「えっ…これ全部、使ったの?」
「信じていたのに、なんで言ってくれなかったの…?」
70歳の川村佐和子さん(仮名)は、数ヵ月前に夫の通帳を整理中、“見たことのない口座”の記帳欄に目を奪われました。記載されていたのは、複数の高額な出金履歴。しかも、その開始時期は、夫・英一さん(72歳・仮名)が会社を退職した直後の2020年春。つまり、退職金として一括で振り込まれた約2,000万円が、わずか数年で“ほぼ消えていた”のです。
「別に贅沢な暮らしをしていたわけじゃない。外食も旅行もめったにしなかったし、年金でなんとかやりくりしていた。まさか、こんな形で使われていたなんて…」
佐和子さんが驚いたのは、その使途でした。記帳された項目には「XXX証券」「XXX投資信託」「暗号資産口座」などが並び、典型的な“リスク投資”に分類されるものばかり。特に2021〜22年の暗号資産バブル時に、夫が“独学で”仮想通貨投資に手を出していたことが後からわかりました。
夫の英一さんは、「大きく増やして、家をリフォームしたかった」と苦笑いを浮かべたといいます。しかし実際には元本の6割以上が目減りしており、残高は数百万円を切っていました。
「年金は月17万円。夫婦でなんとか生活していけるけれど、介護や病気、思わぬ出費が出たら…もう不安で仕方ない」
佐和子さんのように、配偶者の“退職金管理の失敗”が原因で、老後生活が揺らぐケースは近年増えています。厚生労働省によると、2022年度の退職給付額の平均は約1,800万円。ただしその多くが“一括受け取り”であり、ライフプランを考えずに使ってしまうと、あっという間に底をつく可能性があります。
