(※写真はイメージです/PIXTA)

今回のロシアのウクライナ侵攻は、国際ルール上決して許されるものではありません。しかし、今後日本の外交は重要になってきます。日本がよって立つべきは、田中角栄が指向した全方位外交であるとジャーナリストの田原総一朗氏は指摘します。田原総一朗氏が著書『田中角栄がいま、首相だったら』(プレジデント社)で解説します。

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日本の貿易は特定の国に偏り過ぎている

日本とソ連は1955年から1956年にかけて日ソ国交回復交渉を行ったが、当時外相だった重光葵がロンドンのアメリカ大使館を訪れ、国務長官のダレスに対して「歯舞群島、色丹島を日本に引き渡し、国後島、択捉島をソ連に帰属させる」というソ連側からの提示された領土問題に関する提案について説明したところ、激しく反発されたという。

 

ダレスは「千島列島をソ連に帰属せしめるということは、サンフランシスコ講和条約でも決まっていない。したがって、日本側がソ連案を受諾する場合は、日本はソ連に対してサンフランシスコ条約以上のことを認めることとなる次第である。かかる場合は同条約第26条が作用して、アメリカも沖縄の併合を主張しうる地位に立つわけである。ソ連の言い分はまったく理不尽であると思考する」と言ったというのだ。

 

それ以前にもアメリカ国務省はワシントンの日本大使館に「日本がソ連案を受諾するならば、アメリカは沖縄を併合することができる地位に立つ」と伝達してきた経緯がある。「ダレスの恫喝」は個人的発言ではなく、アメリカの国家意思に基づいたものなのだ。

 

■アメリカと中国に傾斜した外交から決別せよ

 

日本はグローバル化の必要性を叫びながら、実際に進めてきたものはアメリカと中国への過度の依存にすぎない。

 

とりわけ日本はここ50年の間に中国との距離を急速に縮めた。それは角栄の功績である。1972年9月29日、当時の中国の首相・周恩来と北京で共同声明に署名、「恒久的な平和友好関係を確立する」ことを宣言し、日中国交正常化に道を開き、以来、日本と中国の関係を一気に緊密化させていった。「急ぎすぎた」感はあるものの、中国との関係緊密化は時代の流れでもあった。ただ、ここまでくれば中国への過度の依存である。

 

それは数字が証明している。2007年、中国はそれまで輸出入総額(年ベース)でトップだったアメリカを追い抜き、日本にとって最も大切な貿易相手国となった。その後、取引の量は拡大の一途をたどり、2018年の輸出入総額は35兆914億円。第2位のアメリカ(24兆4851億円)の1.43倍の規模だ。構成比でみると全体の21.4%。アメリカが14.9%だから合算すれば、全体の36.3%もの貿易取引をアメリカと中国の2国に依存している。

 

「グローバル化」という割には、日本の貿易は特定の国にあまりに偏り過ぎている。

 

2020年からのコロナ禍はこれを浮き彫りにした。これでは感染症防止に不可欠なマスクの調達ひとつ、ままならない。政府が「国民の不安を解消する」と総額260億円の税金を突っ込んだアベノマスクは「お金の無駄遣い」と批判を浴びたが、問題はそこではない。自国で生産を維持すべきものと他国に依存しても問題がないものの整理がまったくされてこなかった。これこそが問題なのである。

 

マスクは単なる一例にすぎないが、日本が無防備に国を開いてきた証左に他ならない。何年かに一度の割合で今回の新型コロナのようなパンデミック(世界的感染拡大)が発生する確率が常にあることと、それに対し抜本的な感染拡大を防ぐ備えをしておくことの必要性は、専門家によって以前から指摘されてきたことである。

 

にもかかわらず、日本政府はこの問題を放置してきた。その結果、日本は自国民の生命を守る手はずさえ放棄してしまっていたのだ。日本衛生材料工業連合会の統計では、2018年に国内で供給された約55億枚のマスクのうち、日本製はわずか2割で残りは輸入品である。マスクの原材料となる不織布も日本企業の比率は2割で、ほとんどが中国産だという。これでは、いざというときに国を守れない。

 

もちろん日本にとって、グローバル化は必須である。しかし、それは決して欧米や中国への傾斜を意味しない。日本に求められるのは、バランスのとれた真のグローバル化である。憲法9条を擁する平和国家の日本にはそれができる。アメリカや中国との取引はもちろん重要だが、ロシアや北朝鮮、イスラム圏との取引も同様に重視し、拡大していくのだ。

 

それを実現できる国は世界のなかで日本だけなのだ。日本は本物のグローバル化を志向しなければならない。

 

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    本連載は田原総一朗氏、前野雅弥氏の著書『田中角栄がいま、首相だったら』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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