「何度も同じこと聞かないで!」と繰り返した家族。葛藤、不安、絶望…亡くなって初めて知った本人の苦しみ (※写真はイメージです/PIXTA)

「認知症=怖い」はもう古い。医療・介護・福祉・高齢者問題をテーマに活躍、多数の著書を持つジャーナリストと、メディアや新聞各社でも多数活躍する司法書士との共著『認知症に備える』より、そもそも認知症とはなんなのか、認知症になったらどんなことに本人が困るのか、もしくは困らないのか、どのような制度が利用できるのか等、すぐ実生活に活かせるようなヒントを、以下抜粋して紹介する。

認知症に対する大きな誤解

認知症にはさまざまな誤解があります。

 

「認知症になると、何もわからなくなる」

 

「認知症になると、何もできなくなる」

 

「認知症になると忘れてしまう」

 

「認知症になると、周囲の人に迷惑をかける」

 

「予防すれば、認知症にならない」

 

本当にそうでしょうか?

 

認知症になると、確かにもの忘れは起こりますし、判断力は低下します。覚えることが苦手になって、日付や場所があいまいになることもあるでしょう。でも、「何もわからなくなる」わけではありません。

 

とくに初期の段階では、自分が「どこかおかしい」ことを本人は感じています。いままでできていたことが、うまくできなくなってきたり、以前と同じ自分ではないと感じたりすることで不安を募らせますが、その本人の不安に家族はなかなか気づきません。

 

認知症の人のなかには、忘れないためにノートにいろんなことを書き込んでいる人が少なくありません。そこには覚えておくための記述だけではなく、自分が認知症になったことへの怒り、嘆き、不安、絶望感など、さまざまな感情が記されています。

 

本人が施設に入ったり亡くなったりしたあと、そのノートを見つけ、「本人はこんなに苦しんでいたのか」と知って涙したという話を、何人もの家族から聞きました。

 

認知症の本人とその家族の間でよく見かけるのは、同じことを何度も聞く本人に対して、「何度同じことを聞くのよ。さっきも答えたでしょ!」と、家族が言い返すシーンです。

 

本人は自分がちゃんと伝えたかどうかが不安なので、何度も同じことを聞くのですが、どなられると不快な感情だけが心に残ります。

 

認知症になると、何もできなくなるというのも誤解です。動作は遅くなるかもしれませんし、理解しにくいことも増えるでしょう。でも、時間をかければできることはたくさんあります。

 

認知症になると部屋の片づけが苦手になったり、ガスの火を止め忘れるといった、本人の生活の中での支障が増えてきます。

 

そこで家族や周囲が、本人のできないところをカバーしながら、地域のつながりや介護サービスを生かして、日々の暮らしを支えると、本人も落ち着いて生活できるようになりますが、「何もさせないほうがいい」と、本人ができることをどんどん奪っていくと、本人の状態が悪化し、家族の介護負担もだんだん増えてきます。

 

認知症の人にとくに残っているのは「手続き記憶」と呼ばれる、料理など、その人が毎日行っていたことの記憶です。認知症がかなり進行していても、「材料を切る」といったことは、手順をうまく告げれば、以前のように行うことができます。そういう光景は何度も見ました。

 

男性でも調理人だった人は、見事な包丁さばきを見せてくれるでしょうし、大工さんだったら、家具の修理はお手のものです。元商社マンだった男性は、英語のできない友人に頼まれて、最近、ZOOMを使って通訳をしました。

 

認知症の初期に「時間がかかる」「危ない」といって、本人ができることを取り上げてしまうと、本人の自信がなくなり、次第にできることもできなくなります。そうではなく、苦手なところを補う工夫をし、できることを取り上げないで続けるように手助けすると、本人の心が穏やかになるだけでなく、認知症の進行もゆるやかになってきます。

 

認知症になると忘れてしまう、というのも誤解です。忘れるのではなく、記憶しづらくなる。記憶がおぼろげだからこそ、家族からどなられるとさらに不安になってしまうのです。

 

認知症がかなり進行した人にも感情はしっかり残っていますので、「わかってもらえない」という気持ちが、心を閉ざしたり、逆に怒りや暴力につながることがよくあります。

 

認知症の本人の判断の基本的な感覚は「好き」か「嫌い」かによることが多いと、認知症に詳しい医師の大井玄さんは言います。「好き」だとそれを受け入れ、「嫌い」だと拒否をする。認知症専門医の木之下徹さんによると、本人の暴言や暴力は「それはイヤ」と告げる「リアクション」です。

 

自分が好きでもない食事を無理やり食べさせられたり、着替えだといっていきなり服を脱がされたら、誰でも「やめてくれ」と言うでしょう。

 

しかし、認知症になると言葉が出にくくなるため、その代わりに振り払おうとしたり、大声で叫んだりするかもしれません。それは「暴言」でも「暴力」でもなく、人間の正常なリアクションです。

 

「予防すれば、認知症にならない」というのも誤解です。残念ですが、予防できると証明
されたものはありません。ただ、地震を防ぐことはできませんが「備える」ことはできます。認知症もそれと同じように「備え」が大切だという認識も、少しずつ広まってきました。

 

認知症を本人の視点で考えてみると、それまでとはちがった姿が見えてきます。そして、そこから認知症との新しい関係を築いていくことができるかもしれません。

 

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    ジャーナリスト、ノンフィクションライター

    1949年、長野県生まれ。雑誌編集者を経てライターに。人物インタビュー、ルポルタージュを書くかたわら、海外を取材し、『ユリ─日系二世ハーレムに生きる』(文芸春秋)などを出版。認知症になった友人の介護を契機に医療・介護・福祉・高齢者問題にテーマを移し執筆。全国で講演活動を続けるほか、東京都世田谷区でシンポジウムや講座を開催。住民を含めた多職種連携のケアコミュニティ「せたカフェ」主宰。世田谷区認知症施策検討委員。近著に『おひとりさまでも最期まで在宅』『人生100年時代の医療・介護サバイバル』(いずれも築地書館)、共著『認知症に備える』(自由国民社)など多数。

    著者紹介

    司法書士 村山澄江事務所 代表 

    介護や相続の『まさか』をなくすことがミッション。おばあちゃん子だったことがきっかけで、高齢者家族のサポートに注力。【略歴】1979年名古屋生まれ。2003年司法書士試験合格。2010年独立開業。2018年「AI相続®︎」 の立ち上げに参画。2020年株式会社エラン(東証プライム上場)「キクミミ」監修者に就任。認知症対策の相談数1300件以上。家族信託・成年後見の専門家として活動中。【メディア掲載等】日本経済新聞・日経ヴェリタス・読売新聞・朝日新聞。中央経済社「旬刊経理情報」。早稲田学報。週刊現代。週刊エコノミスト etc.【書籍】『今日から成年後見人になりました』(自由国民社)、『認知症に備える』(自由国民社)。【講演】各自治体、ハウスメーカー、生命保険会社、不動産会社、介護事業所、教会などで延べ3,000名以上へ講演。

    著者紹介

    連載「認知症=怖い」はもう古い!70代の足音が聞こえてくる前に、心と環境の準備のススメ

    認知症に備える

    認知症に備える

    村山 澄江,中澤 まゆみ

    自由国民社

    「認知症=怖い」はもう古い! そもそも認知症とはなんなのか、認知症になったらどんなことに本人が困るのか、もしくは困らないのか、生活はどのように変化するのか、どこに何を相談できるのか、法的な制度としては、認知症に…

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