(画像はイメージです/PIXTA)

予期せぬ別れに直面したとき、人は何を思い、どう乗り越えるのか。書籍『もう会えないとわかっていたなら』(扶桑社)では、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など、現場の第一線で活躍する専門家たちから、実際に大切な家族を失った人の印象深いエピソードを集め、「円満な相続」を迎えるために何ができるのかについて紹介されています。本連載では、その中から特に印象的な話を一部抜粋してご紹介します。

 

亡くなった夫が抱えていた負債

「まずは、借金のほうから考えていきましょう」

 

美菜子さんの知らない借金が、今見つかっているものだけとは限りません。もっと増える可能性もあります。その金額によっては相続放棄も考えなくてはならないでしょう。

 

「借金の問題が片付くまでは、和宏さんのお母さんへの連絡はしないでください」

 

借金の全容がわかるまでは遺産の総額は決まりません。借金だけが残ることも考えられます。それなのに、今わかっている金額だけを伝えれば、まとまる話もまとまりにくくなります。

 

「わかりました。よろしくお願いします」

 

美菜子さんは頭を下げ、キングを撫でました。数日後、すぐに和宏さんの他の負債が見つかりました。

 

ご両親が帰宅したこともあり、私は美菜子さんのもとに届いている郵便の整理を手伝っていました。そのときに税金の滞納をしているという通知を見つけたのです。

 

「どうかしたんですか?」

 

美菜子さんは私の異変をすぐに感じ取りました。視力は失っていますが、彼女は心がとても鋭いのです。私の話す声や立てる物音で、「何かいいことがあったんですか?」「最近、元気ないですね」と、心の変化を読み取ってくれるのです。

 

和宏さんは、相続した土地を売ったときの税金を滞納していたため、その督促が来ていたのです。金額は一五〇万円。総額四〇〇万円の負債。まだ、増えるかもしれません。私は美菜子さんに弁護士に相談することを提案しました。

 

弁護士が迅速に動いてくれたおかげで、和宏さんにこれ以上の負債がないことがはっきりしました。さらに、金融機関が連絡してきた二五〇万円の債権も時効が成立していることがわかり、支払う必要がなくなったのです。

 

滞納した税金さえ納めてしまえば、残されたのは和宏さんのお母さんとの遺産分割協議だけとなります。それも、弁護士が間に立ってくれることになりました。そのとき、美菜子さんが「ごめんなさい!」と突然頭を下げました。

 

「お義母さんに連絡をしちゃいけないって言われていたけど、ずっと手紙を送っていました」

 

美菜子さんは、和宏さんの死後、ボランティアの助けを借りながら、見えない目で何通も義母に手紙を送っていたというのです。

 

次ページずっと送り続けていた手紙

本連載は、2022年8月10日発売の書籍『もう会えないとわかっていたなら』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございます。あらかじめご了承ください。

もう会えないとわかっていたなら

もう会えないとわかっていたなら

家族の笑顔を支える会

扶桑社

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