せっかくの「新卒カード」も生かし切れず…
マスコミから「ロストジェネレーション(失われた世代)」ともいわれている就職氷河期世代。
氷河期世代とは1993年〜2004年に学校卒業期を迎えた人たちであり、高卒なら1975年から1986年生まれで、2022年時点では36〜47歳。大卒なら1971年から1982年生まれで、2022年時点では40〜51歳の人たちだ。
そんな彼らだが、どれほど「運が悪い」といえるのか。
まず、就職するころの有効求人倍率だが、2000年には大卒の求人倍率が1.0倍を下回るなど相当な厳しさが続き、大学卒業者でも職にありつけないという状況だった。そのため、パートやアルバイトになるケースが続出し、とくに2000年~2003年にかけてはその数は2万人を超えた。
だが、たとえ正規で就職できたとしても油断ならなかった。就職すること自体を優先し、自身の希望も、適正の有無も考える余裕がないまま入社を決める人は多かった。結果、仕事の継続が困難になり、途中退職者も増加。しかし、雇用環境はまだ冷え込んでおり、新たな職を得られずに引きこもり状態になる人もいた。
社会問題化している「中高年の引きこもり」だが、内閣府の調査によると、引きこもり状態になったきっかけとして最も多いのが「退職」だった。さらに「人間関係がうまくいかなかった」「職場になじめなかった」「就職活動がうまくいかなかった」ことも理由として挙がっている。
とはいえ、当然だが、就職氷河期世代全員が就職にあぶれ、引きこもっているわけではない。社内を見回せば、力強く部下を指導し、社内メンバーをけん引している40代~50代前半も多いことだろう。
「氷河期世代=非正規雇用多数」というイメージがあるが、総務省の『労働力調査』によると、非正規雇用は20代から徐々に減少し、50代から高齢になると再び増加するという傾向が見て取れる。むしろ、氷河期世代は正社員のほうが多いのだ。大卒内定率も、就職氷河期が大きく落ち込んでいるわけではなく、いずれの年代も90%を超えている。大学の「新卒カード」を持ちながら非正規社員へとなったのは、あくまでも「一部の人たち」なのだ。
活躍する氷河期世代も多いが…明暗の分かれ道は?
少々、イメージが先行し過ぎた感のある氷河期世代だが、就職活動が厳しかったのは確かであろう。そして、不本意な就職をした人も多かっただろう。しかしながら、置かれた環境にめげずキャリアを積み、活躍している人も多い、それが氷河期世代なのである。
その一方、いまだ非正規社員に甘んじている人たちがいる。厚生労働省『労働経済動向調査』によると、常用労働者の過不足判断D.I(人手が足りない企業から、人手が足りている企業を引いた値)は、1998年ごろからマイナスとなり、人手余りの状態となったが、2004年以降はプラスに転じ、雇用環境は好転していく。
この時点で、正社員を目指すための行動ができた人・できなかった人で明暗が分かれたといえる。もちろん、いくら正社員を目指しても、希望通りにならなかった人もいるだろうし、非正規社員であっても、仕事の状況により、思ったように転職のチャンスを掴むことができない人もいただろう。
しかし30代ともなれば、採用する側もそれなりのキャリアを要求する。マネジメント経験必須というケースも珍しくない。そのような環境において「30代・ずっと非正規」というカードでは戦うことが難しい。
残念な話だが「就職しにくい」という問題は、年齢を重ねるごとに深刻化する。2019年内閣府発表の『就職氷河期世代支援プログラム関連参考資料』によれば、非正規社員371万人のうち50万人が、正社員を希望しながらも非正規社員として働いているという。
40代前半、非正規社員の月収は中央値で21万円、手取りで16万円ほど(厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』より算出)。これでは、40代になっても大卒新卒者と変わらない程度の給与額だ。
日本型の古き良き雇用形態においては「新卒カード」は強力な武器であり、人生の勝負は「始まりがすべて」だったが、グローバル化が進展した現在、その気になればいつでもチャンスが掴めるといわれている。転職によるキャリアアップも当然とされるなか、能力の高い人材は、評価してもらえる先、力が発揮できる先へと転職を繰り返し、高い給与を掴み取っていく。ところが、そんなチャンスにさえ手が届かないのが、就職氷河期からこぼれおち、そのまま置き去りにされた人たちなのだ。
内閣府による「就職氷河期世代支援プログラム」や、厚生労働省による「就職氷河期世代活躍支援プラン」など、さまざまな支援制度が設けられてはいるが、40~50代のごく限られた人たちの就職支援が、どれほど社会に好影響を及ぼすのか疑問の声もある。むしろ、彼らよりもより若年層への支援に予算をかけるべき、という声は大きい。
零れ落ちた氷河期世代を、時代も置き去りにせざるを得ないのかもしれない。
幻冬舎ゴールドオンライン編集部
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