(※画像はイメージです/PIXTA)

加熱式たばこが2022年10月1日から増税されました。また、主要なたばこの銘柄も同じタイミングで値上げされています。今回の増税は、2018年から計画的に実施されてきた一連のたばこ税増税の総仕上げにあたるものです。実は、過去40年でたばこ税の税率は15倍になっています。いったいこれまでどういう経緯でここまで増税されてきたのでしょうか。たばこ税の増税の歴史をみると、わが国の税制の問題点・課題が浮かび上がります。

たばこに重税をかけるのはなぜ許されるか?

このように、たばこ税の税率の高さは、他に類をみないものです。なぜこのような重税をかけることが正当化されるのでしょうか。

 

それには税法理論から理由があります。

 

財務省HPには、2018年以降のたばこ税増税の趣旨について以下の通り記載されています。

 

「高齢化の進展による社会保障関係費の増加等もあり、引き続き国・地方で厳しい財政事情にあることを踏まえ、財政物資としてのたばこの基本的性格に鑑み、たばこ税の負担水準の見直し等を実施します。」

 

この文中に「財政物資」という言葉があります。財政物資とは、ごく嚙み砕いていえば、国の財源確保のため、どの程度税金をかけるかを柔軟に決めてよいものをさします。

 

その前提には「担税力」という考え方があります。財政物資は、担税力が高いものと言い換えることもできます。

 

担税力は、納税者が経済的に顕著な苦痛を感じることなく、かつ、社会的に許容できる範囲で、税金を負担することができることをさします。租税の公平性を確保するうえできわめて重要な指標です。

 

担税力は、以下の2つの要素からなります。

 

・納税者が経済的に顕著な苦痛を感じることがない

・社会的に許容できる

 

たとえば、所得税等で所得区分に応じて段階的に税率を高めていく「累進課税」の制度は、担税力の考え方に基づくものです。

 

上記2つの要素をたばこについてあてはめると、たばこは生活必需品ではなく、特殊な嗜好品です。吸わない人は一生吸うことはありませんし、やめようと思えばやめられます。禁煙治療には健康保険を適用してもらえます。したがって、たばこを吸う人に重税をかけても経済的に顕著な苦痛を感じることは想定しがたいといえます。

 

しかも、がん、心筋梗塞、脳卒中等の数々の病気のリスクを高めるうえ、受動喫煙等の問題もあります。したがって、たばこに重税をかけることは、喫煙の抑止につながり弊害防止に役立ち、医療費の抑制にもつながるので、社会的に許容できるものです。

 

実際に、財務省の資料によると、たばこ税の税収の額は、1985年に1.75兆円だったのが2020年は1.9兆円と、税金が15倍になってもほぼ横ばいです。これは、たばこ税の増税とともにたばこの販売量が減少したこと、すなわち、喫煙の抑止に効果があったことを示しています。

 

以上のことからすれば、たばこ税の過去の増税の経緯は、税法理論にてらして許容できるものといえます。

わが国の税制は「租税の公平性」「担税力」を踏まえているか?

上述したように、税制は、担税力を考慮した公平なものでなければなりません。ひるがえって、たばこ税以外の根幹的な税の分野では、その考え方がきちんと貫かれているでしょうか。

 

税制は、ともすれば、「取りやすいところから取る」という方向へ傾きがちです。たとえば、サラリーマンの給与所得の「源泉徴収」も、消費税の増税も、その発想が多少なりとも含まれていることは否定できません。

 

いずれも昔から、租税の公平性の点で疑問があるとして議論になってきたものです。

 

本記事で取り上げたたばこ税の増税についても完全にその発想がゼロとは断言できないでしょう。

 

また、最近でも、国税庁がサラリーマンの副業について、年間売上300万円以下は原則として雑所得と扱う方針を打ち出し、物議を醸しています。

 

もちろん、税制を組み立てるうえで、いわゆる「取りっぱぐれ」「租税回避」を防ぐということも重要です。しかし、それを考慮するのは本来、あくまでもテクニカルな面にとどめるべきです。重視すべきは「租税の公平性」「担税力」です。

 

私たちは、増税、税制改正が行われるごとに、「担税力」「租税の公平性」という考え方がきちんと踏まえられているか、「取りやすいところから取る」といった安易な考え方に陥っていないか、チェックしていく必要があります。

 

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