※画像はイメージです/PIXTA

コロナ禍、アメリカではオンラインによる公証手続が急速に広まっています。公証はアメリカでも広く行われており、アメリカで不動産を売買する場合など、必ずついて回ります。アメリカは日本と違って公証役場が存在せず、有資格者が構えたオフィスに赴いて手続を依頼しますが、これがオンラインで完了できることになり、利便性が一気に向上しました。国際法務に精通する中村法律事務所の中村優紀代表弁護士が解説します。

コロナ禍、アメリカで広まっているオンライン公証手続

読者の皆さんは「RON」という言葉をご存じでしょうか。RONとは、コロナ禍においてアメリカで広まっているオンラインの公証手続(Remote Online Notarization)のことをいいます。

 

そもそも公証(Notarization)とは、公証人が、私文書の作成者の署名又は記名押印の証明をする手続をいいます。日本では、遺言を残すときに公証役場で公正証書遺言を作成したり、協議離婚をする際に夫婦で合意した諸条件を公正証書に残すことがありますが、これが公証手続きです。

 

公証役場は全国各地にあり、元裁判官等が定年退職後の仕事として公証人になり、公証業務をおこなっています。ちなみにどこの公証役場であっても、公証の料金は同じです。

 

公証はアメリカでも広くおこなわれています。例えば、日本人がアメリカ不動産を購入した場合、プロベートという煩雑な相続手続きを回避するため、Transfer on death deed(TODD)の登記(Recording)をおこなうことがありますが、この登記書類を作成する際に公証をおこないます。

 

アメリカでは、公証役場といった公的な施設があるわけではなく、資格を有する公証人(Notary officer)が各自業務をおこなっています。公証が必要な場合、公証人がいるオフィスに赴いて公証をおこないます。価格も公証人により異なります。

 

日本にいながらアメリカ向けの文書について公証が必要になった場合は、東京の虎ノ門にあるアメリカ大使館の他、日本国内にあるアメリカ領事館にて公証をおこなうことができます(ちなみに公証の費用は$50)。

 

しかし、コロナ禍において、アメリカ大使館の業務は制約されているため、公証の予約はとりづらく1ヵ月先になることもあります。そこで、現在注目されているのが、冒頭で述べたRONです。RONを利用することで、アメリカ大使館に行かなくても、オンラインで公証人と面談をおこない、署名もおこない、自宅にいながら公証手続を完了させることができます。

 

現在アメリカでは、過半数の州で公証人がRONを実施することが認められています。そのため、アメリカ向けの文書について公証が必要な場合は、ぜひRONを活用されることをお勧めします。特に、コロナ禍においていつ自分に何が起こるかわからない、という状況になっているため、アメリカ不動産を購入後、プロベートを回避するため、TODD をされる方が増えています。

 

このTODDの文書作成には公証が必要ですが、RONを活用することでスムーズな手続が可能になったと言えるでしょう。

地方在住の高齢者、自宅のPCを使って10分で完了

筆者がサポートした案件では、依頼者が地方に居住されているご高齢の方で、アメリカ大使館に出向くことが難しかったことから、RONを選択しました。RONに対応しているアメリカの公証人は、インターネットで検索するとたくさん出てきます。

 

公証人との面談ができる時間帯が30分間隔で表示されており日程調整がしやすいこと、1つの書類あたり$25と費用が安いこと(アメリカ大使館で対面にて公証をおこなう場合は$50)から、以下の業者に依頼をしました。

 

Online notary services – OnlineNotary.us

https://www.onlinenotary.us/

 

当日は、依頼者本人にオンライン会議のURLをクリックしてもらい、公証人の案内に従って本人確認をしてから、画面上でサインをしてもらい10分程度で終了しました。

 

面談後、クレジットカードで支払いを済ませると、公証済の文書をPDFでダウンロードできました。これで終わりです。日本の自宅にいながらアメリカの公証手続を済ませられる、そんな時代がついに来たんだなと妙に感慨深い気持ちになりました。

「RON」を活用するにあたっての留意点

留意点ですが、公証が完了したPDF文書は、e-recordingという形で、これまたオンライン手続によって登記を完了させることになります。登記書類は郵送するのが一般的ですが、RONにより公証した文書は、プリントアウトしたものは原本とは扱われず、登記書類として受理されないのでご注意下さい。

 

最後に、公証人がRONを実施できるのと、RONにより公証された文書を受け付けるかは別であることにも注意が必要です。たとえば、カリフォルニア州では、現在RONを導入する法案(AB1093)が審議中のため、カリフォルニアの公証人はRONを実施していません。

 

ただ、カリフォルニア州所在の不動産のTODDを、他州の公証人によるRONをおこなった場合、カリフォルニア州がそれを受け付けるかは不明とされています(カリフォルニアの公証人に確認済)。

 

RONの導入状況はアメリカの州ごとに異なっており、現地の最新情報をアップデートする必要がありますので、アメリカ向けの文書の公証をご検討の方は、アメリカの事情と法律にくわしい専門家への相談をお勧めします。

 

※こちらの原稿内容は執筆時点のものです。法改正、制度変更等の最新情報は、アメリカの法律・税務に詳しい専門家にご相談ください。

 

 

中村 優紀
中村法律事務所 代表弁護士
ニューヨーク州弁護士

 

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