認知症の「中核症状」と「BPSD」
認知症には「中核症状」と「BPSD(認知症に伴う行動・心理症状)」の2つの症状があるといわれます。以前は「中核症状」「周辺症状」という分け方をされてきましたが、近年では「BPSD」という名称が一般的になっています。
中核症状というのは、認知症という状態を起こす脳の変化から起こる症状で、アルツハイマー型認知症では、判断力の低下、ものごとを記憶しにくくなる記憶障害、自分のいる場所や日時がわからなくなる見当識障害、状況が把握できず判断ができにくくなる実行機能障害、会話がうまくできなくなったり、空間認識ができなくなる高次脳機能障害などが起こるとされています。
しかし、こうした障害はすべての人に起こるわけではなく、認知症の原因になった病気に加え、人によってもあらわれ方は異なります。そして、年単位の時間をかけて少しずつ進行していきます。
いっぽうBPSDというのは、中核症状で起こる記憶障害や判断力の低下によって、周囲とのかかわりのなかで「不安や混乱」が起こり、日常生活にさまざまな支障が出てくる状態です。
財布などの置き場所がわからなくなった不安から、盗まれたと思い込む「物盗られ妄想」、トイレの場所がわからなくなった混乱から起こる「尿失禁」、手助けを攻撃と判断して起こす「暴力・暴言」、ここは自分の場所ではないという不安から、自分の場所を探して歩く「徘徊」……。
以前は「問題行動」と呼ばれていた行動ですが、本人にとってはそこに至った理由や要因がちゃんとあります。最大の要因はストレスです。
健康をそこねると身体の抵抗力がなくなるように、認知機能に障害が起こってくると、ストレスに耐えるチカラが低下します。たとえば、まぶしい照明や大きな音、スピードの速い会話や人ごみが苦手な認知症の人は少なくありません。
そうした物理的な環境に加え、栄養や水分の不足、便秘や下痢、視力や聴力の低下、薬の副作用といった身体にまつわる環境も、認知症の人に大きなストレスを与えます。不安、自信喪失、孤独感、絶望感のような心理的環境。さらに家族の無理解や周囲の偏見、居場所がない、自分の役割がない、味方がいないといった社会的な環境も。
そして、それが人によっては、「意欲がなくなる」「いらだつ」「怒りっぽくなる」「暴力的になる」「うつ状態になる」「大声を出す」「歩き回る」といった行動・心理症状(BPSD)につながってきます。
しかし、これらのBPSDは認知症の人すべてにあらわれるわけではありませんし、ずっと続くわけではありません。