名古屋の、賃貸業をメインとする不動産会社。入社間もない若手営業マンが社長のムチャぶりで刊行した「住宅情報雑誌」は、苦労の甲斐があって大好評。おかげで本業である不動産の賃貸に大きく貢献します。業務効率化のため新設された「管理事業部」は、発足当初に大変な苦難を味わいますが、次第に管理事業はビジネスの柱へと成長を遂げていきました。

オーナーとの「泥臭い駆け引き」もビジネスの醍醐味

オーナーが管理業務を委託することで得られるメリットは、賃貸のプロによる専門的なアドバイスが受けられる点です。賃貸物件を多く扱ってきた不動産会社では賃貸経営の成功ノウハウが蓄積されています。

 

一例を挙げると賃貸住宅の市場価値は新築のときが最も高く、年を追うごとに下がっていきます。入居者の立場とすれば誰も使っていない新しい部屋のほうが気持ちが良いし、設備も整っていることが多いので魅力的に映ります。多少家賃が高くても新築を選ぶ人が多いです。

 

築年数が経って市場価値が下がってきたときに、どう対策をするかで入居率が変わりオーナーの収入も変わってきます。特に周りに新しく設備の整った賃貸住宅が建った場合はあからさまに入居率が下がるため、何か手を打たないと空室だらけになってしまいます。

 

自分の物件の市場価値が落ちてきたかどうかの判断は、オーナー自身ではなかなか正確にできないことが多いです。多少古くなっても「今、満室だから大丈夫」と思ってしまいがちになります。しかし、市場価値は確実に落ちていて次の更新期限が来たタイミングで入居者が出ていってしまうケースが多いのです。そうなってから手を打っても一度離れた入居者はまず戻って来ません。慌てて対策を取っている間にもほかの物件に入居者を取られてしまいます。

 

私たちの会社では社内に管理事業部と仲介をする営業部があり、集客もサービスの1つとして提供しているので、オーナーは集客力の分析や対策の提案などのサービスが受けられます。大規模な修繕やリフォームをしなくても、例えば全室Wi-Fi完備やオートロックにするだけでも競争力を上げることができます。

 

バブル景気の頃はデザイナーズ物件が賃貸でも人気でしたが、最近はニーズが多様化、ニッチ化しています。今は「部屋の1つを土間仕様に変更し、キャンプ気分が味わえるようにした部屋」「一階の専用庭に枕木で囲って土を入れて野菜や花などを育てるスペースを設けた部屋」「十帖のワンルームにドーンとアイランドキッチンを置いた料理好きの人のための部屋」などが人気です。物件に新しい価値を付けることで、入居者に選ばれる賃貸物件になるのです。

 

しかしながら、こちらが良かれと思って市場価値を上げる提案をしても聞く耳をもってもらえないこともまれにあります。予算の問題だけでなく、対策をするのが面倒くさくて気乗りしないケースなどさまざまです。

 

オーナーとの泥臭い駆け引きもこの仕事の醍醐味ではあります。実はこちらのアドバイスをなかなか受け入れないオーナーも、きちんと筋道を立てて話をすれば分かってくれることが少なくありません。要は互いの信頼関係の問題です。話の通じにくいオーナーに対して、説得力のある説明や「なるほど」と思ってもらえる提案をできるか否かが賃貸管理業者としての腕の見せ所なのです。

 

 

加治佐 健二
株式会社ニッショー 代表取締役社長

 

賃貸仲介・管理業一筋50年 必勝の経営道

賃貸仲介・管理業一筋50年 必勝の経営道

加治佐 健二

幻冬舎メディアコンサルティング

メーカーから転職して1976年に28歳で営業職として入社し、充実した日々を送っていた筆者。 その矢先、突然社長と常務から呼び出され「東海エリア初の賃貸住宅情報誌の創刊」を命じられたのです。 そして右も左も分からな…

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