アメリカ在住の親族、死去…現地で相続手続きが開始
ご自身の親族がアメリカに住んでいるという方、いらっしゃると思います。それでは、その親族の方が万一亡くなった時に備えて、皆様はいまのうちから何か準備をされていますでしょうか。アメリカで相続手続きが始まった場合にどう対応すればいいか、いまから考えていますか。
アメリカでは、「TODD(Transfer On Death Deed、死亡時譲渡証書)」や「信託(Trust)」の設定等、一定の手続きをしていないと、「プロベート」という、日本にはない相続手続きがアメリカで始まります。プロベートの具体的内容については、記事『アメリカ不動産の相続手続き…「プロベート」「遺産税」の概要』で取り上げていますのでご参考ください。
このプロベートは、アメリカの裁判手続きになりますので、日本人に馴染みのある「相続人間の話し合いで遺産分割をする」というやり方とはまったく異なります。そして、そのプロベートは、自分の知らない人物によって、不意のタイミングで開始されることもありえるので、注意が必要です。
えっ、隣人が勝手に「プロベート」を申し立てている!
プロベートは、裁判所に申立(Petition)をすることで開始されますが、申立先となる裁判所は、亡くなった方が住む地域を管轄している州裁判所になります。州裁判所は、「Surrogate’s court」や「Probate court」「Superior court」等、州によって名称が異なります。
そして、申立ができる方(Petitioner)ですが、一般的には遺言の執行者(Executor of will)、被相続人の親族(Relative)、または被相続人の受益者(Beneficiary)であれば申立てができます。受益者というのは、被相続人が残した遺言(Will)で遺産の全部または一部について受贈者として指名されている者をいいます。
しかし、実際には、上記のいずれにも該当しない者が申立をしてくることもあるので留意が必要です。たとえば、被相続人の隣の家に住んでいる方が、生前から被相続人の世話をしていて、亡くなった時の葬儀を手配したという流れから、その隣人がプロベートの申立もすることがあるのです。
冗談ではなく、「ウソでしょ、お隣さんが勝手に、私の父の相続手続きを進めてるんだけど!」といった事態もありえます。
しかも、被相続人の親族として誰がいるのか、遺言があるか、といった基本的事項について把握をしないまま、時には誤った情報を元に裁判所に申立をしてしまうことがあります。
誤った申立は、裁判所に「異議」を!
誤ったプロベート申立が第三者からされてしまった場合、親族は、それを訂正して正しい情報の下で相続手続きを進めていく必要があります。
具体的には、親族は「異議(Objection)」を裁判所に対しておこなうことができます。たとえば、遺言は「訂正(Amendment)」された最新のものがあるとか、日本に生存している親族としてこの人物がいるといった正しい情報を記載した書面を裁判所に提出することになります。
または、そもそも遺産が信託に入っているのでプロベート手続き自体が不要であるということであれば、信託の存在を主張して、第三者の「プロベート申立の却下(Dismissal)」を求めることもできます。
裁判対応は慎重に、書類提出の期日は必ず順守を
逆にいうと、そのような裁判上の手続きを適切におこなわないと、間違った事実関係の下でプロベートが進み、親族ではなく第三者が遺産を得るようなことにもなりかねません。なお、プロベートは裁判手続きなので、第三者に対してプロベート申立を取り下げるよう、裁判外で直接文書や口頭で要求しても意味はありませんのでご注意ください。
このように、プロベートの申立がされた場合には、裁判所に対して、しっかりと正確な事実を伝える異議を書面で作成して、期日までに提出をする必要があります。そのため、プロベートへの対応については、現地の弁護士を起用することを推奨しています。
むずかしい…現地の弁護士選びと、報酬額の見極め
ただし、現地弁護士を起用するにも、まずはその州でプロベート手続きに詳しい弁護士を探しだす必要があります。また、その弁護士報酬や見積についても正確に把握しておかないと、不測の支払いを求められることになります。そして、それらの現地弁護士とのやり取りを英語で対応していくことが求められます。
現地弁護士の選任やその弁護士の見積の妥当性、そしてその後の弁護士とのやり取りについて不安がある場合には、ぜひ専門家に問い合わせをすることをおすすめします。
肝心の手続きがわからなかったり、英語に不慣れな理由で誤った情報をベースに裁判が進んでしまったりすると、せっかくの故人の思いが実現できないことになります。
相続手続きは故人の思いを実現するために大切な手続きですので、海外で相続手続きがありうるのであれば、現地相続手続きのインプット、そしていまのうちに対応すべきことを専門家に聞いておくことがよいでしょう。
中村 優紀
中村法律事務所 代表弁護士
ニューヨーク州弁護士
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