コロナ禍、認知症者の「認知機能・運動機能」が低下傾向。認知症の発症・進行を防ぐには?自宅でできる予防策も紹介【専門医が解説】

コロナ禍、認知症者の「認知機能・運動機能」が低下傾向。認知症の発症・進行を防ぐには?自宅でできる予防策も紹介【専門医が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

認知症は、適切なケアを行えば症状を改善したり、進行を遅らせることが可能です。その方法として近年、認知症に対するリハビリの重要性が認められつつあります。認知症リハビリが最も盛んに行われているのはデイケア施設ですが、コロナ禍で通所が難しくなり、リハビリが中断されてしまった認知症者も少なくありません。リハビリ中断後、患者の認知機能等はどう変化したか。認知症の発症・進行を防ぐために、自宅でできる取り組みはあるか。認知症の専門医・旭俊臣医師が解説します。

“リハビリ中断”で認知機能や運動機能はどう変わった?

当院では通所リハビリが中断することによる認知機能および運動機能への影響を検証しました。

 

図表1・2は、当院が小金原地区の地域包括支援センターと連携して行ってきた「元気応援くらぶ」の通所型リハビリプログラムの数十名の参加者を対象に、コロナ禍前の2017年2月~2019年7月の間、約半年ごとに測定した健康度の平均値と、コロナ禍となり通所リハビリが中断したあとの2020年6月時点に測定した平均値をグラフにしたものです。

 

[図表1]健康度測定結果(認知機能)

 

[図表2]健康度測定結果(運動機能)

 

■認知機能の測定結果

まず認知機能の測定結果です。各検査の簡単な説明は次のとおりです。

 

●即時再生:読み上げられた10個の単語を覚えながら聞き、読み終えたら用紙に1分間で書き出してもらいます。これを合計4回繰り返して行う評価です。これを即時再生(即時記憶)といって、ごく短い時間で必要な言葉を覚えて思い出せるかをみています。

 

●符号変換:色を表す漢字とそれに対応する符号の組み合わせをもとにして、漢字に対応した符号を空欄に書き込んでいく課題です。

 

●語想起:動物の名前を想起して、制限時間内にできるだけたくさん記入してもらう課題です。一定時間内に条件に合う単語のみをできるだけたくさん書く能力をみています。

 

●遅延再生:いくつかの認知機能評価のあとで、「先ほど覚えた10単語を、思い出して書いてください」と改めて思い出してもらいます。これを遅延再生(近時記憶)といって、ある一定の時間記憶しておき、それを思い出すことができるかをみています。

 

図表1が示すとおり、いずれの測定結果もコロナ禍前の2019年7月に比べ、約1年後の2020年6月時には平均値が下がっています。

 

■運動機能の測定結果

次に、運動機能の測定結果です。TUGと5m歩行について、テスト内容の簡単な説明は次のとおりです。

 

●TUG:Timed up and go testの略。歩行や動的立位バランス能力、敏捷性などの総合的・応用的な移動動作能力を評価するものです。「椅子から立ち上がり→コーンに向かって歩き→コーンを回り→椅子に向かって歩き→椅子に座る」のが課題で、その際の時間を計測します。2回計測し、短い方(良い方)の値を使います。

 

椅子の先端からコーンの向こう(遠位)側が3mとなるようにセッティングします。椅子の中央部より少し前に座り、両足は肩幅ほどに拡げて両手は太ももの上に置きます(説明と1回練習をしたあとに計測)。

 

「椅子から立ち上がって、あのコーンをぐるっと回ってきて、また椅子に腰掛けてください。できるだけ早く回ってきてください」と課題の説明をしたあと、「準備はいいですか?」と確認し、「よーい、始め」の合図とともに計測を開始し、再び帰ってきて座るまでの時間を計測します。コーンは左右どちらから回っても問題ありません。

 

●5m歩行:正式には「5m最大歩行時間」。5mの区間を最大の速度で歩いた所要時間(と歩数)を計測します。

 

5m区間の前後に予備路を各1.5m設けます。つまり、合計歩行距離は予備路1.5m×2+測定区間5mで8mになります。「できるだけ速く歩いてください」とだけ教示し、測定区間の5mを通過するのに要する時間と歩数を計測します。

 

なお杖をついている場合、普段家の中では使用していないのであれば計測も転倒に十分注意しながら、使用しない状態で行います。2回計測し時間が短いほうの値を採用します。

 

運動機能についても図表2のとおり、コロナ禍前に比べていずれも低下しています。握力の低下は緩やかでしたが、脚力の方は落ち込みが目立ち、計測を始めた2018年4月時点よりも低下しているのが気になります。

 

■リハビリの効果を得るには「継続すること」が重要

2021年末現在、感染症対策を十分に講じたうえで、通所リハビリを再開した施設は増えつつあるようです。しかし参加する側のほうで、感染を心配し行きたがらないといった傾向がまだ強いように感じています。

 

リハビリも継続しなければ、せっかくそれまでに認知機能や運動機能が向上していたとしても、再び低下してしまいます。また、継続することが認知症本人にとっては習慣化することであり、ひとたびやめてしまうとそれを再び習慣にすることはなかなか大変です。中断している間ずっと家にいる生活スタイルに慣れてしまうと、いざ再開できることになっても、おっくうさが勝ってしまったり、以前のようなやる気がなくなってしまったりして腰が重くなってしまうからです。家にいるほうが楽だとばかりに、新しい生活習慣が身につかなくなってしまうというわけです。

 

そうならないためにも、通所リハビリ施設や地域包括支援センターなどからリハビリ参加への声かけを積極的に行ったり、感染症対策をしっかり講じていることを伝えて安心いただいたりといった広報活動がしばらく必要であると考えます。

次ページ家庭でできる「認知症予防のための取り組み」

※本連載は、旭俊臣氏による『増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

旭 俊臣

幻冬舎メディアコンサルティング

近年、日本では高齢化に伴って認知症患者が増えています。罹患を疑われる高齢者やその家族の間では進行防止や早期のケアに対する関心も高まっていますが、本人の自覚もなく、家族も気づいていない「隠れ認知症」についてはあま…

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