※画像はイメージです/PIXTA

日本企業同士のビジネスでも比較的頻度の高い債権回収業務ですが、相手が海外企業になると、難易度は一気に上がります。日本の流儀で対応しても、交渉は思い通りに進むとは限りません。国際法務に精通する中村法律事務所の中村優紀代表弁護士が、実際にあった事例をもとに解説します。

日系企業、支払う気のないマレーシア企業に頭を抱える

日本国内であればよく経験されているかもしれない債権回収。海外の企業が相手の場合は、どのようにして回収できるのでしょうか。

 

私が国際弁護士として関与した実際の事例を紹介します(守秘義務の関係で、事実を一部加工してお伝えします)。

 

依頼者は、日系ウェブ広告代理店です。マレーシア企業から依頼を受けて、日本市場向けのウェブ広告を制作し、運用をおこないました。広告運用後、このマレーシア企業に業務委託料を支払請求しましたが、一向に支払がされないため、どうしたらよいかと私の所に相談に来ました。

 

私の方ではまず、依頼者から事案をヒアリングし、業務委託契約書をチェックしました。そして、契約の履行状況を確認し、請求の根拠があることを確かめた上で、直ちに全額の支払いをするよう求めるDemand letterを送付しました。

 

すると相手方から早速反論がありました。反論としては「担当者レベルでウェブ広告の運用に関するコンバージョンレートについて一部保証をしていた」そして「実際の運用報告書を見ると、コンバージョンレートが低いため支払わない」というものでした。

 

私は、契約書には完全合意条項があり、書面によらない口頭の保証は契約としての拘束力を持たない、支払いをしないのであれば訴訟を提起し、遅延損害金も請求すると伝えました。しかし内心は、訴訟は時間と費用がかかるので「素直に支払ってほしいな…」と思っていました。

中華系の経営陣のもとへDemand letterを送付し…

やはり、相手方は支払には応じない姿勢でした。そこで、通常は訴訟や仲裁に移行するのですが、私は、相手方のマレーシア企業の取締役、親会社等を調査して、経営陣は中華系であることを確認しました。

 

中国人はメンツをとても大事にするので、もしかすると、一担当部署が、広告の成果がうまく出なかったこと、それなのに支払いを請求されていることを経営陣や親会社に報告せず、このまま支払いもせずに済ませようとしているのかもしれないと推測しました。

 

そこで、私は、登記情報等を元に判明した取締役の自宅や親会社宛てにもDemand letterを送付して、子会社が不誠実な対応をしていることを示し、日本市場で今後もビジネスをおこなっていきたいのであれば、日本企業からの信用が損なわれる前に全額支払うよう求めました。

 

そうしたら数日後、案の定、マレーシア企業から全額の支払をおこなうとの連絡を受けたのです。日本市場でのレピュテーションリスク等を考慮したのかもしれませんが、相手方において何があったかはわかりません。

 

この案件から得られたこと、それは、相手方の属する国の思想背景、文化、ビジネス慣習等を踏まえて、解決へのアプローチを必死で考えることでした。日本では訴訟をすればいいと思いがちですが、そのような一辺倒な考え方は海外では通じません。海外に進出したら、海外ならではの処世術があります。日本の皆様におかれては、海外取引を重ねるごとに学び、成長を続けて頂きたいと思います。

 

※こちらの原稿内容は執筆時点のものです。法改正、制度変更等の最新情報は、アメリカの法律・税務に詳しい専門家にご相談ください。

 

 

中村 優紀
中村法律事務所 代表弁護士
ニューヨーク州弁護士

 

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