(※写真はイメージです/PIXTA)

精神科の診察時間は「1回5分ちょっと」が主流です。なぜこれほどまでに短いのでしょうか? その理由を、早稲田メンタルクリニック院長・益田裕介氏の著書『精神科医の本音』(SBクリエイティブ)より抜粋し、見ていきましょう。益田医師は、登録者数30万人超のYouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」の運営者でもありますが、動画投稿を始めた理由も、この診察時間の短さが関係しているといいます。

「診察時間の短さ」は精神科医にとっても悩みの種

「診る患者さんをしぼるわけにはいかない」けれど、そうすると「1人ひとりにかけられる時間が短くなってしまう」。この葛藤は、多くの精神科医が抱えるものでしょう。私も、そのどうしようもない状況に、もどかしさを感じていました。

 

せめて再診に使える貴重な5分+αは、有意義に使いたい。

 

精神科医が診療で行う重要な仕事として、

 

●患者さんの話を聞く

●患者さんに治療に関する説明をする

 

がありますが、私は患者さんの背景を知ったり、主要な悩みを見出すのに使いたいと思っていました。逆に、治療の説明で使ってしまうのはもったいないと思っていました。

 

そこでまず始めたのが、「病気や薬の説明を書いた紙を患者さんに手渡す」という試みです。これは先輩ドクターがやっていたのを、私も真似ただけです。病院によってはあらかじめ、説明すべき内容をプリントにしてあるところもありますが、私はそれ以外にも自分なりにアレンジしたものを複数作っていました。「家で読んでくださいね」と渡していたのですが、スマホが普及すると、若い人にとってはプリントは煩わしいようで、すぐ捨てられてしまいました。

 

次に行った工夫は、「病気や薬の説明をクリニックのHPに掲載する」ということでした。紙だと読まないなら、スマホで見られるようにブログ形式で掲載して、「ここを読み返してくださいね」と伝えました。それでも、元気のない患者さんにとって、テキストを読むのはひと苦労で、あまり読んでくれませんでした。

 

そのうち何人かの患者さんから同時期に、「先生、病気のこととか薬のことをYouTubeにアップしてくださいよ」とリクエストされるようになりました。大学生などの若い人たちにとって、YouTubeで検索し、動画で授業などを受けることは当たり前だったのです。そこで今度は動画を作り、YouTubeに上げていきました。すると、プリントやブログを読まなかった患者さんも動画を見てくれるようになったのです。

 

最初はクリニックの患者さん向けに撮っていただけだったのですが、新型コロナの流行をきっかけにYouTubeを見る人が増え、日本中で見られるようになり、今にいたっています。

 

■病気を治すには、患者自身に病気の知識があるかどうかも重要

知識があるかどうかで、患者さんの治療への取り組みは大きく変わってきます。糖尿病なども「このまま放っておくとどうなってしまうのか?」といった知識がなければ、生活習慣を改善しようと思わないし、薬を飲み続けないでしょう。

 

精神科の治療は、薬だけでは治りません。自分で規則正しい生活をする、トラウマを理解する、考え方を変える…そういったことをしなくてはなかなかよくなりません。正しい疾病教育が重要になります。

 

 

YouTubeで動画を配信したおかげで、患者さんが家で自分の病気について勉強してから来院し、わからないことについて質問してくれるようにもなりました(これを反転学習と言います。予習してから授業に臨むように、学習効果がとても高いものです)。

 

診察時間の5分で医師から病気や薬の説明をする時間が減り、その分、患者さんの生い立ちや、悩みごとを聞くために使えるようになりました。話を聞いてもらえることで、患者さんの心は軽くなりますし、治療効果も高まります。

 

そういう考えから、今も動画配信を続けています。

 

益田 裕介

早稲田メンタルクリニック 院長

 

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※本連載は、益田裕介氏の著書『精神科医の本音』(SBクリエイティブ)より一部を抜粋し、再編集したものです。

精神科医の本音

精神科医の本音

益田 裕介

SBクリエイティブ

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