※画像はイメージです/PIXTA

相続手続はただでさえ煩瑣なものですが、アメリカに遺産があるとさらに大変です。今回は、カリフォルニアに銀行口座を持つ方が亡くなった場合、日本在住の相続人が、アメリカ特有の面倒な相続手続である「プロベート」を回避し、速やかに相続する方法を紹介します。国際法務に精通する中村法律事務所の中村優紀代表弁護士が解説します。

アメリカにある遺産を、速やかに整理・日本円にしたい

投資先としてのアメリカは、力強い経済成長やドルの強さに支えられた魅力的なエリアだといえます。しかし、万一アメリカで財産を所有されている方が亡くなってしまうと、アメリカ特有の遺産相続手続である「プロベート手続」によって、相続に多額の費用と数年間の時間を費やす可能性があります(プロベート手続については、『アメリカ不動産の相続手続き…「プロベート」「遺産税」の概要』を参照ください)。

 

大幅な円安時期となっている昨今のような状況の中で、機動的に相続財産を売却したい、相続したドルを日本円に両替したいと思っても、数年間を費やしてしまっては、そのチャンスを逃すことになります。また、故人が数年前に亡くなっているにもかかわらず、相続を未だに終えることができないというのも、残された遺族の方々にとって精神的負担が大きいものです。

 

これまでの記事でも、生前にTODやPODを設定することで、プロベート手続を回避する方法をご紹介してきましたが、財産所有者が亡くなったあとに、相続人の方が弊所に相談に見えるケースは少なくありません。

 

例えば、以下のような相談です。

 

夫が日本で死亡しました。夫はカリフォルニアに赴任していた時期があり、その時にカリフォルニアの銀行で口座を開設していました。日本帰国後もそのままにしていて、今に至ります。銀行にPODの手続はしていません。大した金額は残っていないのですが、やはりプロベート手続が必要になるでしょうか。もっと、早く銀行の残金を回収できる方法はないでしょうか?

 

ここでの問題は「通常、PODをしていないと、銀行口座残高を相続するにはプロベートが必要になるが、カリフォルニア州でプロベート以外の手続が用意されてないのか?」という点になります。

 

その答えはYesです。カリフォルニア州では、少額の資産であれば、短期間で相続できる方法として以下2つの手続が用意されています。

 

①宣誓供述書による方法(Small Estate Affidavit)

遺産の合計価額が166,250ドル(2022年4月1日以降の死亡の場合は184,500ドル)以下の場合には、相続人による被相続人の死亡証明書等を添付した宣誓供述書の作成によって、プロベート手続を回避して相続することが可能です。作成した宣誓供述書は裁判所を通すことなく、金融機関等に提出します。なお、被相続人の死亡から40日間はこの手続は利用できません。

 

ただし、この手続は不動産の相続には使用できません。相続財産に不動産が含まれる場合、次の②の方法を検討することとなります。

 

②請願書による方法(Small Estate Probate Procedures)

遺産の合計価額が16万6,250ドル(2022年4月1日以降の死亡の場合は18万4,500ドル)以下の場合には、裁判所に不動産の鑑定書等を添付した請願書を提出することによってプロベート手続を回避し、裁判所の決定によって不動産等の相続財産を取得することが可能です。

 

なお、①と同じく、被相続人の死亡から40日間はこの手続は利用できません。また、①と比べると、他の相続人へ裁判所から通知を出す必要があるなど、時間を要するようです。

日程は圧縮できるが、国内の相続人のみでの対応は困難

以上の手続は、プロベート手続に比べれば、相続までの日数や費用を大幅に削減することができます。ただし、とくに上記①については、対象銀行の窓口担当者との直接のやり取りが生じ、必要書類を様々求められます。そのため、日本国内に居住される相続人の方のみで行うには相当な困難が生じます。

 

なかには、歴史ある日本の法律事務所が前任として関与していたものの、日本からアメリカの銀行と連絡、折衝をするのに苦労してついに断念し、依頼者が困って弊所に来られたこともあります。前任の弁護士は、最後「もう1つ書類があると完了なのですが…」とつぶやいていたそうです。この案件については、弊所にはすでに同様の手続きの経験値があること、また、ベテランのカリフォルニア州の弁護士と提携していたことから、速やかな解決に至りました。

 

以上、2つの手続をご紹介しましたが、相続人の相続財産が16万6,250ドル(2022年4月1日以降の死亡の場合は18万4,500ドル)を超える場合には、やはりプロベート手続が必要となることを、改めて強調しておきたいと思います。

 

※こちらの原稿内容は執筆時点のものです。法改正、制度変更等の最新情報は、アメリカの法律・税務に詳しい専門家にご相談ください。

 

 

中村 優紀
中村法律事務所 代表弁護士
ニューヨーク州弁護士

 

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