そもそも脳は「覚えたくない」ワケ
当然ですが、皆さんは今この文章を読んでいますよね。しかし、読んでいる間も周りには何かしらの音がしているはずです。注意すれば匂いもするのがわかります。さらに細かいことをいうと、部屋の明るさとか温度とかも感じられるでしょう。つまり何がいいたいかというと、人は常に膨大な情報に囲まれて生活しているということです。
もしも脳という器官が周囲から受ける情報をすべて記憶するとなると、5分以内に限界に達するといわれています。脳は思考や活動の司令塔ですので、ダウンしたら人は何もできなくなってしまいます。それでは困るので、脳はすべての情報を覚えないようにできていて、オーバーフローを防止しているのです。
覚えないようにしているだけではありません。さらに脳について考えてみると、脳の重さは体重の約2%に過ぎません。体重が60㎏の人であればおよそ1.2㎏です。これほど小さいのにもかかわらず、消費するエネルギーは体全体の約25%、およそ4分の1にもなります。
何かを長期間覚えておくという行為も、脳にとってはエネルギーを要することになります。そういう理由もあって、脳は覚えたものをすぐに忘れるようにできているのです。
要するに、脳という器官は覚えるよりも忘れることを得意にしているといえます。ですから、自分は記憶能力が悪いと嘆く必要はないということなのです。誰でも初期の状態における記憶能力には差がないというわけです。
しかし、現実に周りを見渡すと、記憶が得意な人と記憶が苦手な人が存在するのは間違いのない事実です。この差は何なのでしょうか。
ずばりいうと、本人が意識しているか意識していないかはともかく、物事を脳の記憶のメカニズムに準じて頭に入れているかいないかによるのです。
一般的には、記憶能力とは脳の性能によると考えている人が多いような気がします。つまり、意識せずとも何かを見たり聞いたりしただけですぐに頭に入るというのが、世間の記憶能力に対するイメージなのではないでしょうか。
確かに、記憶の種類の中にはそういうものもあります。しかし、仕事や勉強で使う、つまり、実用性を考慮した場合の記憶能力は少し捉え方が違うのです。本連載でいっている記憶の力とは、一般的に使われている記憶力のイメージよりも記憶能力という言葉に近いのです。能力という言葉は自らの意志で行うものだというニュアンスを含みます。
では、何かを覚えるに際して自らの意志で行う作業とは何でしょうか。これは端的にいえば、情報の加工処理のことを指します。
先程お伝えしたように、脳というのは生の情報を覚えるのが苦手なのです。しかし同時に、脳には記憶するためのメカニズムが存在しているのも間違いありません。要するに、脳が覚えやすい情報の形というものが存在しているのです。言葉は悪いですが、その脳の性質を利用する、つまり、脳をだますことが情報の加工処理というわけです。
私は、この情報の加工処理をImage Processing(イメージプロセッシング)と名付けています。略してIP、そして、情報を加工処理することをIP化とよんでいます。
ここでのイメージの定義には、映像としてのイメージをはじめ概念的なもの、印象、ニュアンスと広い意味合いを含んでいます。以上から、記憶能力の差とは、才能というよりも脳の記憶のメカニズムを知っているか知らないか、また、情報をIP化しているかしていないかに過ぎないということです。
池田 義博
記憶力日本選手権大会最多優勝者(6回)
世界記憶力グランドマスター
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