1.概観
【株式】
8月の主要国の株式市場は高安まちまちとなりました。米国株式市場は、消費者物価指数などの物価指数がインフレ圧力の低下を示したことから、月中旬にかけて上昇しましたが、月下旬のジャクソンホール会議で、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が利上げを継続する意向を改めて示したことを受けて急反落し、月間では下落しました。欧州の株式市場は、欧州中央銀行(ECB)による大幅な利上げや景気減速の観測が高まったことから、下落しました。一方、日本の株式市場は、円安による業績改善期待もあり、小幅高で終了しました。中国株式市場は、不動産市況の低迷やコロナ対策の行動制限などから景気への警戒感が強まり、上海総合指数、香港ハンセン指数ともに下落しました。
【債券】
米国の10年国債利回り(長期金利)は、FRBが景気よりもインフレ抑制を優先し、金融引き締めを長く続けるとの見方が強まったことから、再び大きく上昇しました。ドイツの長期金利は、インフレ率の上昇に加えて、天然ガス価格の急騰を受けて、ECBが9月にも大幅な利上げを実施するとも見方が強まり、大きく上昇しました。日本の長期金利も、欧米の長期金利上昇を受けて上昇しました。
【為替】
円相場は、米長期金利の上昇による日米金利差拡大を受けて、対米ドルで再び下落基調となり、138円台で終了しました。
【商品】
原油価格は、世界の中央銀行の利上げによる景気悪化懸念に加え、中国景気の減速観測が高まったことから、下落しました。
2.景気動向
<現状>
米国の2022年4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率▲0.6%となりました。物価高で個人消費が減速し、2期連続のマイナス成長となりました。
欧州(ユーロ圏)の2022年4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.5%となりました。経済再開により5四半期連続のプラス成長となりました。
日本の2022年4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.2%となりました。新型コロナ対策のまん延防止等重点措置解除で消費が回復しました。
中国の2022年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+0.4%となりました。上海市などのロックダウンの影響により前四半期から急減速しました。
豪州の2022年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+3.3%でした。輸入急増で純輸出はマイナスに寄与したものの、個人消費は堅調でした。
<見通し>
米国は、物価高による実質所得の目減りを受けて消費が停滞することや、FRBによる大幅な利上げを受けて金融環境が引き締まることから、22年後半から23年にかけて減速するとみられます。ただし、過剰設備や金融バブルがみられず、雇用が堅調なことから、マイナス成長が続く可能性は低いとみています。
欧州は、供給制約やガス不足による製造業の停滞、エネルギー・食品価格の上昇による実質所得の減少などから、22年後半から23年初にかけて小幅なマイナス成長に陥るとみられます。ただし、コロナ禍で蓄積された貯蓄を活用する余地や財政措置、雇用の増加などから景気腰折れは回避されるとみています。
日本は、コロナ感染再拡大により経済活動の再開が足踏みするものの、設備投資の回復や中国景気の持ち直し、経済政策の効果に支えられ、内需を中心に回復するとみています。ただし、23年前半は欧米を中心とした海外景気の減速により鈍化する見通しです。
中国は、政府が景気対策を発動することから、22年後半に景気は持ち直すものの、不動産市況の低迷やゼロコロナ政策の堅持が足かせとなり、回復ペースは力強さを欠くとみられます。
豪州は、コロナ対策の制限が解除され、経済再開による景気回復の流れが続く見通しです。ウクライナ情勢の影響は限定的と考えられ、コロナ禍で蓄積された貯蓄、堅調な雇用、良好な交易条件、企業の前向きな設備投資により、回復基調が続くとみています。
3.金融政策
<現状>
FRBは、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を1.50~1.75%から2.25~2.50%へ、2会合連続で0.75%引き上げました。パウエルFRB議長は8月のジャクソンホール会議で、高インフレの抑制に向けて金融引き締めを長く続ける意向を強調しました。ECBは7月の理事会で、預金ファシリティ金利を▲0.5%から0.0%へ引き上げました。インフレが上振れたため、前回6月の理事会で予告していた0.25%を上回る利上げ幅となりました。日銀は7月の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策を維持しました。記者会見で黒田日銀総裁は利上げの可能性について明確に否定しました。
<見通し>
FRBは、景気よりもインフレ抑制を優先し、今後もFOMCごとに利上げを実施すると想定しています。9月と11月に0.50%、12月と来年1月に0.25%の利上げを行い、3.75~4.00%の水準まで政策金利を引き上げると見込んでいます。ECBも、エネルギー価格の上振れによるインフレ抑制のため、大幅な利上げを行う見通しです。9月に0.75%、10月と12月に0.5%、来年1~3月に計0.5%の利上げを実施すると見込んでいます。一方、日銀は、物価が相対的に低位にあるなか、現行の大規模金融緩和を継続する見通しです。
4.債券
<現状>
米国の10年国債利回り(長期金利)は、FRBが景気よりもインフレ抑制を優先し、金融引き締めを長く続けるとの見方が強まったことから、大きく上昇しました。7月末に2.6%台だった米長期金利は、堅調な雇用統計などを受けて月初からじりじりと上昇し、月中旬には、FRB高官からタカ派的な発言が相次いだことから、3.0%台に上昇しました。その後も、ジャクソンホール会議でパウエル議長が利上げを継続する姿勢を改めて示したことを受けて、月末にかけて3.1%台に上昇しました。ドイツの長期金利も、インフレ率の上昇に加えて、天然ガス価格の急騰を受けて、ECBが9月にも大幅な利上げを実施するとも見方が強まり、大きく上昇しました。日本の長期金利は、欧米の長期金利上昇を受けてやや上昇しました。投資適格社債については、国債と社債の利回り格差が小幅に縮小しました。
<見通し>
米国の長期金利は、FRBの金融引き締めが続くなかで上昇圧力を受けるものの、大幅利上げに伴い景気減速が意識されるため上昇余地は限られ、もみ合う展開を予想します。欧州の長期金利は、エネルギー価格上昇に伴うインフレ圧力によりECBが金融引き締めを進めるなか、緩やかに上昇する展開を予想します。日本の長期金利は、日銀の大規模金融緩和策が継続されるため、低水準での横ばい推移が続くと予想します。
5.企業業績と株式
<現状>
S&P500種指数の7月の1株当たり予想利益(EPS)は237.9で、前年同月比は+11.5%(前月同+13.0%)となりました。前月比では辛うじて+0.3%(前月同▲1.2%)ですが、頭打ち感は拭えませんでした。一方、TOPIXの予想EPSは156.7で、伸び率は同+18.1%(前月同+23.4%)でした。8月の米国株式市場は、月前半、物価に対する楽観的な期待や景況感の大幅な悪化から、将来の金融緩和を先取りする展開となりました。しかし、下旬は26日のジャクソンホール会議で、パウエルFRB議長が厳格な金融政策運営を表明したことなどから、金融緩和期待が一気に薄れ、株価は大幅な調整を余儀なくされました。米国の主要3指標は、NYダウが前月比▲4.1%、S&P500種指数が同▲4.2%、NASDAQ総合指数が同▲4.6%でした。一方、日本株式市場も、パウエル議長の発言を受けて大幅に調整したものの、円安ドル高の進行や、経済再建期待などに支えられ、騰落率は月間ペースでプラスとなりました。日経平均株価は前月比+1.0%、TOPIXは同+1.2%でした。
<見通し>
S&P500種指数採用企業の22年4-6月期の増益率(当期利益)は前年同期比+8.5%、除くエネルギーセクターベースで同▲2.2%でした(8月26日。リフィニティブ集計)。また、8月初めの段階で辛うじてプラスを維持していた7-9月期の増益率予想(除くエネルギーセクター)は今回同▲1.4%の減益に下方修正されました。さらに年間予想は22年が前年比+7.9%、23年が同+8.0%といずれも前月より下方修正となりました。一方、TOPIX採用企業の4-6月期決算発表(前年同期比)は概ね堅調となりました(9月1日現在。除く金融、ソフトバンク。QUICK集計)。売上高は+15.4%(製造業+12.9%、非製造業+18.7%)、営業利益は+2.4%(製造業▲6.6%、非製造業+22.9%)、経常利益は+17.3%(製造業+5.3%、非製造業+37.0%)、当期利益は+19.4%(製造業+2.3%、非製造業+48.7%)でした。いずれも非製造業が好調となりました。今後は米国景気の減速と米国企業業績のもう一段の下方修正が予想される中、日本企業の業績見通しにも注目が集まりそうです。
6.為替
<現状>
8月の円相場は主要通貨に対し下落しました。月初に円は対米ドルで131円台に上昇しましたが、その後は米長期金利が上昇に転じたことで、日米金利差の拡大を意識した円売り・ドル買いが優勢となり、再び下落基調となりました。ジャクソンホール会議でパウエル議長が利上げを継続する意向を示し、米長期金利が3.1%台に上昇するなか、円は月末にかけて下落し、138円台後半で終了しました。円は対ユーロでも、ECBの大幅利上げ観測が強まったことから下落し、139円台で終了しました。ただ、ユーロは対ドルで景気減速懸念から弱含んだため、下落幅は米ドルに比べ小幅でした。また、円は資源国通貨とされる豪ドルに対して95円台に下落しました。
<見通し>
円の対米ドルレートは、緩やかな下落を予想します。日米の金融政策の方向性の違いや資源価格高に伴う日本の貿易収支悪化から、円安圧力は継続すると考えられます。ただし、先行き米国の景気とインフレがピークアウトする見通しであることから、米ドルの上値は徐々に抑制されてくるとみています。円の対ユーロレートは、緩やかな下落を予想します。ユーロは、欧州復興基金による景気回復やインフレ上昇によるECBの金融引き締めから徐々にレンジを切り上げるとみています。また、円の対豪ドルレートも緩やかな下落を予想します。ウクライナ情勢に伴う資源価格の堅調推移が豪ドルをサポートするとみています。
7.リート
<現状>
8月のグローバルリート市場(米ドルベース)は下落しました。月前半は株式市場が堅調な展開となるなか、投資家のリスク選好姿勢が高まったことから上昇しましたが、月後半は、FRBの金融引き締めが長期化するとの見方が強まり、米長期金利が大きく上昇したことを嫌気して、月間では下落しました。S&Pグローバルリート指数(米ドルベース)のリターンは前月末比▲6.3%となりました。また、為替効果がプラスに寄与し、円ベースは同▲2.8%となりました。
<見通し>
米国リート市場は、FRBによる金融政策の引き締め加速により景気減速が意識されるなか、投資家の慎重姿勢は継続するとみられるため、当面不安定な動きが続くと思われます。ただし、米国経済は低成長ながら底堅く推移すると想定していることから、米国リート市場は中長期的には緩やかに上昇するとみています。欧州リート市場は、短期的にはウクライナ情勢やエネルギー不足を懸念して上値の重い展開を想定しますが、中長期では財政支出による景気回復とともに持ち直すとみています。日本リート市場は、経済再開の動きから上昇するとみています。アジア・オセアニアリート市場は、景気回復に伴いシンガポール中心に上昇するとみています。
8.まとめ
【債券】
米国の長期金利は、FRBの金融引き締めが続くなかで上昇圧力を受けるものの、大幅利上げに伴い景気減速が意識されるため上昇余地は限られ、もみ合う展開を予想します。欧州の長期金利は、エネルギー価格上昇に伴うインフレ圧力によりECBが金融引き締めを進めるなか、緩やかに上昇する展開を予想します。日本の長期金利は、日銀の大規模金融緩和策が継続されるため、低水準での横ばい推移が続くと予想します。
【株式】
S&P500種指数採用企業の22年4-6月期の増益率(当期利益)は前年同期比+8.5%、除くエネルギーセクターベースで同▲2.2%でした(8月26日。リフィニティブ集計)。また、8月初めの段階で辛うじてプラスを維持していた7-9月期の増益率予想(除くエネルギーセクター)は今回同▲1.4%の減益に下方修正されました。さらに年間予想は22年が前年比+7.9%、23年が同+8.0%といずれも前月より下方修正となりました。一方、TOPIX採用企業の4-6月期決算発表(前年同期比)は概ね堅調となりました(9月1日現在。除く金融、ソフトバンク。QUICK集計)。売上高は+15.4%(製造業+12.9%、非製造業+18.7%)、営業利益は+2.4%(製造業▲6.6%、非製造業+22.9%)、経常利益は+17.3%(製造業+5.3%、非製造業+37.0%)、当期利益は+19.4%(製造業+2.3%、非製造業+48.7%)でした。いずれも非製造業が好調となりました。今後は米国景気の減速と米国企業業績のもう一段の下方修正が予想される中、日本企業の業績見通しにも注目が集まりそうです。
【為替】
円の対米ドルレートは、緩やかな下落を予想します。日米の金融政策の方向性の違いや資源価格高に伴う日本の貿易収支悪化から、円安圧力は継続すると考えられます。ただし、先行き米国の景気とインフレがピークアウトする見通しであることから、米ドルの上値は徐々に抑制されてくるとみています。円の対ユーロレートは、緩やかな下落を予想します。ユーロは、欧州復興基金による景気回復やインフレ上昇によるECBの金融引き締めから徐々にレンジを切り上げるとみています。また、円の対豪ドルレートも緩やかな下落を予想します。ウクライナ情勢に伴う資源価格の堅調推移が豪ドルをサポートするとみています。
【リート】
米国リート市場は、FRBによる金融政策の引き締め加速により景気減速が意識されるなか、投資家の慎重姿勢は継続するとみられるため、当面不安定な動きが続くと思われます。ただし、米国経済は低成長ながら底堅く推移すると想定していることから、米国リート市場は中長期的には緩やかに上昇するとみています。欧州リート市場は、短期的にはウクライナ情勢やエネルギー不足を懸念して上値の重い展開を想定しますが、中長期では財政支出による景気回復とともに持ち直すとみています。日本リート市場は、経済再開の動きから上昇するとみています。アジア・オセアニアリート市場は、景気回復に伴いシンガポール中心に上昇するとみています。
※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『先月のマーケットの振り返り(2022年8月)』を参照)。