(※画像はイメージです/photo AC)

中小企業の経営者のなかには、事業承継を検討しているのにいまひとつ内容がわからないという方もいるはずです。本記事では、実際に事業承継の必要が生じたときに備えて、注意点や失敗しないコツについて解説します。

会社にとって事業承継は避けて通れないもの。しかし、「どこから始めたらいいのかわからない」と悩んでいる経営者も少なくありません。実際に、事業承継がうまくいかずに廃業に至った企業もたくさんあります。

 

この記事では、事業承継の意味から実際に多くの企業が抱えている問題点と解決策まで、初めての人でもわかるように解説します。

目次
1. 事業承継とは?事業継承との違いも解説
1.1.「事業承継」とは現経営者が会社経営を後継者に引き継ぐこと
1.2.「事業継承」とは引き継ぐ内容や言葉のニュアンスが違う
2. 事業承継で引き継ぐものは主に3つ
2.1. 人:経営者としての権限や従業員など
2.2. 資産:株式・資金など
2.3. 知的資産:経営理念・人脈・組織力・ブランドなど
3. 誰に引き継ぐ?事業承継の種類を解説
4. 中小企業の事業承継における課題・最近の傾向
4.1. 後継者が見つからずに廃業する中小企業も多い
4.2. 廃業予定の企業のなかには成績が好調な場合も
4.3. M&Aによる事業承継が増えている
5. 事業承継を円滑に行うためのコツを紹介
5.1. 早めの段階から準備を進める
5.2. 税理士や事業承継士など資格を持った人に相談する
5.3. 税金対策を行う
5.4. 必要な資金を集めておく
5.5. わかりやすい言葉でまとめられている本を活用する
6. 円滑な事業承継に役立つ「事業承継税制」
6.1. 事業承継税制とは納税猶予が受けられる制度
6.2. 2019年の税制改正で個人事業主も対象に
7. 事業承継に利用できる公的制度
7.1. 事業承継・引継ぎ補助金
7.2. 事業承継引継ぎ支援センター
8. 事業承継に関するマッチングサービスもある
9. まとめ

1. 事業承継とは?事業継承との違いも解説

(※画像はイメージです/photo AC)
(※画像はイメージです/photo AC)

 

事業承継とは会社を後継者に引き継いでもらうことですが、実際に事業承継を行う前に入念に準備しておく必要があります。本当に必要な状況になったときにはっきりと理解していない経営者も少なくありませんので、今ここでしっかりと理解しておきましょう。

 

1.1.「事業承継」とは現経営者が会社経営を後継者に引き継ぐこと

「事業承継」とは簡単にいうと、会社を続けて経営していくため現経営者の認めた後継者が、会社の経営を引き継ぐことです。この「事業承継」には法的な意味合いがあり、ただ単に経営を丸投げするだけのことではありません。

 

ふさわしい経営者に経営を引き継いでもらい、かつ後継者が経営を以前と変わりなくスムーズに行うために、必要なものをすべて引き継いでいく必要があります。

 

1.2.「事業継承」とは引き継ぐ内容や言葉のニュアンスが違う

「事業承継(じぎょうしょうけい)」と似た言葉に「事業継承(じぎょうけいしょう)」という言葉がありますが、これらの言葉は似て非なるものです。

 

継承は「王位継承」という言葉があるように、「身分、権利、財産」などを引き継ぐことですが、承継とは「精神、地位、事業」を受け継ぐものです。

 

このように「事業継承」なら単に経営を引き継いでもらうだけで成功したことになりますが、「事業承継」するためには、今まで培ってきた経営精神や文化など有形・無形のものまでしっかりと引き継いでもらうことが必要です。

2. 事業承継で引き継ぐものは主に3つ

事業承継で引き継ぐものは、主に次の3つです。

 

  1. 資産
  2. 知的資産

 

事業承継で何を引き継ぐのかをはっきり理解しておくと、準備のために何が必要かが見えてきますし、事業継承のためにかかる費用も大幅に削減することができます。

 

2.1. 人:経営者としての権限や従業員など

まず事業承継では「人」を引き継ぎます。これはつまり経営者としての権限を引き継ぐことであり、この「人」の引き継ぎをしっかり行うことで、従業員や取引先も新しい経営者についていきやすくなります。

 

人、つまり権限を親族や社内で引き継ぐためには、早い段階から後継者育成をする必要があり、後継者育成には時間がかかります。もし後継者が見つからないなら、M&Aを検討する必要が生じてきます。

 

2.2. 資産:株式・資金など

続いて、事業承継では「資産」を引き継ぎます。これは会社の株式や保有する資金、動産・不動産が含まれます。

 

これら資産を後継者に贈与する場合、評価額に応じて贈与税や相続税が発生しますが、タイミングや対策によって税率が大きく変わることも覚えておきましょう。なお、M&Aなどで売却した場合は所得税の課税対象になります。

 

2.3. 知的資産:経営理念・人脈・組織力・ブランドなど

そして事業承継は「知的資産」を引き継ぎます。これには経営理念、人脈、組織力、ブランドなど無形で抽象的なものが含まれます。この知的資産を引き継ぐことによって、今まで築き上げてきたノウハウや人脈などが事業承継前と同じように経営するのに役立ちます。

3. 誰に引き継ぐ?事業承継の種類を解説

事業承継は大きく分けて現経営者の親族に引き継ぐ「親族内承継」、自社の役員や社員に引き継ぐ「親族外承継」、そして第三者に引き継ぐ「M&A」の3つがあります。

 

次のようにそれぞれメリットデメリットがあるため、誰に引き継ぐかは慎重に検討する必要があります。

 

 

親族内承継

親族外承継

M&A

メリット

  • 後継者の育成期間を確保できる
  • 生前贈与や相続などで資産を引き継ぐことができる
  • 周囲が後継者を受け入れやすい
  • 会社内外の多くの候補者のなかから適者を選べる
  • 引き継ぎしやすい
  • 株式の売却益を得られる
  • 適した人材を候補者に選べやすい
  • 株式の売却益を得られる

デメリット

  • 複数の候補者がいると経営権争いに発展するリスクがある
  • 後継者が受け入れない、あるいは素質がない可能性
  • 経営スタイルがあまり変わらない
  • 株式の買取りのための資金不足になる可能性がある
  • 後継者の負担となる個人保証を引き継がなければならない場合がある
  • 不利な条件で売却になる場合がある
  • 売却までに時間がかかる

 

4. 中小企業の事業承継における課題・最近の傾向

(※画像はイメージです/photo AC)
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中小企業の事業承継における最近の共通の課題は後継者問題です。大企業のように経営者の交代が頻繁に起こるわけではないため、ふさわしい後継者を見つけるのは簡単なことではありません。

 

4.1. 後継者が見つからずに廃業する中小企業も多い

残念ながら中小企業のなかで後継者が見つからず、廃業になってしまうケースがとても多いのが現状です。

 

すでに解説した通り事業承継には3種類(親族内承継、親族外承継、M&A)ありますが、もしこの3種類ともふさわしい後継者が見つからない場合、廃業するしか選択肢はなくなってしまいます。

 

「全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)」によりますと、調査した約26万6,000社のなかで、後継者が見つかっていない企業は全体の61.5%の16万社もいることがわかっています。4年連続で不在率は低下しているものの、依然として過半数の企業が後継者問題を抱えていることがわかります。

 

4.2. 廃業予定の企業のなかには成績が好調な場合も

なおも残念なことに、廃業予定の企業のなかには業績が悪化して廃業せざるを得なくなるのではなく、成績が好調なのに、ただ後継者がいないというだけの理由で廃業してしている企業がたくさんあります。

 

「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年調査)」によりますと、「業績がよい」、または「ややよい」と答えた廃業予定企業がおよそ31.1%もいることがわかっています。

 

4.3. M&Aによる事業承継が増えている

こうした問題により、M&Aによる事業承継が増加傾向にあります。最近では子供や親族が自分のやりたい仕事をしたいという理由から事業承継を断るケースが多々あり、また社内でも信頼できるふさわしい後継者がなかなか見つからないようです。

 

こうなると、M&Aにするか廃業するかの2択に迫られてしまいます。事業承継がうまくいかないと、取引先や従業員に迷惑をかけてしまうことになりますので、結局のところ後継者が見つからない場合、M&Aつまり第三者に引き継ぐのが最も確実、かつ合理的であるといえるでしょう。

5. 事業承継を円滑に行うためのコツを紹介

(※画像はイメージです/photo AC)
(※画像はイメージです/photo AC)

 

事業承継を円滑に行うために、次の5つの点を今から始めることをおすすめします。

 

  1. 早めの段階から準備を進める
  2. 資格を持った人に相談する
  3. 税金対策を行う
  4. 事業承継のために必要な資金を集めておく
  5. 事業承継に関する本を買っておく

 

それぞれのポイントについて詳しく解説します。

 

5.1. 早めの段階から準備を進める

事業承継は実行までに10年かかるといわれていますので、できるだけ早い段階から準備を進めておく必要があります。平均引退年齢がおよそ70歳であるということを考えると、最低でも60歳からは準備を始めておかなければなりません。

 

経済産業省の「中小企業白書」によりますと、事業承継の後継者選びだけで、1年超3年以内が42.4%、3年超が37.1%もいることがわかっています。

 

後継者がまだ決まっていない場合は、候補者を何人か早めに決めておく必要がありますし、後継者がすでに決まっている場合でも、教育に時間がかかりますので、できるだけ早く準備しておいて損になることはありません。

 

5.2. 税理士や事業承継士など資格を持った人に相談する

事業承継は決めることがとても多く、専門的な知識が必要になりますので、早い段階で税理士や事業承継士などの資格を持った人と相談するようにしましょう。

 

税理士は事業承継の仕事に直接関わっているわけではありませんが、会社の決算や税務の面で精通していますので、ふさわしいアドバイスをもらえます。専門外の知識については誰に相談すべきかをアドバイスしてくれますし、事業承継士やM&A仲介会社を紹介してくれることもあります。

 

いずれにしても事業承継は時間がかかりますので、できるだけ早く準備を始めることも大切ですが、準備を始める前に相談するようにしておくことも大切です。

 

5.3. 税金対策を行う

税金対策を早めに行っておくことで、不必要な税金の支払いを免れることができ、後継者の負担が減ります。事業承継に関係する税金は、被相続人に課税される「相続税」と、相続人に課税される「贈与税」がありますが、会社の業績がよければよいほど支払わなければならない相続税も高額になってしまいます。

 

しかし後ほど詳しく解説しますが、事業承継税制などを活用することにより、相続税も贈与税も100%猶予されることがありますので、必ず税金対策を行うようにしましょう。また税金に関する法律は改定していきますので、最新の情報に精通しておくことも大切です。

 

5.4. 必要な資金を集めておく

親族内承継か親族外承継か、M&Aかで必要な資金は変わるものの、いずれの場合も多額な資金が必要になることがあるので事前に必要な資金を集めておくことは大切です。

 

たとえば親族内承継で遺産相続にした場合、遺産分割のために後継者がいったん買い取らなければならなくなることがありますし、贈与にした場合でも贈与税を支払わなければなりません。

 

会社の資産は株式や不動産という形でしか相続できませんが、その際にかかる税金は現金になります。後継者は決まっていても資金が足りなかったために事業承継がうまくできなかったということにならないようにある程度の資金は用意しておきましょう。

 

5.5. わかりやすい言葉でまとめられている本を活用する

資格を持った人に相談することも大切ですが、相続人が事業承継のことはある程度把握しておく必要がありますので、わかりやすい言葉でまとめられている本を何冊か読んでおきましょう。

 

インターネットでも信頼できる情報はたくさんありますが、ネットは特定のキーワードに関係する最新の情報を入手するのに向いている一方で、事業承継の全体像を体系的に理解するためには活字で書かれた書籍がおすすめです。

 

書籍といっても、事業承継の精神についてがメインのものもあれば、手続きガイドのような本もありますし、税金対策や親族トラブルなど特定の問題に絞った本など色々ありますので、自分にあった本を数冊購入して知識を入れておきましょう。

6. 円滑な事業承継に役立つ「事業承継税制」

会社に勢いがあるのに税制面の問題で事業承継ができない会社が多いなか、円滑な事業承継に役立つ情報として「事業承継税制」があります。この法律は2019年に改善されましたので、特に個人事業主の方は改正されたこの法律をしっかり理解しておきましょう。

 

6.1. 事業承継税制とは納税猶予が受けられる制度

事業承継税制とは、平たくいうと事業承継にかかる贈与税や相続税の納税猶予を得られる制度のことです。すでに解説した通り事業承継は現金ではなく株式などで支払われますが、税金は現金で支払う必要があるため負担が非常に大きくなってしまいます。

 

たとえば基礎控除後の財産の合計額が4,500万円なら贈与税率は50%なので、税額控除額を入れると次のような計算になります。

 

(4,500万円 – 基礎控除110万円)× 贈与税率50% – 控除額415万円

= 1,780万円

 

事業承継税制はこのような多額の税金の負担を軽くするために設けられましたので、可能な限り活用していくことが大切です。

 

6.2. 2019年の税制改正で個人事業主も対象に

この事業承継税制は2019年に個人事業主の事業承継を促進する目的で改正され、相続税も贈与税も100%猶予されることになりました。対象となるのは青色申告の事業者で、2019年1月1日から2028年12月31日までの10年間限定となっています。

 

適用対象の条件は非常に細かく設定されておりかなり求められている書類も膨大で複雑なので、個人で行うとかなり難しいですが、要件を満たせばかなりの額の税金が猶予される可能性がありますので、それなりの費用がかかったとしても税理士にお願いしておくことをおすすめします。

7. 事業承継に利用できる公的制度

事業承継に利用できる公的制度は無料で非常に役立つものがあります。特に中小企業を対象にした公的制度がありますので、最大限に利用しておきましょう。

 

7.1. 事業承継・引継ぎ補助金

事業承継・引継ぎ補助金とは中小企業を対象に、事業承継後の経営革新や専門家活用、または事業承継に伴う廃業等にかかる費用を補助するもので、公募受付開始の予定日は2022年7月25日となっています。

 

補助率は1/2で補助額は300万円以内となっていますが、一定の要件を満たすと500万円まで上がります。親族内継承や親族外継承だけでなく、M&Aも対象となっています。事業承継・引継ぎ補助金は2018年の改正後に採択されやすくなっており、採択率も大幅に上がっていますので、積極的に活用していきましょう。

 

7.2. 事業承継引継ぎ支援センター

事業承継引継ぎ支援センターとは、第三者承継支援を行っていた「事業引継ぎ支援センター」に、親族内承継支援を行っていた「事業承継ネットワーク」の機能を統合したものです。

 

中小企業を対象に、親族内継承やM&Aの事業承継に関する相談から計画書の作成、または専門家支援などをすべて無料で行ってくれます。全国47都道府県で2021年4月から始まっていますので活用していきましょう。

8. 事業承継に関するマッチングサービスもある

(※画像はイメージです/photo AC)
(※画像はイメージです/photo AC)

 

M&Aを考慮に入れているなら、事業承継に関するマッチングサービスを利用するという方法もあります。知り合いやツテだけでM&Aの買い手を探すのには限界がありますが、マッチングサービスを利用すれば日本全国にいる会社を買収したいという強い意欲を持っている企業を短期間でたくさん探すことが可能になっています。

 

相談料は無料の場合も多く、手数料は成功報酬型であったり売り手は無料であったりすることもあるので、まずはお気軽にお問い合わせください。

9. まとめ

この記事では、中小企業を対象にした事業承継について解説しました。

 

事業承継は、人、資産、知的資産という3つのものを引き継ぎます。そして、親族内承継、親族外承継、M&Aという3種類があります。

 

事業承継ができず廃業に追い込まれてしまった会社もたくさんありますが、早い段階で準備しておくことでスムーズに引き継ぎが完了し、税金面でも大幅な節約が可能となります。早めに対策をしておきましょう。

 

 

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