現実感が濃い人ほど資産額が多いのは、10年後の自分を「わたくしごと」としてとらえることが可能だからです。「将来の私もいまの私と同じ人間だ」との実感が強ければ、それだけ10年後の自分を大事にする気持ちが生まれ、より長期的に人生を計画するでしょう。
逆に予期の現実感が薄いと、私たちは将来の自分を「見知らぬ他人」と同じように扱います。未来の自分を他人としか思えなければ、わざわざ10年もかけて貯金しようとは思わないはずです。