戦後はハイパーインフレと預金封鎖
■占領地で通貨を乱発して何とか戦費を調達
ただこれには少々カラクリがあります。
太平洋戦争は日本の経済力を無視した戦争であり、そもそも遂行が不可能なものでした。通常の手段でこの戦費を調達することはできず、戦費のほとんどは日銀の直接引き受けによる国債発行で賄われました。
日銀が無制限に輪転機を回すということですから、当然のことながらインフレが発生します。終戦後、これが準ハイパーインフレという形で爆発しますが、戦時中から、すでに物価水準はどんどん上がっていきました。
さらに、日本軍は占領地域に国策金融機関を設立し、現地通貨や軍票(一種の約束手形)などを乱発して無謀な戦費調達を行いました。
これによってアジアの占領地域では、日本をはるかに超えるインフレが発生しています。占領地では相当のインフレになっているにもかかわらず、名目上の交換レートは従来のまま据え置かれましたから、書類上は占領地の軍事費が膨れ上がることになるわけです。
したがって、これらの戦費を実質ベースで計算しなおせば、経費はもっと少ない数字になる可能性が高いでしょう。とりあえず、日中戦争以降の国内インフレ率を考慮すると、約2500億円程度と計算されます。さらに、占領地のインフレ率を国内の1.5倍と仮定すると、おおよそ2000億円となります。
残念ながら当時の日本は国家総動員体制で経済活動が統制されており、物価の正確な水準を把握するための十分な統計データが揃っていません。これ以上、正確な戦費を計算するのは難しいというのが現実です。ただ、おおよその戦費という意味では、2000億円程度と考えて間違いありません。
戦費総額を2000億円と仮定すると、GDPとの比率は約8.8倍に、国家予算の比率は74倍となります。
先ほどの数字に比べればかなり小さくなりましたが、それでも途方もない金額であることに変わりはありません。現在の価値に置き換えれば、4400兆円もの費用を投入したことになります。
これらの戦費は、戦後に準ハイパーインフレを引き起こし、最終的には、預金封鎖によって国民から財産を強制徴収する形で埋め合わせが行われました。
※各種統計の数字は基本的に書籍が出版された2016年当時のものです。
加谷 珪一
経済評論家