(※写真はイメージです/PIXTA)

精神科の診察時間は「1回5分ちょっと」が主流です。なぜこれほどまでに短いのでしょうか? その理由を、早稲田メンタルクリニック院長・益田裕介氏の著書『精神科医の本音』(SBクリエイティブ)より抜粋し、見ていきましょう。益田医師は、登録者数30万人超のYouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」の運営者でもありますが、動画投稿を始めた理由も、この診察時間の短さが関係しているといいます。

なぜ精神科の診察は「わずか5分程度」で終わるのか?

実際の診療がどうなっているのか、お伝えしていきます。

 

診療時間に関して言うと、初診は30分から1時間程度、再診は5分+αというのが、一般的な外来診療かと思います。

 

「えっ、通院するようになっても、たった5分しか診てくれないんですか? 短すぎませんか?」

 

と思う人が多いかと思います。私もたしかに「短いですよね」と思います。

 

なぜ「1回5分ちょっと」で診療が終わってしまうのか。その理由は大きく2つあります。

 

理由①「1回5分ちょっと」にせざるを得ない“制度上の問題”があるため

1つは、診療報酬制度の問題です。病院経営は主に、診療行為に対して医療保険から支払われる報酬によって成り立っています。そして、その診療報酬は、点数として細かく決められているのです。

 

精神科の医療報酬は、「医科診療報酬点数表:第8部精神科専門療法」というものにまとめられています。

 

基本的な外来診療は、「通院・在宅精神療法」という項目の中でまとめられていますが、初診の場合は、「60分以上で540点(5400円)」、再診の場合は「5分以上、30分未満であれば330点(3300円)、30分以上はいくら長い時間診ても400点(4000円)」と定められています。

 

つまり、再診については、5分診ても、29分診ても、同じ報酬にしかならず、かつ30分以上いくら時間をかけて診療しても、700円しか違いが出ないのです。

 

こう書くと、儲けしか考えていないように思われるかもしれませんが、病院も潰れるわけにはいかず、経営をしていかなければなりません。「長くやっても同じなら、点数表に従って、『再診は5分+α』でいこう」と考えるのは自然なことですし、制度としてそう設計されているのです。

 

理由②圧倒的な精神科医不足の中、少しでも多くの患者を診るため

もう1つの理由は、こちらの方が理由として大きいのですが、精神科医の数と患者さんの数の割合です。精神科医が患者さんに対し、圧倒的に足りていないのです。

 

現在、日本で精神科医療を受けている患者さんの数は400万人を超えていると言われています。それに対して、精神科医の数はわずか1万5000人程度です。

 

精神疾患の患者さんの場合、治療が長期化することが多く、通院回数も多いので、延べ人数としてはさらに膨大な数になります。おまけに、1万5000人の精神科医のすべてが、私のように毎日患者さんを外来で診ているわけではありません。教授職や研究職など、臨床に携わっていない人も多く含まれますし、入院患者さんを中心に診る方もいるので、実際に1人の精神科医が受け持つべき患者さんの数は、単純計算するよりもはるかに多くなります。

 

私の場合、「再診5分+α」という標準的な時間をもとに、「30分で4人の患者さんを診る」ようにしています。それで週5日、1日8時間診ても、私のクリニックが1年間で診られる患者さんの数は、800~900人程度です。

 

これを「1人の患者さんに1時間かけて向き合う」としたら、とてもこれだけの数の患者さんを診ることはできません。「徹底的に患者さんに向き合う」というのは、1つの理想の形ではあるかもしれませんが、そうして「1日に10人にだけ最高の医療を施す」といったことになると、多くの患者さんを受け付け拒否にせざるをえませんし、結果として富裕層だけが少ない枠を享受することになってしまうわけです。

 

「初診の予約をしようとしたら数ヵ月先になってしまった」という話も聞きます。「治療を望んでいるのに、すぐには受け付けてくれない」と悩む患者さんが全国各地にいるわけです。

 

短時間で患者さんを診ているのは、1人ひとりの患者さんをないがしろにしているのではなく、少しでも多くの患者さんを診たいという精神科医の願いがあるからなのです。

次ページ「診察時間の短さ」は精神科医にとっても悩みの種

※本連載は、益田裕介氏の著書『精神科医の本音』(SBクリエイティブ)より一部を抜粋し、再編集したものです。

精神科医の本音

精神科医の本音

益田 裕介

SBクリエイティブ

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