(※写真はイメージです/PIXTA)

精神科の再診は「5分+α」が一般的です。通常の診察では話す時間が限られているため、カウンセリングを受けてみたいと考える人もいるでしょう。しかし心理士によるカウンセリングには保険が適用されないため、決して安くありません。早稲田メンタルクリニック院長・益田裕介氏の著書『精神科医の本音』(SBクリエイティブ)より、「なぜ『カウンセリング』にはお金がかかるのか?」を見ていきましょう。

精神科のカウンセリング料、相場はいくら?

日々の診療は「診療報酬制度」に基づいて行われています。この治療だと何点、この検査は何点、何分以上話すと何点、と決められていて、すべての病院やクリニックがその制度のもとに診療をしています。

 

医療費負担としては一般的な医療と同じで、3割を患者さんが負担し、残りの7割は社会保険や国民保険から出ています。

 

ただ、この診療報酬制度に絡むのは、主に医師による診療の場合のみです。心理士によるカウンセリングは、診療報酬制度上、治療行為としては定められていません。つまり、保険診療の中にはカウンセリングによる治療は設けられていないのです。

 

カウンセリングの料金は決まってはいませんが、相場としては1回30分~1時間で、6000円~1万円程度というところが多いでしょう。そのため、月に数回カウンセリングに通うとなると、患者さんとしては安くない出費になります。医師による診察料は、だいたい1500円程度なので(保険診療で3割負担の場合)、割高に感じる方も多いと思います。

 

値段の相場感として、美容院に行くことを想像してもらえると、まぁ、そんなものなのかなと思っていただけると思います。1人の専門家を1時間ほど拘束するので、場所代などもかかりますから、だいたい美容院と同じような値段になります。東京なら家賃が高いので、値段も上がってしまうのも、美容院の場合と似ています。オンラインカウンセリングが普及すると、オフィス代がかからなくなる、もしくは安くなるので、値段が下がるかもしれません。

なぜ心理士によるカウンセリングは保険適用外なのか?

心理士によるカウンセリングも、自費のままではなく、保険適用される制度になってほしいという思いはあります。ただ、一向に進展しないのは、

 

●治療効果に対するエビデンスが示しづらい面があるから

●国家予算としての医療費が上がってしまうから

 

という2つが原因としてあるのかな、と思います。もし保険適用となったら、

 

「そんな予算があるなら、そのぶんを生活保護に回した方がいいんじゃないか」

 

「カウンセリングを受けたからといって、必ずしも仕事ができるようになるわけじゃない。だったら、職業訓練支援に予算を割いた方がいいんじゃないか」

 

といった意見が出てくるのは間違いありません。

 

カウンセラーは、基本的に受け身の姿勢で、時間をかけて患者さんから話を聞いていきます。それで患者さんが徐々によくなっていくことはありますし、大切な治療なのですが、「カウンセリングに通ったら、急によくなった!」といった、劇的で目に見える治療効果があるわけではありません。

 

そのような治療行為ですから、「国家予算を優先的に割いてください」という主張を通すためには、説得するだけの根拠を示すのが難しいことは否めません。

 

また、保険適用になると、「悪用しやすい」という面もあります。たとえば、生活保護を受けている方を連れてきて、延々と話を聞くだけで、どんどんお金が得られてしまう――といったことが起こりえます。生活保護受給者は、医療費がすべて無料で、お金の負担がかからないので、際限なくカウンセリングを受けられてしまいます。

 

実際に、とあるクリニックで、生活保護の方の治療だからとほぼ強制的に毎日デイケア(保険適用)に通わせることで、荒稼ぎをしていたという問題がありました。現状を鑑みると、心理士によるカウンセリング行為を医療行為として保険適用することは、難しいと言わざるをえません。

精神科医によるカウンセリングなら保険適用可だが…

もしかしたら読者の方の中に、「自分は心理士によるカウンセリングでも、保険適用されていますよ?」と疑問を持たれた方がいらっしゃるかもしれません。その場合は、「違法行為」としてのカウンセリングを受けている可能性があります。

 

心理士にカウンセリングを行わせ、その行為を「医師による精神療法」という枠組みに入れ、カウンセリング料を保険適用で処理してしまっているクリニックは、実体としては存在しています。つまり、心理士がカウンセリングをしているのに、医師がカウンセリングをしたことにしてしまっているのです。

 

これは日本の医療業界に存在する「いい加減さ」の1つで、完全な違法行為です。儲けのために悪意で行っているわけではなく、患者さんのためを思っての対処かもしれませんが、本来ならば許される行為ではありません。

 

もちろん精神科医によるカウンセリングを受けている場合には、保険適用されて何も問題ありません。

 

ちなみに、なぜ「精神科医が患者さんから話を聞く行為」は、医療行為として認められ、他の科のドクターは特別な診療報酬を受け取れないのでしょうか?

 

「他の科の医師だったら、患者さんから話を聞くだけでは、追加で点数をもらえないのはなぜ?」

 

「心理士はいくら話しても診療報酬をもらえないのに、なぜ精神科医ならよいの?」

 

そうした疑問はもっともで、特別なトレーニングを受けた人間の対話行為が医療として認められるなら、精神科医以外にも適用されて然るべきかもしれません。

 

しかし、精神科医は採血などの検査はなく、手技も特になく、普通の初診料と再診料、処方箋料だけだと他科と比べて経営的に貧乏になってしまう。そのため、カウンセリングという手技を行っている、というふうに加算することで、他の科と大きく差が出ないようにしているのが実情かもしれません。

病院が潰れないためにも、通院精神療法を行うのが堅実

精神科の診療報酬体系(=何をしたら報酬が出るか)は、診療の種類によって点数が決められています。前回の記事で再診が5分+αになる制度的理由を説明しましたが、より詳しく説明していきましょう。

 

まず「初診料」もしくは「再診料」があります。次に「通院精神療法(ごく一般的な診療)」があり、それ以外にも、「認知行動療法」「精神分析」のようなものもあります。

 

あとは深夜などの「時間外加算」や、20歳未満の患者さんだと1年間につきプラス何点かもらえる「児童思春期加算」などがあります。

 

最後に、薬を処方して得られる「処方箋料」。これらが基本になります。

 

保険点数の内訳として、一般的なのは「再診料+通院精神療法+処方箋料」で、だいたい患者さん1人当たりの負担額は1500円くらいで、病院には5000円程度が入る計算になります。

 

一般的な診療として認知行動療法や精神分析が選ばれないのはどうしてでしょうか? 「認知行動療法」は、「医師が5分以上、さらに看護師が30分以上行った場合」に、350点(3500円)と定められています。しかし、そもそも「通院精神療法」なら、「医師が5分以上」というだけで330点(3300円)になるので、単純計算として、「看護師が30分以上行った」医療行為の点数は、20点(200円)という換算になってしまいます。

 

「精神分析」にいたっては、「45分以上」で390点(3900円)です。「通院精神療法」として、患者さんと普通に対話した方が儲かり(30分以上の再診料は480円)、わざわざ「精神分析」を行うと、かえって10点(100円)減額される、ということになります。

 

 

「認知行動療法」や「精神分析」も医療行為として認められているとはいえ、要するに骨抜き案件になっています。

 

中には、そうした精神療法を受けられる病院もありますし、「特別な精神療法は行うな」という国からの暗黙のメッセージかと言うと、さすがにうがちすぎかもしれませんが、こうした事情もあり、現場のリアルとしては、通院精神療法を行うしかないのかな、と思っています。

 

 

益田 裕介

早稲田メンタルクリニック 院長

 

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※本連載は、益田裕介氏の著書『精神科医の本音』(SBクリエイティブ)より一部を抜粋し、再編集したものです。

精神科医の本音

精神科医の本音

益田 裕介

SBクリエイティブ

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