日本国籍を離脱した相続人…相続放棄の手続きは必要?
【相談内容】
横浜に住む父親の弟にあたる叔父が亡くなり、相続が発生しました。
父親はきょうだいが多く、すでに亡くなっている人もいます。そのため、甥姪を合わせると相続人は10人以上います。
相続の手続きは、わずかばかりの銀行預金と、叔父の自宅の不動産のみです。
不動産の登記については、司法書士に依頼をしています。
また全体として相続財産の額がわずかなので、相続人のほとんどは相続放棄を検討しています。
ただ、甥姪のうちの1人がアメリカ人と結婚し、長年アメリカで生活しています。また、アメリカ国籍を取得後、日本国籍は離脱しています。
この相続人の場合、そもそも相続放棄の手続きが必要なのでしょうか? また相続放棄をすることは可能なのでしょうか?
相続放棄の手続きは、相続人の国籍に関係なく必要
【回 答】
相続が発生したとき、相続人は相続を承認するか(単純承認)、または相続を放棄するかを選択しなければなりません。
相続を放棄すれば、被相続人の権利や義務を一切受け継がないため、借金を相続することもありません。この手続きを「相続放棄」といいます。これは遺された相続財産よりも借金などの負債が大きい場合に認められる、相続人の権利です。
そして、「単純承認」あるいは「相続放棄」の検討は、相続人であれば全員に必要です。
現在の国籍は関係ありません。
このため、最初の質問に対しての回答としては、「相続放棄が必要」という回答になります。
相続放棄をするのか、相続を承認して遺産分割協議書などに参加するかについては、相続の開始を知ってから3ヵ月以内に行わなければなりません(※1)。
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。
◆「元・日本国籍」の相続人が相続放棄する場合、必要となる書類
また、元々は日本国籍だった方が、外国籍の方と婚姻したことで外国籍を取得していることがあります。
こうした「元・日本国籍」で、現在は外国籍の相続人の方が相続放棄をする場合、どのような書類が必要になるのでしょうか。
元日本国籍を保有していた相続人が、その後に何らかの理由によって、ほかの国籍を取得(帰化)している場合、日本人ではなくなっているため、日本に戸籍がありません。
そのため、相続放棄手続きにおいて必要となる、自身の現在の戸籍を取得することは不可能です。日本では原則として二重国籍の保有を認めていないことが理由です。
こうした方の相続放棄手続きの場合、通常の相続放棄手続きにおいて必要となる戸籍や住民票等のほかに、「日本国籍を喪失したことがわかる戸籍(日本国籍を喪失した旨が書かれている戸籍)」が必要になります。
一例ですが、日本国籍を離脱した記載のある「改正原戸籍」などがこれに当たります。
この戸籍において、他国の国籍を取得したことが明らかな場合は、諸外国籍を取得したことがわかる証明書までは求められないことが多いです。筆者が取扱った横浜の家庭裁判所におけるケースではそうでした。
なお、通常通りの相続放棄に関する戸籍などは必要ですので、下記のリンクなどでご確認ください。
相続放棄が認められれば、最初から相続人ではなかったことになりますので(※2)、日本に戸籍や住所がなく、印鑑証明書などの取得ができなくても、相続手続きを進めることが可能でしょう。
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
ただ、申し立てる管轄の裁判所裁判官の判断や、日本の戸籍において諸外国の戸籍を取得したことが明らかにならない場合、不明点が多い場合などは、別途書類を用意する必要が生じる可能性もあります。詳しくは直接、申立先となる管轄裁判所や、渉外相続の手続きに詳しい司法書士などの各専門家に委任すべきでしょう。
近藤 崇
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】