(※画像はイメージです/PIXTA)

国税庁が2022年8月に、サラリーマンの副業について「収入金額300万円以下」の場合を原則として事業所得と認めず雑所得と扱うという通達改定案を示していた問題で、意見公募手続の結果、国税庁は10月7日、改定案を撤回し、「帳簿の有無」を重要な判断基準とすると表明しました。国税庁がここまでの譲歩を行うのは異例です。その背景に何があるのか、新しい基準の内容はどんなものか、問題はないのか、解説します。

「収入金額300万円以下」の基準を国税庁が撤回せざるをえなかった理由

編集部では2022年9月16日の記事「恐るべきサラリーマンいじめ!? 副業への増税方針を打ち出した国税庁のねらいと問題点」で、税法理論の見地から、通達改定案の問題点を指摘しました。

 

問題点は以下の3つです。簡単に振り返っておきます。

 

1.税法の趣旨に反する可能性がある

2.副業に対する過度の萎縮効果を生じさせる

3.資産家ほど得をする可能性がある

 

◆問題点1.税法の趣旨に反する可能性がある

第一に、税法の趣旨に反する可能性があるということです。

 

すなわち、問題となった通達改定案の主眼は、サラリーマンが、副業について事業所得という所得類型を利用して無理筋な節税を行うことを封じる点にあります。

 

しかし、事業所得の定義については、最高裁が示した以下の基準があります。

 

「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」(最判昭和56年4月24日)

 

この基準はある程度厳格なものなので、無理筋な節税を封じるのであればこの基準をきちんと適用すれば足り、「収入金額300万円」という基準をことさら重視するのは法の趣旨に反すると考えられます。

 

◆問題点2.副業に対する過度の萎縮効果を生じさせる

第二に、サラリーマンが副業によって所得を増やそうとする努力に対し、萎縮効果を及ぼす可能性があります。

 

すなわち、サラリーマンが副業として起業を行う場合、特にスタートアップの時期は売上が思うように上がらなかったり、初期投資額や費用がかさんだりすることがあります。

 

そういう場合に、事業所得の損益通算や青色申告による特典を受けられないのは酷であり、新たに事業を立ち上げようとする努力に対し、萎縮効果をもたらすおそれがあると考えられます。

 

◆問題点3.資産家ほど得をする可能性がある

第三に、資産家ほど得をする可能性があります。

 

すなわち、資産家が副業を行う場合は初期投資額を大きくでき、そのぶん、300万円を超える収入を得やすいといえます。したがって、資産家ほど優遇され、租税の公平性を害する可能性があります。

 

2022年10月7日に公表された意見公募手続の結果に掲載されている意見のなかには、これらの指摘と趣旨を同じくする意見もみられますが、他にも様々な指摘があり、今回の改定案がいかに問題の多いものだったかがわかります。

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