認知症にも「リハビリ」がある…症状の改善に「きわめて有効」との研究成果も【専門医が解説】

認知症にも「リハビリ」がある…症状の改善に「きわめて有効」との研究成果も【専門医が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

現状では、認知症は「治る病気」ではありません。しかし認知症の専門医・旭俊臣医師は、適切なケアを行えば「重度化」を防ぐことはできるといいます。認知症の症状を低減し、進行を遅らせる可能性があるとして近年注目を集めている「認知症リハビリ」について、概要を見ていきましょう。

認知症の進行を遅らせる「リハビリ」の重要性

アルツハイマー病というと症状が徐々に進行して治らない、そして介護が大変になるというイメージが強いかと思います。実際に、リハビリといえば骨折した人が歩けるようになるよう訓練するといった、運動機能を改善する介入方法というイメージが強く、認知症とリハビリは結びつきにくいのではないでしょうか。実は、医療業界でさえも、認知症に対して果たしてリハビリは有用なのか、その効果を疑問視する声がいまだに聞かれます。

 

しかし、近年になってようやくリハビリは認知症に対しても、病気の早期発見、適切な薬物療法とともに、症状を改善したり進行を遅らせたりする可能性の高い介入方法の一つとして認められつつあります。国立長寿医療研究センターの報告でも、認知症には早期発見や適切な薬物療法、介護ならびにリハビリの実施が病状改善や進行をある程度遅らせるのに有用であることが分かってきたとの報告があります。

 

さらに、進行した認知症でも、認知症が進むと昼間うとうとして夜寝ない、引きこもる、精神的に不安定になるなどのBPSDが現れますが、デイケア、デイサービスなどによるリハビリを受けると、もの忘れの改善とともにBPSDが改善されます。こうしたことも分かってきました。

「薬物療法+リハビリ」で進行を遅らせる効果が2~3倍

残念ながら現時点において、リハビリに確実な改善、維持効果を示すエビデンスは確立されていません。しかし、患者数が増加している現在、リハビリによって明らかな改善や症状進行の抑制が見られた症例が当院にも蓄積されつつあります。アルツハイマー病の場合、抗認知症薬による薬物療法は症状の進行を遅らせるためのベーシックな治療であり、今日の認知症治療には不可欠です。しかし、一般的に薬物療法は投与開始後3、4ヵ月はよく効きますが、その後効果は少しずつ落ちてきます。

 

ところが薬物療法にリハビリをあわせて行うと、進行を遅らせる効果が2~3倍、つまり半年から1年程度は続くことが分かってきています。さらに継続的にリハビリを行うことで、進行を緩やかにする効果が期待できます。

病期別に見るリハビリの有用性

認知症初期~中期にかけてのリハビリ内容は、主に認知面へのアプローチが中心となりますが、国内で広く行われており、改善症例が多く蓄積されている、いわゆるエビデンスレベルが高いとされているものは、回想法と見当識訓練を中心とするグループワークです。

 

これは、患者の生活歴を考慮した心理的・社会的介入の方法の一つと言い換えることができます。アルツハイマー型認知症の治療は薬物療法がベースにありますが、こうした介入はその薬効を最大限に引き出すために有効と考えています。患者の気持ちに寄り添うリハビリを行うことで心理状態が安定し、BPSD*の改善にもつながります(*BPSD:周辺症状とも。徘徊や妄想、暴力や暴言など、認知症中期から始まる症状を指す)。

 

また、血管性認知症においては多くの場合、脳血管疾患の再発防止のための薬物治療や生活指導が治療のベースにありますが、個々のケースにより歩行訓練や嚥下訓練などのリハビリもあわせて行われます。このことを考慮すれば、認知症に対しても認知機能の維持、向上を目指したリハビリが行われるのはごく自然な流れであり、一人の患者を包括的、全人的に診ることにつながるものと考えます。

 

認知症が進み後期になると、歩行障害で転倒して骨折し、入院するといったケースが多くみられるようになります。動かなくなることで認知症の症状は急激に悪化し、運動機能も当然ですが低下します。それがさらに認知機能の低下を呼ぶといった悪循環に陥りやすくなります。

 

こうしたケースでは、運動機能のリハビリと認知症リハビリを併用し忍耐強く続けることで、ともに改善効果が期待できます。

 

さらに症状が進み終末期に入ると、患者の多くは嚥下機能も低下し、食べ物をうまく飲み込めず、誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。この段階ではまず嚥下のリハビリを重点的に行うことが大切です。食べ物がうまく取れるようになると、元気が戻ってきて表情もいきいきとしてくるものです。そのうえで個々のケースに応じた運動機能のリハビリや声を出す、しゃべる、意思を表すといった面でのリハビリを行います。

 

終末期ではほとんどの場合で寝たきりとなり、表情も乏しくなってしまいますが、そのなかでも医療者や介護者がわずかな表情の変化を読み取り、コミュニケーションをとることは可能です。そのこと自体が患者にとっては、リハビリになり得るといっていいでしょう。

認知症リハビリは「きわめて有効」との研究結果も

認知症リハビリの国内での歴史は運動器に比べ浅く、一般的な知名度はまだ低いといわざるを得ません。読者のなかにも「認知症にもリハビリがあるの? 知らなかった」という人がいるかもしれません。

 

しかし高齢者医療や介護施設、認知症の治療に長く携わってきた施設では古くからその可能性に着目し、個々に研究、検証が進められてきました。

 

私も1970年代から北欧等へ視察に行き、そのノウハウを学びデイケアを開設しました。開設当初から、回想法を取り入れたリハビリを行い、認知症の改善に一定の効果が得られています。特に入院デイケアではBPSDの軽減と運動能力の改善に有効でした。

 

国としての認知症リハビリの効果検証はまだ途上にあるものの、近年では、「認知症短期集中リハビリテーション」について、介護老人保健施設の研究事業により「きわめて有効である」との見解が示されています。

 

認知症短期集中リハビリテーションは、介護老人保健施設にて2006年4月からスタートした軽度の認知症の患者を対象としたリハビリです。これは生活機能の改善を目的として行うものであり、記憶の訓練、日常生活活動の訓練等を組み合わせたプログラムを週2日実施することを標準としています。

 

具体的なプログラムは施設によりますが、のちに述べる回想法や折り紙・塗り絵などの作業療法、音読・計算などの学習療法、そして身体を動かす運動療法が大きな柱となっています。2009年4月からは制度の変更に伴い、中期以降の認知症に対しても行われるようになっています。

 

その効果の検証を目的として、全国老人保健施設協会にて調査研究が実施され、近年結果が報告されています。

 

それによると、認知症短期集中リハビリテーションは臨床的認知症重症度の進行予防にきわめて有効であることや、心の健康維持(意欲、活動性など)を通じて、ADLの改善が認められること、さらに入院患者であってもBPSDの改善によって自宅での療養に戻れる効果が期待されるといった大変好ましい成果が得られています。認知症短期集中リハビリテーションは、中核症状にもBPSDにもその改善に有効であることが示されたのです。

国立長寿医療研究センターも認知症リハビリに注力

リハビリで低減や予防が可能な症状は、中核症状である記憶障害だけではありません。介助者に大きな負担をもたらすBPSDも含まれます。特に認知症の中期から後期にかけては、中核症状よりもBPSDへの対応に時間やパワーがとられるので、これらが抑制できることは介助者にとっては大きなメリットといえるでしょう。

 

とりわけ予防改善効果が見られることの多いトレーニング法として、「回想法」と「RO(リアリティ・オリエンテーション)」が知られています。

 

ご存知のとおり、運動器のリハビリでは主に動かすことによって損なわれた機能を取り戻します。脳の場合は、運動器のようにリハビリで機能を取り戻すまでは期待しにくいものの、働かせることで機能の維持や低下を遅らせることは可能なのです。

 

国立長寿医療研究センターでも近年、新たな取り組みとして、同センター内のリハビリテーション科ともの忘れセンターとが協同し、認知症に対するリハビリテーションに注力しています。

 

ただしリハビリは、それ単体では記憶障害をはじめとする認知症の諸症状の緩和や予防に限界があることも指摘されています。医療・介護連携における包括的な介入の一つとして、薬物療法と組み合わせて行われるべきであることをいま一度、強調しておきます

 

旭俊臣

旭神経内科リハビリテーション病院 院長

 

 

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※本連載は、旭俊臣氏による『増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症 』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

旭 俊臣

幻冬舎メディアコンサルティング

近年、日本では高齢化に伴って認知症患者が増えています。罹患を疑われる高齢者やその家族の間では進行防止や早期のケアに対する関心も高まっていますが、本人の自覚もなく、家族も気づいていない「隠れ認知症」についてはあま…

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