(画像はイメージです/PIXTA)

予期せぬ別れに直面したとき、人は何を思い、どう乗り越えるのか。書籍『もう会えないとわかっていたなら』(扶桑社)では、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など、現場の第一線で活躍する専門家たちから、実際に大切な家族を失った人の印象深いエピソードを集め、「円満な相続」を迎えるために何ができるのかについて紹介されています。本連載では、その中から特に印象的な話を一部抜粋してご紹介します。

 

ずっと送り続けていた手紙

それは葬儀を無事に済ませた報告に始まり、どんな人が葬儀に来てくれたか、自分たちがどのように暮らしていたか、和宏さんがどんな夫だったか、自分がどれだけ幸せだったかを伝えるものでした。時には、和宏さんとキングと3人で写る『家族写真』も送ったそうです。

 

「お義母さんに、もっとあの人のことを知ってほしかったんです」

 

それでも、和宏さんのお母さんからの連絡は一切なかったといいます。

 

その後、弁護士が和宏さんの遺産があることを報せる手紙を送り、美菜子さんも手紙を書き続けましたが、すべて一方通行に終わりました。

 

しばらくして、その手紙を見つけたのは、またしても郵便の整理を手伝っていた私でした。和宏さんのお母さんからの手紙でした。その代読を美菜子さんから頼まれました。

 

私が封を切ると、義母から来た初めての手紙に、美菜子さんは緊張した様子でした。手紙は、青いボールペンを使って丁寧に書かれていました。

 

冒頭には目の見えない美菜子さんに手紙を送ることを許してほしい旨が記されており、美菜子さんからの手紙にはすべて目を通していること、美菜子さんのお義母さんの身体を気遣う言葉が嬉しかったことなどが綴られていました。

 

そして手紙は、こう続いたのです。

 

「私は今、こう思っています。あなたが和宏と結婚してくれて、本当によかった。あなたの手紙のおかげで、今、私はあの子と仲直りができたように思えています。あの子は、いえ、あの子も私も本当に幸せ者です」

 

手紙の最後には和宏さんの遺産の相続を放棄することが記されていました。私の代読を聞き終えたとき、美菜子さんは、

 

「また手紙を書かなくっちゃ」

 

と言って笑い、足元に座るキングを撫でました。

 

この相続をきれいにまとめることができたのは、私でも弁護士の力でもありません。美菜子さんが書いた真心のこもった手紙だったのです。

 

本連載は、2022年8月10日発売の書籍『もう会えないとわかっていたなら』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございます。あらかじめご了承ください。

もう会えないとわかっていたなら

もう会えないとわかっていたなら

家族の笑顔を支える会

扶桑社

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