1.概観
【株式】
9月の主要国の株式市場は、世界の中央銀行が相次いで利上げを行い、景気後退懸念が一段と強まったことを嫌気して、全面安となりました。米国株式市場は、米連邦準備制度理事会(FRB)が米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.75%の利上げを決定し、パウエル議長が長期的なタカ派姿勢の継続を示したことを受けて、大幅に下落しました。欧州の株式市場は、欧州中央銀行(ECB)による大幅な利上げや景気悪化の観測が高まったことから、下落しました。日本の株式市場も、欧米市場の下落や投資家のリスク許容度が低下したことを受けて下落しました。中国株式市場は、不動産市場の低迷やゼロコロナ政策の継続から景気悪化懸念が強まり、上海総合指数、香港ハンセン指数ともに下落しました。
【債券】
米国の10年国債利回り(長期金利)は、FRBがFOMCで0.75%の利上げを行い、参加者の政策金利見通しが金融引き締めの長期化を示したことから、大きく上昇しました。ドイツの長期金利は、インフレ率の上昇を受けてECBが理事会で0.75%の利上げを実施したことや、英国の財政悪化懸念から英国債が急落したことを受けて、大きく上昇しました。日本の長期金利も、欧米の長期金利上昇を受けてやや上昇しました。
【為替】
FRBの金融引き締めを背景に米ドルが独歩高となるなか、円は対米ドルで144円台後半に下落しました。日銀は24年ぶりに円買い・ドル売り介入を行いました。
【商品】
原油価格は、世界の中央銀行の相次ぐ利上げにより景気後退懸念が高まったことから、大幅に下落しました。
2.景気動向
<現状>
米国の4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率▲0.6%となりました。物価高で個人消費が減速し、2期連続のマイナス成長となりました。
欧州(ユーロ圏)の4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+3.1%となりました。経済再開により5四半期連続のプラス成長となりました。
日本の4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+3.5%となりました。新型コロナ対策のまん延防止等重点措置解除で消費が回復しました。
中国の4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+0.4%となりました。上海市などのロックダウンの影響により前四半期から急減速しました。
豪州の4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+3.6%でした。堅調な個人消費や資源の輸出に支えられ、伸び率が前期から加速しました。
<見通し>
米国は、物価高による実質所得の目減りを受けて消費が停滞することや、FRBによる大幅な利上げに伴い金融環境が引き締まることから、23年にかけて減速するとみられます。ただし、過剰設備や金融バブルがみられず、雇用が堅調なことから、マイナス成長が続く可能性は低いとみています。
欧州は、供給制約やガス不足による製造業の停滞、エネルギー・食品価格の上昇による実質所得の減少などから、22年後半から23年初にかけて小幅なマイナス成長に陥るとみられます。ただし、コロナ禍で蓄積された貯蓄を活用する余地や財政措置、雇用の安定などから景気腰折れは回避されるとみています。
日本は、設備投資の回復や経済政策の効果に支えられ、内需を中心に回復するとみています。ただし、23年前半は欧米を中心とした海外景気の減速により、回復ペースが大きく鈍化する見通しです。
中国は、政府が景気対策を発動することから、22年後半に景気は持ち直すものの、不動産市場の低迷やゼロコロナ政策の堅持が足かせとなり、回復ペースは力強さを欠くとみられます。
豪州は、コロナ対策の制限が解除され、経済再開による景気回復の流れが続く見通しです。ウクライナ情勢の影響は限定的と考えられ、コロナ禍で蓄積された貯蓄、堅調な雇用、良好な交易条件、企業の前向きな設備投資により、回復基調が続くとみています。
3.金融政策
<現状>
FRBは、9月のFOMCでフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を2.25~2.50%から3.00~3.25%へ、3会合連続で0.75%引き上げました。FOMC参加者の政策金利見通し(中央値)では、22年末に4.375%、23年末に4.625%まで金利を引き上げるシナリオが示されました。ECBは9月の理事会で、預金ファシリティ金利を0.0%から0.75%へ引き上げることを決めました。また、経済・物価見通しについて、インフレ率を上方修正する一方、23年、24年の成長率を引き下げました。日銀は9月の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策を維持しました。記者会見で黒田日銀総裁は当面の利上げの可能性について明確に否定しました。
<見通し>
FRBは、景気よりもインフレ抑制を優先し、今後もFOMCごとに利上げを実施すると予想しています。11月に0.75%、12月に0.50%の利上げを行い、来年1~3月も計0.50%の利上げを実施すると想定しています。ECBも、エネルギー価格の上振れによるインフレ抑制のため、大幅な利上げを行う見通しです。10月に0.75%、12月に0.75%、来年前半に計1.00%の利上げを実施すると想定しています。一方、日銀は、物価が相対的に低位にあるなか、現行の大規模金融緩和を継続する見通しです。
4.債券
<現状>
米国の10年国債利回り(長期金利)は、FRBの金融引き締めの長期化を嫌気して、大きく上昇しました。21日のFOMCでは、0.75%の利上げが決定され、参加者の政策金利見通しにより来年以降の金融引き締めの長期化が示されました。これを受けて、米長期金利は28日に一時約12年ぶりに4.0%を付けましたが、月末はやや戻して3.8%で終了しました。ドイツの長期金利も、ECBが9月の理事会で0.75%の利上げを実施し、今後も引き締めを強化するとの見方が強まったことや、英国の財政悪化懸念から英国債が急落したことを受けて、大きく上昇しました。日本の長期金利は、欧米の長期金利上昇を受けてやや上昇しました。投資適格社債については、景気後退懸念から国債と社債の利回り格差が大幅に拡大しました。
<見通し>
米国の長期金利は、FRBの金融引き締めが続くなかで上昇圧力を受けるものの、大幅利上げに伴い先行きの景気減速が意識されるため、もみ合う展開を予想します。欧州の長期金利は、エネルギー価格上昇に伴うインフレ圧力によりECBが金融引き締めを強めるなか、当面は上昇地合いが続く展開を予想します。日本の長期金利は、日銀の大規模金融緩和策が継続されるため、低水準での横ばい推移が続くと予想します。
5.企業業績と株式
<現状>
S&P500種指数の9月の1株当たり予想利益(EPS)は236.9で、前年同月比は+10.5%(前月同+11.4%)となりました。前月比は▲0.4%と再びマイナスに転じました(前月同+0.3%)。一方、TOPIXの予想EPSは157.8で、伸び率は同+16.0%(前月同+18.3%)でした。9月の米国株式市場は、大幅下落となりました。13日発表の米消費者物価指数(CPI)が予想を上回る上昇率となったことや21日のFOMCで市場予想以上に政策金利が引き上げられることが示唆されたことなどが嫌気されました。下旬は、23日に英国政権が打ち出した大規模経済政策によるインフレ加速などへの懸念から英国長期金利が上昇し、それが米国長期金利にも波及したことなどから、米国株式市場は調整色を強めました。米国の主要3指標はすべて年初来安値を更新し、NYダウが前月比▲8.8%、S&P500種指数が同▲9.3%、NASDAQ総合指数が同▲10.5%でした。一方、日本株式市場も大幅調整となりました。日経平均株価は前月比▲7.7%、TOPIXは同▲6.5%でした。
<見通し>
10月は7-9月期の決算が発表されます。S&P500種指数採用企業の22年7-9月期の増益率(当期利益)は前年同期比+4.6%、除くエネルギーセクターで同▲1.9%と、前月末時点予想の同+5.3%、同▲1.4%からいずれも下方修正されています(9月23日。リフィニティブ集計)。除くエネルギーセクターでは2四半期連続の減益予想です。一方、TOPIX採用企業の7-9月期決算(前年同期比)は、売上高が+15.6%、営業利益が+4.4%、経常利益が+4.3%、当期利益が+6.5%と予想され、4-6月期に比べると増益率が低下しています(10月3日現在。3月期決算、除く金融・ソフトバンク。QUICK集計)。今後の日米株式市場は、企業業績の下方修正を織り込む展開となりそうです。
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
6.為替
<現状>
FRBの金融引き締めを背景に、米ドルは独歩高となりました。円は対米ドルで月初から140円台に下落し、その後も米長期金利が上昇したことで、じり安となりました。22日には、前日にFRBが大幅利上げを決めた一方、日銀が大規模な金融緩和維持を決定したことを受けて、一時145円台を付けました。しかし、日銀が24年ぶりの円買い・ドル売りの為替介入に踏み切ったことで、140円台まで急反発しました。その後は、米長期金利が上昇するなか、円は月末にかけて再びじり安基調となり、144円台後半で終了しました。円は対ユーロでも下落し、141円台後半で終了しました。一方、資源国通貨とされる豪ドルが対米ドルで売られたため、円は対豪ドルで93円台に上昇しました。
<見通し>
円の対米ドルレートは、緩やかな下落を予想します。日米の金融政策の方向性の違いや資源価格高に伴う日本の貿易収支悪化から、円安圧力は継続すると考えられます。ただし、米国の景気とインフレがピークアウトする見通しであることから、米ドルの上値は徐々に抑制されてくるとみています。円の対ユーロレートは、緩やかな下落を予想します。ユーロは、欧州復興基金による景気回復やインフレ上昇によるECBの金融引き締めから徐々にレンジを切り上げるとみています。また、円の対豪ドルレートも日豪金利差や資源価格高から緩やかな下落を予想します。
7.リート
<現状>
9月のグローバルリート市場(米ドルベース)は大幅に下落しました。FOMCを受けて、FRBの金融引き締めの長期化が改めて意識され、米長期金利が大きく上昇したことが嫌気されました。先行きの景気後退懸念から株式市場が軟調な展開となるなか、投資家のリスク選好姿勢が後退したことから、リート市場は月末にかけて大幅安となりました。欧州のリート市場も金利上昇と景気悪化懸念を嫌気して下落しました。S&Pグローバルリート指数(米ドルベース)のリターンは前月末比▲13.1%となりました。また、為替効果がプラスに寄与し、円ベースは同▲9.2%となりました。
<見通し>
米国リート市場は、FRBによる金融政策の引き締め加速により景気後退が意識されるなか、投資家の慎重姿勢は継続するとみられるため、当面不安定な動きが続くと思われます。ただし、米国経済は低成長ながら底堅く推移すると想定していることから、米国リート市場は中長期的には緩やかに上昇するとみています。欧州リート市場は、短期的にはウクライナ情勢やエネルギー不足に伴う景気悪化懸念から弱含みの展開を想定しますが、中長期では財政支出による景気回復とともに持ち直すとみています。日本リート市場は、経済再開の動きから上昇するとみています。アジア・オセアニアリート市場は、景気回復に伴いシンガポール中心に上昇するとみています。
8.まとめ
【債券】
米国の長期金利は、FRBの金融引き締めが続くなかで上昇圧力を受けるものの、大幅利上げに伴い先行きの景気減速が意識されるため、もみ合う展開を予想します。欧州の長期金利は、エネルギー価格上昇に伴うインフレ圧力によりECBが金融引き締めを強めるなか、当面は上昇地合いが続く展開を予想します。日本の長期金利は、日銀の大規模金融緩和策が継続されるため、低水準での横ばい推移が続くと予想します。
【株式】
10月は7-9月期の決算が発表されます。S&P500種指数採用企業の22年7-9月期の増益率(当期利益)は前年同期比+4.6%、除くエネルギーセクターで同▲1.9%と、前月末時点予想の同+5.3%、同▲1.4%からいずれも下方修正されています(9月23日。リフィニティブ集計)。除くエネルギーセクターでは2四半期連続の減益予想です。一方、TOPIX採用企業の7-9月期決算(前年同期比)は、売上高が+15.6%、営業利益が+4.4%、経常利益が+4.3%、当期利益が+6.5%と予想され、4-6月期に比べると増益率が低下しています(10月3日現在。3月期決算、除く金融・ソフトバンク。QUICK集計)。今後の日米株式市場は、企業業績の下方修正を織り込む展開となりそうです。
【為替】
円の対米ドルレートは、緩やかな下落を予想します。日米の金融政策の方向性の違いや資源価格高に伴う日本の貿易収支悪化から、円安圧力は継続すると考えられます。ただし、米国の景気とインフレがピークアウトする見通しであることから、米ドルの上値は徐々に抑制されてくるとみています。円の対ユーロレートは、緩やかな下落を予想します。ユーロは、欧州復興基金による景気回復やインフレ上昇によるECBの金融引き締めから徐々にレンジを切り上げるとみています。また、円の対豪ドルレートも日豪金利差や資源価格高から緩やかな下落を予想します。
【リート】
米国リート市場は、FRBによる金融政策の引き締め加速により景気後退が意識されるなか、投資家の慎重姿勢は継続するとみられるため、当面不安定な動きが続くと思われます。ただし、米国経済は低成長ながら底堅く推移すると想定していることから、米国リート市場は中長期的には緩やかに上昇するとみています。欧州リート市場は、短期的にはウクライナ情勢やエネルギー不足に伴う景気悪化懸念から弱含みの展開を想定しますが、中長期では財政支出による景気回復とともに持ち直すとみています。日本リート市場は、経済再開の動きから上昇するとみています。アジア・オセアニアリート市場は、景気回復に伴いシンガポール中心に上昇するとみています。
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『先月のマーケットの振り返り(2022年9月)』を参照)。