(※写真はイメージです/PIXTA)

企業の利益は、原則「売上-費用」で求めますが、長期間の使用を想定した高額な機械等を購入すると、購入年度に巨額の費用が発生して赤字になってしまい、経理上の不具合が生じます。それを防ぐため、購入費用を数年にわたって案分する「減価償却」という経理処理を行いますが、その際、計上する費用と残る現金にズレが生じるという、興味深い現象が起こります。経済評論家の塚崎公義氏が平易に解説します。

10年使える大きな機械…買ったら赤字になる?

企業の利益は、売上から費用を差し引いて求めます。その際、購入したものの代金は費用として計上されるわけです。今年購入したボールペンの購入代金が、今年の費用になるのは当然ですね。仮に年末時点でまだインクが3割残っていたとしても、わざわざ「ボールペンの購入代金の7割は今年の費用で、購入代金の残り3割は来年の費用として計上する」といった処理は行いません。

 

去年買ったボールペンを今年使ったでしょうし、今年買ったボールペンを来年も使うでしょうから、お互い様ということで、それは気にしないことになっているわけですね。

 

ところが、毎年購入しているボールペンではなく、10年に一度買い替える大きな機械で同じことをやると、困ったことが起こります。機械を購入した年には巨額の費用が発生するので大幅赤字になり、それ以外の年には機械を無料で使えるので黒字になるのです。

 

そこで、10年使える大きな機械を購入したときには、機械購入費用の10分の1ずつを毎年の費用として計上することになっています。この処理のことを「減価償却費」と呼びます。

 

100万円の機械を購入したときには、100万円の出費があり、現金が100万円減りますが、100万円の機械が資産となります。その後1年経過した段階では、「まだ使えるけれども若干擦り減って価値が低下した機械が残っている」と考えて、90万円の機械を資産に計上し、差し引き10万円を費用として計上するわけです。

 

100万個の製品を作ると機械が壊れるとします。毎年1万個作るとすると、製品1個あたり10円の「機械擦り減り費用」がかかっている計算になります。9円の材料を仕入れて機械で製品を作って20円で売るとすると、売上の20円から材料費の9円と減価償却の10円を差し引いた1円が利益となるわけです。

要注意!…「費用と現金」にズレが生じるワケ

以上が減価償却の基本的な考え方ですが、減価償却のせいで企業の費用や利益と保有現金との間のズレが生じるので、要注意です。

 

上記の例で言えば、製品を1個売ると収入が20円ありますが、支出は材料費の9円だけなので、現金は11円増えます。利益は1円しかないのに、手元の現金は11円増えるのです。

 

機械を購入した瞬間は利益がゼロなので、現金が100万円減るだけですが、それを10年かけて1個10円ずつ取り戻していくというイメージですね。

 

興味深いのは、赤字企業でも金庫の現金は増加する可能性があることです。たとえば製品が18円でしか売れなければ、製品1個ごとに1円の赤字になってしまいます。しかし、現金収入が18円あって材料の仕入れ価格は9円ですから、製品1個売るごとに金庫の現金は9円増えるわけです。

 

これは、銀行にとって重要な情報です。機械購入費用を100万円貸し出した翌日に「製品が18円でしか売れないから、今後10年間赤字が続く。借金は返済できない」という連絡があっても、絶望しなくて良いからです。

 

製品を1個売るごとに金庫の現金は9円増えますから、1万個作って売れば金庫の現金は90万円となり、それが銀行への返済に使われますから、銀行の損失は10万円で済むのです。

 

それを焦って「借金が返せないなら、設備機械を売って返せるだけ返してほしい」などと言い出すと、スクラップ業者に設備機械を買い叩かれて、90万円よりはるかに少ない金額しか返済されないかも知れません。

 

銀行は時として、回復の見込みのない赤字企業にも金を貸したまま回収を待つことがありますが、その一因は減価償却にあるのですね。

次ページ生産量を絞っても、減価償却は「予定通り」に

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