人間が感じる「時の流れ」の正体
脳が時間を生み出す仕組みとは、1枚の写真をながめつつ過去と未来を思い描く行為に似ています。
我が子の卒園写真を見ながら「こんなに小さかったのが、もう来年は成人か」と思う。自分の若いころを見ながら「いまはだいぶ太ったから痩せないと……」と悩む。昨夜の夕食の画像を見ながら「美味しかったからまた食べよう」と考える。
いずれの事例においても、たったひとつの静止画像から複数のイメージが広がり、その人の意識に過去と未来が広がっています。
これと同じように、私たちの脳もまた「目の前に広がる一瞬の情景」という1枚の映像を手がかりに確率の計算を行い、そこからオンデマンドで過去と未来を作り上げているわけです。
ただし、このような脳の働きは、「1枚の写真から過去と未来を思い描く」行為よりも、処理のスピードが格段に異なります。
人間の脳は、過去と未来の変化率を高速で計算し続けており、そのプロセスを、私たちは時間が流れる感覚として体験します。映画館で秒間48コマの静止画を続けざまに観ることで、ひとつなぎの動きを感じられるのに似た現象です。脳が持つ確率の計算機能を考慮すると、私たちが感じる過去と未来は、こう表現できます。
- 未来=いまの状態の次に起きる確率が高い変化を、脳が「予期」したもの
- 過去=いまの状態の前に発生した確率が高い変化を、脳が「想起」したもの
ビルの解体の例で、考えてみましょう。
瓦礫の山を見たあなたの脳は、はじめに記憶のデータベースにアクセスし、「似たような瓦礫の記憶はないか?」と検索を開始。これで引き出された記憶をもとに確率の計算を行い、「これは解体作業によってできた瓦礫だろう」といった過去を生み出します。
この作業が「想起」です。
さらに、あなたの脳は、続けて想起の結果をもとに次に起きそうな出来事の確率を計算しはじめ、最後には「誰かが片づけない限り瓦礫はこのままだろう」のような未来を作り出します。
この作業が「予期」です。
以上の議論をふまえれば、もはや答えは明確でしょう。
そもそも私たちは、過去から未来へ続く時の流れなど体感していません。人間が認識できるのは今の変化だけであり、そこにあなたが「時間」の概念をあとから当てはめただけなのです。
そう考えると、ローマ帝国時代の哲学者であるアウグスティヌスが示した、「時間=意識の錯覚」という説も、アリストテレスによる「時間=変化の数」との考え方も、根本は正しかったと言えます。
そして、ここにおいて私たちは、「時間管理のシンプルなフレームワーク」にたどりつきました。それは、次のようになります。
【フレームワーク】
正しい時間術とは、あなたの「予期と想起」を調整するものである
私たちは、世界のあらゆる変化を「予期と想起」の2軸で受け止め、それを主観的な時間の流れとして解釈しています。さらに、先述のとおり客観的な時間の管理には限界があるのだから、あとは私たちの意識の内側における時間、すなわち「予期と想起」を調整していくしかありません。