ずっと送り続けていた手紙
それは葬儀を無事に済ませた報告に始まり、どんな人が葬儀に来てくれたか、自分たちがどのように暮らしていたか、和宏さんがどんな夫だったか、自分がどれだけ幸せだったかを伝えるものでした。時には、和宏さんとキングと3人で写る『家族写真』も送ったそうです。
「お義母さんに、もっとあの人のことを知ってほしかったんです」
それでも、和宏さんのお母さんからの連絡は一切なかったといいます。
その後、弁護士が和宏さんの遺産があることを報せる手紙を送り、美菜子さんも手紙を書き続けましたが、すべて一方通行に終わりました。
しばらくして、その手紙を見つけたのは、またしても郵便の整理を手伝っていた私でした。和宏さんのお母さんからの手紙でした。その代読を美菜子さんから頼まれました。
私が封を切ると、義母から来た初めての手紙に、美菜子さんは緊張した様子でした。手紙は、青いボールペンを使って丁寧に書かれていました。
冒頭には目の見えない美菜子さんに手紙を送ることを許してほしい旨が記されており、美菜子さんからの手紙にはすべて目を通していること、美菜子さんのお義母さんの身体を気遣う言葉が嬉しかったことなどが綴られていました。
そして手紙は、こう続いたのです。
「私は今、こう思っています。あなたが和宏と結婚してくれて、本当によかった。あなたの手紙のおかげで、今、私はあの子と仲直りができたように思えています。あの子は、いえ、あの子も私も本当に幸せ者です」
手紙の最後には和宏さんの遺産の相続を放棄することが記されていました。私の代読を聞き終えたとき、美菜子さんは、
「また手紙を書かなくっちゃ」
と言って笑い、足元に座るキングを撫でました。
この相続をきれいにまとめることができたのは、私でも弁護士の力でもありません。美菜子さんが書いた真心のこもった手紙だったのです。