「モノの課題への回帰」は日本企業にとっての好機
世界では、気候変動が新たな「課題」となり、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)を中心に、取り組みが進みつつあります。その市場規模は世界全体です。
そして、ウクライナ危機が新たな食糧・エネルギーの問題をもたらしました。新たな「東西分断」により、食糧やエネルギー資源の生産が豊富で、他国に輸出できる国は、米国の側に付くのか、中国の側に付くのかの選択を迫られることになるでしょう。
気候変動対策と東西分断により、日本を含め、多くの国は1次産品の供給不足に直面したり、より一般的な製品の生産コストも上昇するとみられます。「物質的な平和」は終わり、世界は再び、「モノに関する課題」や「目に見える課題」の解決を求められています。その自然な帰結として、ディスインフレからインフレへと転換しつつあります。
他方で、日本は、食糧自給率が低く、エネルギー資源に乏しい、少子・高齢の国家であり、しかも、地政学リスクが極めて高い地域に位置しています。日本にとって、現在の危機の程度は、戦後最大の危機であるオイルショックを上回るでしょう。
新型コロナウイルス、気候変動、食糧やエネルギーの調達、世界の分断、地政学リスク、高齢化といった逆境は、日本が最も豊富に有しているといえるでしょう。成長は、逆境から生まれます。
また、インターネットやプラットフォームとは違い、(世界市場が共有する)今般の気候変動や食糧・エネルギーの調達、(やがては他の先進国でも共有される)高齢化、いい換えれば、省エネや省力化の問題は、日本の企業にとっては得意な「見える課題」です。
加えていえば、現在、欧米諸国では賃上げを求めるストが相次ぐ一方で、日本の物価や賃金の伸びは相対的に抑制されています。それは、1970年代と同様、我々家計に痛みを与えながらも、国際競争の観点では日本に優位性をもたらしています。
もちろん、この一方で、今後、世界中に高い生産性の伸びをもたらすような産業技術が日本国内でいま蓄積されなければ、現在の賃金の抑制は過去20年と同様に生産性の低迷と整合性を持つのみで、国際的な競争力の上昇をもたらしません。
"競争する日本"復活のカギは「高い交易条件」
食糧やエネルギーの乏しさや、準備通貨としての円の地位が低いことを踏まえれば、日本には高い交易条件が必須でしょう。高い技術力がなければ「高く売れるもの」がなく、我々が交換に得られる食糧やエネルギーの量も少なくなってしまいます(→ただし、日本が安全な独立国家として歩んでいくには、付加価値の高い財やサービスを生み出すだけでは不十分でしょう)
日本の企業が「見える課題」にひとつずつ対処していけば、技術と競争力は蓄積されます。ただし「企業とは、その構成メンバーである我々自身」です。企業や社会のメンバーひとりひとりが「危機を認識し、これを共有できるかどうか」が、我々自身の現在と未来にとって最も重要なカギとなるでしょう。