「認知症=怖い」はもう古い。医療・介護・福祉・高齢者問題をテーマに活躍、多数の著書を持つジャーナリストと、メディアや新聞各社でも多数活躍する司法書士との共著『認知症に備える』より、そもそも認知症とはなんなのか、認知症になったらどんなことに本人が困るのか、もしくは困らないのか、どのような制度が利用できるのか等、すぐ実生活に活かせるようなヒントを、以下抜粋して紹介する。
絶望感から症状が悪化
意味もなく歩き回るとされ「徘徊」と呼ばれる「ひとり歩き」にも、実は本人なりの理由や目的があります。典型的なのが「子どものころ両親と暮らした家」や、「長年、勤めてきた会社」を探しているというケースです。
そんなとき、認知症の人が暮らすグループホームなどでは、職員が本人のあとをこっそりついて行きます。そして、本人が存分に歩いて疲れたころ、「帰りましょうか」と声をかける。それを繰り返していると、数ヵ月で落ち着くことが多いそうです。
認知症の当事者として発言を続けている丹野智文さんは、「その場所の居心地が悪いから、外に出て行く人も多い」といいます。
家族から心ない言葉をぶつけられ、たまらなくなって家を出ると「徘徊」といわれ、無理やり連れ戻される。監視の目が強くなると、さらに居心地が悪くなり、イライラや怒りの感情が湧いてくる……。そうした悪循環が認知症を悪化させるというのです。
その行動が「なぜ」起こっているのかを考え、本人の気持ちを大切にした対応をすると、本人の症状の改善につながることが少なくありません。実際、本人が暮らしやすい環境にいると、BPSPはあらわれにくくなる、といわれています。
逆に周囲にその理由が理解されないと、絶望感から本人の状態は悪化します。家族も介護をひとりで抱え込まず、専門職やほかの介護家族など、相談相手をたくさん見つけ、認知症の本人の視点から考えるようにしてください。
認知症は、ある日、突然起こるわけではありません。最初に「何かおかしいな」と気づくのは本人自身。この最初の段階(川上)で、家族や周囲の理解がないと、本人の混乱や不安が増し、認知症が悪化してしまいます。
川上対策をしないままにしていると、認知症が悪化した状態(川下)では、本人はいろんな問題を起こす「困った人」になってしまうし、家族は介護でボロボロになり、「疲弊した人」になってしまいます。
そこで大切なのが、初期の対応と支援です。「最初」つまり、「川上」の山林を丁寧に手入れすることで、「川下」で氾濫が起こらない環境をつくることができます。
繰り返しますが、BPSDはすべての認知症の人にあらわれるわけではありません。BPSDは本人にとって「不適切な環境」からつくられます。お互いにとってストレスの少ない日々の暮らしを、家族で一緒につくっていきましょう。
ジャーナリスト、ノンフィクションライター
1949年、長野県生まれ。雑誌編集者を経てライターに。人物インタビュー、ルポルタージュを書くかたわら、海外を取材し、『ユリ─日系二世ハーレムに生きる』(文芸春秋)などを出版。認知症になった友人の介護を契機に医療・介護・福祉・高齢者問題にテーマを移し執筆。全国で講演活動を続けるほか、東京都世田谷区でシンポジウムや講座を開催。住民を含めた多職種連携のケアコミュニティ「せたカフェ」主宰。世田谷区認知症施策検討委員。近著に『おひとりさまでも最期まで在宅』『人生100年時代の医療・介護サバイバル』(いずれも築地書館)、共著『認知症に備える』(自由国民社)など多数。
著者プロフィール詳細
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連載「認知症=怖い」はもう古い!70代の足音が聞こえてくる前に、心と環境の準備のススメ
司法書士 村山澄江事務所 代表
介護や相続の『まさか』をなくすことがミッション。おばあちゃん子だったことがきっかけで、高齢者家族のサポートに注力。【略歴】1979年名古屋生まれ。2003年司法書士試験合格。2010年独立開業。2018年「AI相続®︎」 の立ち上げに参画。2020年株式会社エラン(東証プライム上場)「キクミミ」監修者に就任。認知症対策の相談数1300件以上。家族信託・成年後見の専門家として活動中。【メディア掲載等】日本経済新聞・日経ヴェリタス・読売新聞・朝日新聞。中央経済社「旬刊経理情報」。早稲田学報。週刊現代。週刊エコノミスト etc.【書籍】『今日から成年後見人になりました』(自由国民社)、『認知症に備える』(自由国民社)。【講演】各自治体、ハウスメーカー、生命保険会社、不動産会社、介護事業所、教会などで延べ3,000名以上へ講演。
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