脈が速くなる「頻脈性」は要注意!
不整脈のなかでも特に気を付けたいのが、「頻脈性不整脈」です。心臓の収縮と拡張が激しいスピードで繰り返され、脈が速くなるのですから、心臓は過活動の状態となって負荷が大きくなり、心不全に至るリスクが高くなります。
頻脈性不整脈のなかでもとりわけ注意したいのが、「心室頻拍」と「心室細動」です。これらはどちらも心室で発生する不整脈で、これらが起こるとすぐに心臓から血液が送り出されなくなり、そのまま死につながってしまいます。
「心室頻拍」とは、脈が突然1分間に100回以上の速度で打ち、かつ、心電図の波形が一定のもののことをいいます。これがさらに悪化すると「心室細動」となり、この状態になると脈は完全に消失して血圧がなくなり、心電図の波形も不規則になります。
どちらも心室がけいれん状態になってしまう病気であり、心停止と同じような状態になってしまいます。心室頻拍の場合はふらつきや動悸などで済む場合もありますが、心室細動を起こすと意識消失や呼吸停止の状態になり、命に危険が及びます。
心室頻拍や心室細動を起こす主な原因には、急性心筋梗塞がありますが、そのほか、心不全も誘因となります。逆に、心室頻拍や心室細動が心不全を発症させることもあります。心不全が不整脈の誘因となっている場合は、心不全の治療を適切に行うことで、不整脈の発症を防ぐことができます。心不全を発症したことがあり、かつ健康診断で不整脈を指摘されたことのある人は、不整脈は突然死につながる重大な病気であることを念頭におき、心不全の治療に臨むことが大切です。
■脳梗塞につながるリスクが高い「心房細動」
同じく頻脈性不整脈のなかで気を付けたいのが「心房細動」です。通常、心臓を動かす電気信号は洞結節から発せられていますが、心房細動では洞結節以外のところから無秩序かつ不規則に電気信号が発生して心房が不規則に震え、正常な働きができなくなってしまいます。
心房細動は加齢とともに増えることが分かっており、現在、日本人の80歳代で考えると男性の4%、女性の2%以上が心房細動だともいわれています。2020年では、日本では100万人近くの患者がいる、と推定されています(Inoue et al. International Journal of Cardiology 2009:137;102-107)。
心房細動は、心室頻拍や心室細動と違って、すぐさま命を脅かすような病気ではありません。動悸がして息苦しくなったりめまいや胸痛などの症状が出たりすることがありますが、まったく自覚症状のない人もいます。
しかし恐ろしいのは、心房細動は脳梗塞につながるリスクが高い、ということです。心房細動が起こると、心房の中で血液がよどみ、その結果、心房の中で血栓ができやすくなります。心房はとても大きな"部屋"なので、血栓も大きくなり、はがれて流れてしまうと太い血管で詰まります。
特に頻度が高いのは脳の血管に詰まることで、すなわち「脳梗塞」を引き起こしやすいのです。悪いことに、心房細動で作られる血栓は大きいため、一度、梗塞が起こると重症化しやすいという特徴があります。一度の脳梗塞で死に至ることも多く、その怖さから「ノックアウト型脳梗塞」とも呼ばれています。幸いにして命を取り留めても、麻痺や寝たきりなど重い後遺症が残る可能性が高くなります。
実は、心不全は心房細動と非常に関連が深いことが分かっています。研究によれば、心不全患者の35〜40%に心房細動が合併しており、反対に、心房細動の患者のうち約30%に心不全を合併していることが分かっています。さらに心房細動は心臓弁膜症を誘発し、心不全の原因になります。
心房細動を発症する要因には、加齢のほか、肥満、飲酒・喫煙、ストレスなどがあります。また、高血圧も重要な誘因です。不規則な生活習慣を改める、高血圧の要因となる塩分の取り過ぎを見直すなど、できることから心房細動の予防に取り組むとよいです。