※画像はイメージです/PIXTA

仕事の関係等でアメリカに長期滞在していた方のなかには、現地に証券口座をお持ちの方もいるでしょう。しかし、その後帰国するなどして口座を寝かせていると、州政府に移管されてしまう場合があります。しかしこれは、泣き寝入りの必要はなく、手続きを踏めば取り戻すことができます。国際法務に精通する中村法律事務所の中村優紀代表弁護士が解説します。

アメリカで資産を放置→「州政府に移管された!?」

アメリカに証券口座をお持ちの方、証券口座に株式や資金が残ったまま、長年放置していませんか? 配当が小切手(check)で付与されていながら、受け取らずに証券口座に置いたままになっていませんか?

 

以前、アメリカに残っている銀行口座について一定期間取引がないと州政府に移管されるというお話をしました(『「海外に残した銀行口座」を解約・返金する方法は?…カリフォルニアの銀行口座の場合【弁護士が解説】』参照)。

 

実はアメリカでは、銀行口座だけではなく証券口座についても、住所の変更で連絡が取れなくなったり、休眠状態が続いたり、といったことがあると、州政府に移管されてしまう場合があります。州政府に移管された資産は、アメリカでは一般的に「unclaimed property(未請求資産)」と呼ばれています。

 

「Unclaimed property」に対しては「claim(請求)」をすることで回収ができます。

動きのない口座は「未請求資産」扱いされ、移管される

アメリカの多くの州では、証券会社は、長年動きのない証券口座がある場合、「abandoned account(放棄された口座)」として州政府に移管するよう義務付けられています。何年間動きがないと州政府に移管されるのかは、個別の州や具体的事情により異なります。

 

口座の動きがないと、証券会社や従業員株式を管理している会社等は、口座名義人に連絡を求める通知書面を送ってきます。そして口座名義人が、それに気づかない、または無視をしていると「abandoned account」として州政府に移管され、「unclaimed property(未請求資産)」とされてしまうのです。

 

書面に気づかなかったとか、アメリカから日本への国際郵便なので書面の到達が遅れた、といったことは、残念ながら移管を止める理由にはなりません。

 

また、どこの州政府に移管されるのかというのも、資産の内容により異なります。アメリカの銀行口座の場合、口座を開設した州の政府に移管されるのが通常と思われます。一方、アメリカ証券口座だと、たとえば株式の配当が小切手で保管されている場合は、当該株式銘柄の株式会社の設立州に移管されることになります。

州政府への移管は「資産の没収」ではないので心配ない

ご安心頂きたいのは、州政府に移管されたからといって、資産が没収されたというわけではないということです。また、時効を心配する方もおられますが、数十年前の資産についても回収できた事例もあります。

 

それでは、実際に州政府に対し「unclaimed property」の払い戻しを請求する方法はどのようになっているのでしょうか。

 

日本人だとあまり馴染みのない手続だと思いますが、例えば、

 

日本人社員がアメリカに駐在中、従業員持株会を通じて勤務先企業の株式を保有しており、その後売却したものの、売却金をしばらく小切手で受け取らずにいたところ、亡くなってしまった。

 

というケースを考えてみます。

 

その会社の設立州がニューヨーク州で、そちらに移管がされてしまった場合には、遺族は、ニューヨーク州政府、具体的には「Office of Unclaimed Funds (OUF) 」にコンタクトして、自らが権利者であることを伝えます。そうすると、OUFからは、権利者であることの証明のため、主に以下の書類を提出するよう求めてきます。

 

1.亡くなった方の死亡証明書

2.日本の弁護士による意見書(日本の相続手続、そして本件について日本の相続法に基づく各相続人の権利割合等を説明したもの)

3.相続人であることを示す法定相続情報または戸籍謄本

4.各相続人からのunclaimed propertyへの請求書面

 

いずれの書面も英語で作成する必要があり、日本語の証明書であれば翻訳をして、さらに翻訳証明をつける必要があります。そして、アメリカ大使館、領事館で公証(notarization)を行う必要があることに注意が必要です。

 

すべての書類をそろえて提出すると、ニューヨーク州政府が審査を行います。無事に問題ないと認められると、小切手が送られてきます。審査の時間ですが、少なくとも3カ月~半年程度は見ておいたほうがいいと思います。

 

また、ニューヨーク州の場合、送金での払い戻しは受け付けられず、小切手の郵送しか行ってくれない可能性が高いといえます。そのため、ニューヨーク州に「unclaimed property」の請求をする場合には、日本側で小切手の預入をしてくれる金融機関を予め探し、そこで口座開設を進めておくとよいでしょう。

アメリカ州政府が相手でも、請求は可能

「unclaimed property(未請求資産)」には、銀行口座、証券口座以外にも、アパートや光熱費のデポジット、税金の払戻金、未払賃金などがあります。これらが州政府に移管されると知った途端、「政府が相手か…」と諦めてしまう方もおられます。

 

しかし、各州政府は、請求に対応する窓口を設けています。ぜひご自身の資産が移管された州を特定し、そこの州政府のウェブサイトを調べてみてください。手続の案内や、問い合わせ窓口もあります。英語に不慣れな場合、また手続に不安のある方は、専門家を通じて手続きを行うといいでしょう。

 

 

中村 優紀
中村法律事務所 代表弁護士
ニューヨーク州弁護士

 

【関連記事】

■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」

 

■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ

 

■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】

 

■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】

 

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧