名医や専門医に「眼瞼下垂」と診断されても、保険診療でも「上瞼の全切開」(挙筋短縮・前転法)がNGな理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

癌治療でも外科でも、救急の現場でも美容分野でも、「医療の名の下の犠牲」が発生する構造が、残念ながら日本の医療にも存在する。これらは何故発生し、どう事前に防げるのか。「美容医療国際職人集団」と言われるJSAS会員であり、高須克弥医師の孫弟子にもあたる医療法人美来会理事長、九野広夫医師に解説いただく。氏は、美容医療の他院修正専門医院を立ち上げ、不幸な医療事故や医療過誤を数多く目にしてきたその道のスペシャリストである。

何故、上眼瞼は切ってはならないのか?

その理由は明白です。まず全切開を伴う手術では、皮下浅層から挙筋に至る深層迄の組織間に、ミクロレベルの線維化(創傷治癒過程で万人に起こる傷の修復現象の一つ)が多発的に生じます。一日数千回も瞬きをする(滑らかな)動的機能を持った上眼瞼全幅にメスを入れると、どんなに慎重で経験豊富な名医でも瘢痕治癒過程で生じる線維化や硬化、癒着、切断筋の萎縮、皮膚や真皮の厚みの差、開閉眼の動きの自然さ等をmm単位で予測することは人間業である以上、絶対に不可能なのです。

 

更に従来の眼瞼下垂手術では、全切開後に瞼の深層にある挙筋腱膜まで展開して露出させ、一旦切断して重ねる(縫合する)短縮術と、切断せずに挙筋腱膜を一往復半折畳んで短縮(タッキング縫合)する前転術があります。いずれも挙筋や挙筋腱膜に不可逆的ダメージが加わり、本来の滑らかな伸縮機能が損なわれ、2枚・3枚分に重なった挙筋腱膜分だけ、開眼時に閊(つか)えることがあります。

 

加えて、挙筋腱膜の目頭側と目尻側のブランチが短縮されず、開眼時には上眼瞼中央部だけが過挙上(過矯正)となることが多く三角形の目の形になり、場合によっては上手く閉眼もできなくなるのです。

 

もっとも、私自身は全切開手術ができない外科医ではありません。下眼瞼や目頭ならmm以下単位で寸分狂いなく切除縫合もできますし、予後も良好です。しかし、切開の対象が上眼瞼全幅である場合が大問題なのです。つまり上眼瞼を全切開されてしまったら、担当医でさえ治せない合併症が数多く存在しているからなのです。個別の医師の技能の問題でなく、術式そのものに欠陥があるのです。

上眼瞼全切開併用術後の機能障害や他に波及する合併症と美容上の問題

上眼瞼に1回でも全切開を伴う手術を受けてしまうと、不具合の自覚症状が無い方もいらっしゃいますが、少なくとも下記の一つ(多くは複数の)合併症が併発します。

 

【瞼に生じ得る合併症】

❶二重ライン幅・形:多重ライン・直線的ライン・角ばったライン・枝分れや途切れ

・互い違いライン・凸凹ライン・予定外線・開閉眼時のライン喰い込み度のムラ、等

 

❷目の大きさ・形:上方三白眼(過挙上・過矯正)・三角眼(目頭・目尻側挙上不全)

・四角眼・睨んだ目つき、等

 

❸睫毛の形:三角睫毛・逆睫毛・撥ね睫毛・開閉眼時に引っかかる違和感・不揃い睫毛

・外反・内反・粘膜露出、等

 

❹機能障害:開眼度低下・開閉眼障害・白内障・視力低下や障害・視野狭小・挙筋損傷

・挙筋腱膜損傷・医原的眼瞼下垂・結膜損傷・涙嚢損傷・兎眼・複視・慢性ドライアイ

・痙攣・治らない角膜炎・コンタクトレンズがうまく装着できないこと、等

 

❺目立つ瘢痕:閉眼時の皮膚質感のムラ・癒着・シコリ・凸凹・縦や斜めのシワ・拘縮

・線維化や石灰化による皮膚や組織肥厚化・化粧で隠せない・化粧のノリが悪い、等

 

❻全項目に跨る問題点:複雑な左右差・周囲の慢性炎症・(アトピー性)皮膚炎の悪化

・アイプチ補助が必須・化粧かぶれ、等

 

【瞼以外にも波及する合併症】

❼前額や眉:眉間や前額のシワ増大・眉挙上癖の習慣化・前額や眉の位置の左右差増大

・眼瞼下垂の悪化または多元性眼瞼下垂の発症、等

 

❽痛みや疲労:原因不明の慢性頭痛・首や肩のコリ・片頭痛の悪化・目の奥の眼精疲労

・前頭筋や皴眉筋の疲労、等

 

❾顔面全体の歪み:表情筋群の協調不全・笑っていない目・不自然な表情・動的非対称

・人格や社会性を毀損、等

 

❿内面の問題:睡眠障害・うつ病・引きこもり・内面と外見の自我不一致・情緒不安定

・自律神経失調・精神疾患・服薬依存・自殺企図・自殺、等

 

これだけの合併症を完全に制御できないにも拘わらず、大抵の担当医は事後的に「数ヵ月様子を見て下さい」「瘢痕が馴染むまで約1年かかります」「合併症とはこんなものです」と述べるに留まります。そして不具合や合併症が重篤または治らない場合に多くの外科医が選択する方法が、再度「全切開」を伴う術式です。

 

担当医が名医であってもロシアンルーレット以上の確率で危険です。皮膚移植、脂肪やヒアルロン酸等の注入、レーザー照射等も試された方もいらっしゃいますが、こうなると最早人体実験です。これらの方法で上手くいく訳がありません。従来から全切開後の合併症を治す治療法が確立されていないので、ますます深刻になってゆくだけです。

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    医療法人美来会 理事長(統括総院長)
    大阪梅田 本院 美容外科デザイナーズ&アーティスツKunoクリニック
    東京麻布 分院 CLINIC NINE FIELDS
     

    1988年4月 創価大学経営学部経営学科入学
    1998年3月 和歌山科県立医科大学医学科卒業
    1998年4月 和歌山科県立医科大学 臨床研修医 救急・放射線科・麻酔科・消化器外科
    1998年7月 「和歌山カレー事件」では救急CCMCに勤務し第一通報者となる
    2000年4月 和歌山科県立医科大学 臨床研究医 癌集学治療部・消化器外科
          上記4年間は、救急当直を含めて年間350日以上勤務
    2002年4月 アサミ美容外科大阪院 採用・勤務 高須克弥医師の孫弟子となる
    2002年10月 アサミ美容外科大阪院 院長就任
    2007年11月 美容外科デザイナーズ&アーティスツKunoクリニック個人院 開業
    2009年1月 VASER HiDef 認定医 取得 日本人医師初代認定医5人の1人
    2009年11月 第97回日本美容外科学会・第7回東方美容外科学会 国際学会演題発表
          「シリコンバッグ抜去&当院オリジナルの再生豊胸術(抜粋)」発表
    2012年4月 VASER 4D Sculpt 認定医 取得
    2012年5月 第100回日本美容外科学会「脂肪幹細胞を用いた生体内再生豊胸術および若返り術(抜粋)」発表
    2013年7月 銀座分院開院 JSAS(日本美容外科学会)にて初代の美容外科専門医 取得
    2014年12月 医療法人 美来会として登記・発足
    2020年12月 美容医療の他院修正専門医院として、クリニックナインフィールズ(CLINIC NINE FIELDS)開院
           現在に至る

    趣味:7歳頃から宇宙物理学をAmateur(独学)で研究。
    2016年「THE GRAND UNIFICATION THEORY OF THE UNIVERSE」と冠した専門書を英文出版。

    医療法人 美来会: https://www.d-biyou.com/

    美容整形他院修正専門チャンネル - YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCKy_YohgR0YskbOwfCqmGwg

    著者紹介

    連載数々の医療事故・過誤を目にしてきた専門医が、日本医療のリアルを語る

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