1〜2週間前の告知で、時給の変更は可能?
中小企業で労務を担当している相談者は、個人事業主と業務委託契約を結び、時給を支払い業務を依頼することがあるそうです。
しかし時給を変更することが度々あるため、業務の実情を踏まえると、契約書の内容を変更し短い期間で時給を変更できるようにしたいと考えています。
現在の業務委託契約書では、時給を定めたうえで「期間満了の1ヵ月前までに甲乙いずれかから書面による本契約終了の意思表示がない限り、期間満了の翌日から1ヵ月毎に自動更新されるものとする。」としています。
このため、時給を変更する月の前々月にはその旨を告知して契約書を再締結する必要があります。
そこで、たとえば来月1日から時給を変更したいという場合に、1〜2週間ほど前でも変更できるような形で契約を結ぶことは可能なのか、ココナラ法律相談「法律Q&A」で相談しました。
実際に上記のような対応に、法的な問題点はあるのでしょうか。
合意は可能と考えられるが、下請法に注意
1〜2週間ほど前の時給変更について、合意をすること自体はできると考えられます。
ただし、合意後に時給を下げようとするような場合には(時給を上げるような場合には問題は現実化しないだろうと思います)、下請代金支払遅延等防止法(以下、「下請法」といいます)との関係で注意が必要です。
下請法上の下請事業者には、個人事業者も含むとされており、相談者の会社の規模や委託業務の内容等によっては、下請法が適用される可能性があります。
当該取引において下請法が適用される場合には、親事業者は業務委託時に、下請代金について明確にした書面を交付する必要があります(下請法3条1項)。
したがって、時給が変動するならば、業務委託契約成立時点において、その具体的金額や基準を事前に書面にして示しておく必要があります。
また、親事業者は、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減じてはならないとされており(下請法4条1項3号)、同じような業務を委託する場合には、時給を減額することが許されません。
仮に下請事業者との合意があったような場合でも、これは認められていません。
下請法違反があると、当該合意の有効性に疑義が生ずるだけではなく、公正取引委員会による勧告や検査が実施される可能性、さらには罰金が科される可能性もありますので、十分に留意する必要があります。
業務実態によっては雇用契約だと判断される可能性も
上記回答は、業務委託契約であることを前提としたものとなりますが、事案によっては、契約書において業務委託契約と記載していた場合でも、業務実態としては労働者であり、したがって、雇用契約として労働法規が適用されるような場合があります。
業務委託契約か、労働法規が適用される雇用契約かについては(厳密には、労働基準法上の「労働者」かどうか)、旧労働省労働基準法研究会の報告書『労働基準法の「労働者」の判断基準について』(昭和60年12月19日。以下「昭和60年報告」といいます。)で示された基準が存在し、多くの裁判例もこの基準に沿って判断をしています。
具体的には、仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無や、業務遂行上の指揮監督の有無、勤務場所及び勤務時間の指定の有無、業務提供の代替性の有無等を踏まえて労働者性が判断されることになります。
上記の質問で、仮に雇用契約であると判断された場合には、労働条件の不利益変更にあたる賃金の減額は、十分な説明をしたうえで、労働者の自由意思に基づくといえるような場合でない限り、無効になると考えられます。
その他にも雇用契約とされた場合には、労働基準法等による労働時間についての規制に服することになり、法定時間外労働があるような場合には、割増賃金を支払わなくてはならなくなります。
契約関係を解消したいという場合においても、厳格な解雇規制が適用されることになり、容易に契約を解除できないこととなります。
契約の名称如何にかかわらず、労働者性は実態に照らして判断されますので、業務拡大に伴いアウトソーシングをするという場合には、この点について十分に留意する必要があります。