相続税が課されるほどの財産を所有している方にとって、「相続税を抑えたい」「今から取り組める節税対策があったら知りたい」ということは、気になる点でしょう。
本記事では、21の相続税対策を詳しく解説しています。
「相続税対策は難しいのではないか」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実は簡単に取り組めるものもあります。紹介する相続税対策を参考にして、自身に適している方法で相続税額を抑えましょう。
また相続税対策を始める前に知っておくべき、相続税額の計算方法も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
1. 相続税対策としてまず行うことは「相続税額の現状把握」
相続税対策の第一歩は、相続が発生した場合、どれくらいの相続税が課されるのかを知ることです。
「相続税対策」は多岐にわたります。所有している財産の種類や金額、相続人の状況などによって、用いるべき相続税対策は千差万別です。個々に適した対策は、現状の相続税額を把握することでみえてきます。
そこで本章では、現状の相続税を把握するための手順を紹介します。具体的な相続税対策を知る前に、まずは現状の相続税額を計算してみましょう。
1.1. 法定相続人は何人になるのかを把握する
法定相続人とは、民法で定められた「被相続人の財産を受け継ぐことができる相続人」のことです。配偶者は必ず法定相続人に該当しますが、他の相続人は次の順位で法定相続人となります。
- 第1順位:被相続人の子ども(亡くなっている場合には孫)
- 第2順位:被相続人の親(亡くなっている場合には祖父母)
- 第3順位:被相続人の兄弟姉妹(亡くなっている場合には甥姪)
第1順位に当たる人がいない場合には、第2順位、第3順位と繰り下がって法定相続人となります。したがって、上位の相続人がいる場合には、下位の相続人は法定相続人になることはできません。
後述する基礎控除額を計算するためには、法定相続人の人数を把握する必要があります。
基本的には民法上の法定相続人と同じですが、基礎控除額を計算するうえでは以下の点に注意してください。
- 法定相続人に含むことのできる養子の人数は次のように決められている
実子がいるとき:養子のうち1人まで
実子がいないとき:養子のうち2人まで
- 相続放棄をした人も法定相続人の数に含まれる
1.2. 基礎控除額を求める
基礎控除額とは、相続税の課税対象の財産(遺産総額)から差し引ける金額のことです。
基礎控除額を差し引いたあとの財産(課税遺産総額)が0円となる場合は、相続税は無税となります。
基礎控除額は次の算定式を用いて算出します。
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
たとえば、法定相続人が3人である場合は次のようになります。
3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
遺産総額が4,800万円を越える場合に、4,800万円を超えた部分に相続税が課せられます。
1.3. 相続税額を試算する
相続税額の計算は次の手順で求めます。
- 課税遺産総額を法定相続分で按分(あんぶん)する
- 法定相続分で按分した金額に相続税率を乗じて、法定相続分に応じた各相続人の相続税額を求める
- 法定相続分に応じた相続税額を合算して、相続税総額を求める
次の場合の相続税額を、実際の手順に従って計算してみましょう。
- 課税遺産総額:2億円
- 法定相続人:配偶者、子A(35歳)、子B(30歳)
手順1. 課税遺産総額を法定相続分で按分する
法定相続分とは、民法で定められている財産の取り分のことです。
この場合においては、配偶者は1/2、子どもはそれぞれ1/4ずつです。
- 配偶者:2億円×1/2=1億円
- 子A:2億円×1/4=5,000万円
- 子B:同上
手順2. 法定相続分で按分した金額に相続税率を乗じて、法定相続分に応じた各相続人の相続税額を求める
- 配偶者:1億円×30%-700万円=2,300万円
- 子A:5,000万円×20%-200万円=800万円
- 子B:同上
相続税率と控除額は、国税庁のホームページに掲載されている「相続税の税率速算表」を確認すると、一目でわかるので便利です。
■相続税の速算表
法定相続分に応ずる取得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000万円以下 |
10% |
- |
3,000万円以下 |
15% |
50万円 |
5,000万円以下 |
20% |
200万円 |
1億円以下 |
30% |
700万円 |
2億円以下 |
40% |
1,700万円 |
3億円以下 |
45% |
2,700万円 |
6億円以下 |
50% |
4,200万円 |
6億円超 |
55% |
7,200万円 |
出典:国税庁|相続税の税率
手順3. 法定相続分に応じた相続税額を合算して、相続税総額を求める
2,300万円+800万円+800万円=3,900万円
課税遺産総額2億円に課される相続税総額は、3,900万円となりました。
相続税対策を行ったり、控除の制度や特例を活用したりしなければ、被相続人の財産を相続すると3,900万円を納税することになります。
相続人各人の実際の相続税額は、相続税総額を実際の取得割合で按分することで算出できますが、ここでは省略します。
相続人各人の実際の相続税額を算出する方法まで知りたい方は「相続税の計算方法|自分で計算するための基本的な知識とシミュレーション」で解説していますので、そちらを参考にしてください。
2. 相続税対策をするうえで基本的な考え方のポイント
相続税対策を紹介する前に、考え方のポイントをみておきましょう。
基本的な考え方のポイントは、大きく分けると次の3つに分類されます。
- 遺産総額の「評価額」を減額する対策をする
- 相続税を減額する効果のある控除・特例を利用する
- 基礎控除額を増額する対策をする
この3つのポイントを押さえて相続税対策に取り組むことで、相続税を減らすことが可能になります。
ポイント①:遺産総額の「評価額」を減額する対策をする
財産には「評価額」というものがあります。
現金や預貯金は被相続人が亡くなった日の残高がそのまま評価額となりますが、不動産などは評価額を計算しなければなりません。税務上の不動産の評価額は時価よりも50〜80%程度低くすることができます。財産を現金で所有しておくよりも不動産で所有しているほうが、相続税を抑えられる可能性があるのです。
このように評価額を減額することで、相続税を少なくするという対策方法があります。
ポイント②:相続税を減額する効果のある控除・特例を利用する
相続税には、多くの控除や特例があります。
たとえば、配偶者の税額軽減や未成年者控除と呼ばれるものです。これらの当てはまる控除や特例を余すことなく活用することで、相続税を減額することが可能です。
ポイント③:基礎控除額を増額する対策をする
基礎控除額が多ければ、課税遺産総額が少なくなるので相続税を減らすことができます。
先述したように、基礎控除額は法定相続人が1人増えるごとに600万円増加します。したがって、法定相続人が多ければ多いほど相続税額を減らすことが可能です。
3. 相続税対策1:遺産評価額の減額|生前贈与を行う
遺産評価額を減額する方法の1つとして、生前贈与を行うという手段があります。
生前贈与は、取り組む方が多い相続税対策ですので、一度は耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか。本章では、生前贈与の概要と注意点を紹介します。
3.1. 年間110万円まで非課税の暦年課税
1月1日から12月31日までの1年間において、受贈者(贈与を受ける人)が贈与される額が110万円以下であれば、贈与税は課されません。
贈与者(贈与する人)は、受贈者1人あたりに対する贈与額を110万円以下に抑えれば、贈与税が課されずに何人にでも贈与することができます。
また、誰に対しても贈与が可能です。法定相続人以外に財産を受け継がせたいと考えている場合には、かなり有効な手段といえます。なぜなら、法定相続人以外への相続・遺贈には相続税が「2割加算」されるからです。
この贈与税の課税方式は「暦年課税」と呼ばれ、非課税枠を活用した相続税対策として広く知られています。
たとえば、暦年課税を活用し、10年かけて毎年110万円を6人に贈与したとすると、遺産総額は6,600万円少なくなります。ただし、贈与者が死亡する3年以内に行った贈与は、相続税の課税対象の財産となりますので注意が必要です。詳しくは後述します。
次に当てはまる人は、暦年課税を活用してください。
- 相続するまでの年数に余裕がある
- 贈与したい人が複数人いる
- 将来法定相続人になれない人に財産を渡したい
3.2. 2,500万円まで特別控除がある相続時精算課税制度
贈与を行う場合、次の要件をみたしていれば、相続時精算課税制度を利用することが可能です。
- 贈与者が贈与をする年の1月1日時点で60歳以上である
- 受贈者が贈与を受ける年の1月1日時点で18歳以上である
- 受贈者が贈与者の直系卑属(子・孫)である
相続時精算課税制度とは、「贈与額から2,500万円を控除した額に贈与税が課され、贈与税が課されなかった財産に対しては、相続時に相続税が課される」制度です。相続時においては、贈与時の財産の評価額を用います。
また、2,500万円は贈与者ごとの控除額であり、受贈者の控除額ではありません。よって、父母両者から2,500万円ずつ贈与を受けても、贈与税は課されません。2,500万円までであれば、一括贈与でも複数回に分けることも可能です。
相続時精算課税制度が向いているのは、以下の条件をみたす人です。
- 相続時ではなく、早めに財産を承継したい
- 将来値上がりする資産を所有している
ただし、同一の贈与者から受ける贈与については、相続時精算課税制度を一度選択すると、暦年課税を利用できません。相続時精算課税制度と暦年課税のどちらを選択するかについては、熟考する必要があります。
3.3. 生前贈与をする際に気をつけたい注意点4つ
生前贈与を行う際には、これから紹介する4点に気を付けてください。生前贈与はポイントを押さえて適切に行わなければ、税務署に否認される恐れがあります。
3.3.1. 現金渡しは避けたほうがよい
現金を手渡しで授受しても贈与として認められます。
ただし、贈与においては「いつ、いくら贈与したか」という点を証拠に残しておかなければ、税務署に否認される恐れがあります。
次に挙げるポイントに気を付けて生前贈与を行いましょう。
- 受贈者の銀行口座に振込みを行う
- 贈与契約書を作成する
贈与契約書の作成方法に決まりはありませんが、下記の点を記載しておくとよいでしょう。
- 贈与する日
- 贈与者・受贈者の氏名
- 贈与する財産
- 贈与する条件・方法
- 公証役場の確定日付
3.3.2. 「名義預金」はNG
名義預金とは、口座の名義人と口座の管理人が異なる預金を指します。贈与した金銭を名義預金で管理していた場合、贈与として認められない恐れがあります。
よくある例として、母親が子の名義の預金口座に少しずつ内緒で預金し、成人するときに通帳を渡すケースです。この場合、毎年貯金していた金額が110万円以下の場合でも、通帳を渡したタイミングでその合計金額に贈与税が課されます。
たとえば、1年に110万円ずつ預金をして、10年間で1,100万円貯まった通帳を子どもに渡した場合、1,100万円に贈与税が課されることとなります。
名義預金として判断されないためには、口座の通帳と印鑑は受贈者が管理をし、いつでも自由に引き出せるようにしておくことが大切です。
3.3.3. 遺留分を侵害しないようにする
生前贈与を活用して、法定相続人以外に財産を贈与する場合には、「遺留分」に注意が必要です。
法定相続人が最低限受け継ぐことのできる財産の取り分のことを、遺留分といい、その割合は民法で定められています。
遺留分が相続できないとき、法定相続人は遺留分に相当する金銭を請求することが可能です。万が一、生前贈与において法定相続人以外に多額の財産を贈与して、法定相続人の遺留分を侵害すると、後々トラブルになりかねません。
生前贈与をする前に全財産の額を確認して、遺留分に相当する金額は確保しておくことが得策といえます。
3.3.4. 生前贈与から3年以内に死亡した場合は相続税の対象
贈与者が亡くなる前3年以内に贈与した財産は、贈与時における評価額で相続税の課税対象の財産に含まれるとされています。
たとえば、暦年課税を活用して毎年110万円を5人に対して贈与していた場合、死亡時から3年以内に贈与した1,650万円については、相続税の課税対象です。
多くの人は、終活を意識し始めてから相続税対策を意識するでしょう。しかし、早ければ早いほど暦年課税の効果を享受できます。元気なころから相続税対策を開始しましょう。
4. 相続税対策2:遺産評価額の減額|不動産の購入や活用
本章では、不動産を活用して相続税対策を行う方法について紹介します。
土地の評価額は時価の20%程度、建物の評価額は時価の30%~50%程度も減額されるので、正しく活用すれば大きな節税効果が得られます。しかし、相続財産のほとんどを不動産が占め、現金があまりない場合、相続人が納税資金を捻出できない恐れがあります。
不動産を新しく購入する場合は、相続人に相談してから購入しましょう。
4.1. 評価額を最大80%減らせる小規模宅地等の特例
被相続人が住んでいた土地や事業をしていた土地、もしくは貸付を行っていた土地を相続した場合、土地の評価額を最大80%まで減額できる「小規模宅地等の特例」という特例があります。
現金で財産を所有しておくよりも、小規模宅地等の特例の対象となる土地で財産を所有しておくほうが相続税は少なくなります。生前に早めに土地を購入することも検討してみてはいかがでしょうか。
ただし、小規模宅地等の特例を利用するためには、居住用地であれば面積が330㎡以内などの一定の要件を満たす必要があります。詳しくは「小規模宅地等の特例とは?対象となる土地、適用要件、計算例を解説」をご覧ください。
4.2. アパートの建築と経営
アパートのような、貸付の用に供された不動産の相続税評価額は大幅に低くなります。貸付をしている土地や建物は、貸主が自由に使用することができないためです。
また、200㎡以内の土地を所有している場合、アパートを建築して貸付をすると、小規模宅地等の特例が適用できる可能性があり、土地の評価額が50%減額されます。
土地を所有している方がアパートを建築して経営すると、相続税を抑えられるだけでなく、不動産収入を得ることもできるので、おすすめです。
4.3. ワンルームマンションの購入
ワンルームマンションを購入した場合でも、相続税評価額を大幅に減額することが可能です。自身の持分の土地や建物の評価額は、マンション全体の評価額に専有率を乗じて求めます。そのため、ワンルームマンションの購入金額と評価額に大きな差が生じるケースも多くあります。
ワンルームマンションを貸し出した場合には、さらに評価額を減額できます。ワンルームマンションは200㎡以下であることが多いため、小規模宅地等の特例も適用できます。土地を所有していない方や、アパートを建築する予算はないけれど不動産を購入したい、という方におすすめの手段です。
4.4. タワーマンションの購入
タワーマンションを購入した場合、時価よりも相続税評価額がかなり低くなる可能性があります。
タワーマンションは居室数が多いので、1居室あたりの土地の専有面積が狭くなります。専有面積が狭いということは、相続税評価額が低くなるということです。しかも、タワーマンションは一般的に高額であることが多いため、購入金額と相続税評価額にかなり大きな差が生じるケースが多いです。
このような理由から、現金をそのまま相続するよりも、タワーマンションを購入して相続したほうが相続税を抑えることができます。ただし、相続対策目的があまりに露骨だと、否認されるリスクがあるので、注意が必要です。
実際に、銀行から「相続対策目的」ということで融資を受けてタワーマンションを購入し、相続直後に物件がすぐに売却されたという事例で、税務否認された例があります。
4.5. 広大な土地は評価額が低い場合がある
次に当てはまる広大な土地は、一定の要件を満たしている場合、相続税評価額が下がります。
- 三大都市圏(首都圏・近畿圏・中部圏):500㎡以上の地積の宅地
- 三大都市圏以外の地域:1,000㎡以上の地積の宅地
土地の評価額は、土地の面積に応じて評価するため、広ければ広いほど相続税が高くなります。しかし、広すぎる土地は使い勝手が悪く、実際の価値はそれほど高くありません。
価値が低いにもかかわらず相続税が高いことは不合理なので、相続税評価額は低く見積もることができます。広大な土地の評価の計算方法は簡単ではありませんので、評価額を算出する際には、専門家である税理士に依頼することをおすすめします。
4.6.【注意】借入金で不動産投資をするのは節税になるか
不動産を購入するほど潤沢な資金を持つ人が、相続税対策として不動産を購入する場合には、借入をしてもしなくても相続税評価額は変わりません。ここでは、手持ち資金のない方が借入金をして不動産を購入した場合、相続税対策となるのかどうかについて解説します。
相続税は、プラスの財産(現金や不動産など)からマイナスの財産(借入や未払金などの債務)と非課税対象となる財産を差し引いた金額(課税遺産総額)に課税されます。
たとえば、現金5,000万円を所有している人が1億円を借入して、市場価格1億円・相続税評価額5,000万円の土地を購入した場合の遺産総額は次のようになります。
現金5,000万円+土地5,000万円-借入金1億円=0円
遺産総額が0円となるため、相続税は無税となります。
不動産を購入しなかった場合は、現金5,000万円に相続税が課されることになるので、借入をして不動産を購入すると相続税が減るというメリットがあるかのように見えます。しかし、あくまで不動産を購入したことにより相続税が減ったのであり、借入をしたから相続税が減ったわけではありません。
また、1億円の借入金の返済は相続人が引き継ぐこととなるため、相続人に借入金の返済義務が発生します。利息の支払いも考慮すると、節税効果より負担のほうが大きくなる可能性が高くなります。相続税対策のために不動産の購入を検討する場合は、あくまで「自身の資金内」で購入したほうがよいでしょう。
5. 相続税対策3:控除・特例|相続税の5つの税額控除
相続税対策として有効な5つの税額控除を紹介します。
納税申告の際に、税務署は控除や特例について教えてくれません。しっかりと要件を理解して、利用できる控除や特例を取りこぼしなく活用しましょう。
5.1.「配偶者控除」
配偶者の税額軽減と呼ばれる、被相続人の配偶者は、相続税が軽減される制度です。
配偶者が受け継いだ課税対象の財産に対して、以下の金額のどちらか多いほうまでは相続税が無税となります。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分にあたる金額
主な要件は以下の通りです。
- 民法上の夫婦であること
- 申告期限までに遺産の分割ができていること(所定の手続きを行えば、未分割でも適用可)
- 遺産を隠ぺいしないこと
注意点は以下の通りです。
詳しくは「1億6千万円まで無税!「相続税の配偶者控除」の計算方法と意外なデメリット」で解説しています。
5.2.「未成年者控除」
相続人が未成年である場合、相続税額から一定額を減額できます。
主な要件は以下の通りです。
- 日本国内に居住していること
- 財産を相続したときに18歳未満であること
- 法定相続人であること
控除額は以下の通りです。
10万円×(18歳-その相続人の年齢)
※ 年齢の1年未満の端数は切り捨て
※ 相続税額よりも控除額が多い場合、控除しきれない額については、扶養義務者の相続税額より控除可
5.3.「障害者控除」
相続人が障がい者である場合、相続税額から一定額を減額できます。
主な要件は以下の通りです。
- 日本国内に居住していること
- 財産を相続したときに85歳未満であること
- 法定相続人であること
控除額は以下の通りです。
- 一般障害者:10万円×(85歳-その相続人の年齢)
- 特別障害者:20万円×(85歳-その相続人の年齢)
※ 年齢の1年未満の端数は切り捨て
※ 相続税額よりも控除額が多い場合、控除しきれない額については、扶養義務者の相続税額より控除可
5.4.「相次相続控除」
被相続人が10年以内に相続税を納めている場合、相続人の相続税額から一定額を減額できます。
たとえば、8年前に相続により父親の財産を受け継いだ母親が死亡し、母親の財産を相続した場合に、当該控除を使うことができます。
主な要件は以下の通りです。
- 被相続人が死亡する前10年以内に、別の者からの財産を相続し、相続税を納めていること
- 遺言により財産を受け取った他人でないこと
控除額は以下の通りです。
A×{C÷(B-A)}×D÷C×(10-E)÷10
※A:当該相続の被相続人が10年以内の相続で課せられた相続税額
B:当該相続の被相続人が10年以内に相続した財産の価額(純資産価格)
C:当該相続で対象となる財産の総額(純資産総額)
D:当該相続の相続人が相続した財産の価額(純資産価格)
E:10年以内に発生した相続から当該相続までの年数(1年未満切り捨て)
5.5.「外国税額控除」
日本国外にある財産を相続した場合、相続人の相続税額から一定額を減額できます。
主な要件は以下の通りです。
- 日本国外にある財産に対して、外国において相続税と同じような役割を持つ税金を納めていること
- 被相続人と相続人の双方が10年以内に日本国内に住んでいること
控除額は以下のいずれか少ない方です。
- 外国で納めた相続税額(日本円に換算した額)
- 相続税額×国外に所有する遺産総額÷遺産総額
6. 相続税対策4:控除・特例|贈与の4つの特例と税額控除
相続税対策として有効なのは、相続税の特例だけではありません。贈与税の特例も活用することで、被相続人の生前中に多額の財産を移動させることが可能です。
本章では、4つの特例と「贈与税額控除」を紹介します。
6.1. 2,000万円まで非課税の「配偶者への自宅の贈与」
夫婦間で居住用不動産や居住用不動産を取得するために金銭を贈与した場合、2,000万円までの贈与額は非課税となる「配偶者控除」があります。
生前に配偶者に自宅を贈与しておくことで、相続時に他の財産を無税で相続できる可能性が高くなります。また、配偶者に確実に自宅を相続させたいという意思がある場合には、非常に有効な手段です。生前に自宅の所有権を移動させておけば、相続時に配偶者が他の相続人に自宅を取られる心配がなくなります。
配偶者控除を用いる場合には、自身が要件を満たしているかどうか確認しましょう。
主な要件は以下の通りです。
- 民法上の夫婦であること
- 婚姻関係が満20年以上あること
- 贈与された日の翌年3月15日までに当該の居住用不動産に住み、その後も住み続けること
6.2. 1,000万円まで非課税の「結婚・子育て資金の贈与」
父母や祖父母といった直系尊属から「結婚・子育て資金」として一括贈与を受けた場合、受贈者1人につき1,000万円(結婚費用として非課税となるのは300万円)まで贈与税が非課税となる制度があります。
この制度を利用するためには、金融機関で「結婚・子育て資金管理契約」を締結し、専用の口座(結婚・子育て資金口座)を開設する必要があります。通常の贈与のように自由に財産を移動させることができません。
主な要件は次のように定められています。
- 2015年4月1日から2023年3月31日までに受ける贈与であること
- 受贈者が18歳以上50歳未満であること
- 2019年4月以後に受ける贈与については、受贈者の前年の所得が1,000万円以下であること
6.3. 1,500万円まで非課税の「教育資金の贈与」
父母や祖父母といった直系尊属から「教育資金」として一括贈与を受けた場合、受贈者1人につき1,500万円(学校等以外に支払う教育資金については500万円)までの贈与額は非課税となる制度があります。
当該制度を利用するためには、「結婚・子育て資金の贈与」と同じく、金融機関で手続きをしなければいけませんので、気を付けてください。
主な要件は次のように定められています。
- 2013年4月1日から2023年3月31日までに受ける贈与であること
- 受贈者が30歳未満であること
- 2019年4月以後に受ける贈与については、受贈者の前年の所得が1,000万円以下であること
6.4.「住宅取得等資金贈与の非課税の特例」
父母や祖父母といった直系尊属から「住宅購入等の資金」として一括贈与を受けた場合、受贈者1人につき、最大1,000万円が非課税となる制度があります。
新築に限らず、一定の条件を満たす中古住宅の取得や増改築への資金にあてることも可能です。
主な要件は次のように定められています。
- 2022年1月1日から2023年12月31日までに受けた贈与であること
- 受贈者が18歳以上であること
- 2019年4月以後に受ける贈与については、受贈者の前年の所得が2,000万円以下であること(新築等をする家の床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は、1,000万円以下)
非課税となる額の上限は、住宅の種類に応じて以下の通りです。
- 省エネ、耐震性、高齢者対応等の一定の要件を満たす住宅:1,000万円
- それ以外の住宅:500万円
6.5.「贈与税額控除」
贈与者が亡くなる前3年以内に、贈与者より贈与を受けている、かつその贈与に課される贈与税を納めている場合に、その納めた贈与税を相続税から減額できる制度です。
第3章で述べたように、相続開始3年以内に受けた贈与は相続税の課税対象財産になります。すでに贈与税を納めていた場合、同一財産に贈与税と相続税の二重課税がなされることになるため、納めた贈与税の控除が可能です。ただし、贈与税額控除を用いて相続税が無税になった場合でも、納税申告をする必要があります。
要件は以下の通りです。
控除額は以下の通りです。
A×C÷B
※A:贈与を受けた年分の贈与税額
B:贈与を受けた年分の贈与財産の財産額の合計
C:贈与を受けた年分の贈与財産の財産額の合計のうち、相続税の遺産総額に含まれた金額
7. 相続税対策5:基礎控除の増額|養子縁組
法定相続人が増えれば、基礎控除額が増えるため相続税対策となります。法定相続人は、養子縁組をすれば増やすことができます。普通養子縁組、特別養子縁組のどちらとも可能です。
ただし、基礎控除額の計算においては法定相続人に含めることのできる養子の数は定められており、多くとも2人までです。法定相続人の数を増やしたい、という理由のためだけに養子縁組をすることは得策とはいえません。
8. 他にもある!相続税の節税方法4つ
相続税対策は、先に紹介した生前贈与や不動産投資、控除や特例の活用以外にもあります。
本章では、相続税の対策方法を4つ紹介します。簡単に取り組めるものもありますので、ぜひ活用してください。
8.1. 生命保険の非課税枠を活用する
生命保険は相続税対策として有効な手段です。生命保険の非課税枠を活用すれば、相続税が課されない額を増加させることができます。
8.1.1. 死亡保険金は「法定相続人の数×500万円」まで非課税
被相続人が死亡したことにより受け取る死亡保険金は、相続税の課税対象となります。
ただし、死亡保険金より非課税枠(500万円×法定相続人の数)を差し引いた額に相続税が課されます。たとえば、法定相続人が3人の場合は、1,500万円までの死亡保険金は相続税が課されません。生命保険を活用することで、相続税が課されずに受け継ぐことのできる財産額を増やすことが可能です。
8.1.2. 一時払い終身保険は90歳まで加入が可能
一時払い終身保険とは、契約時に一括で保険金を支払うことで、終身(一生涯)にわたって保障が受けられ、死亡時には死亡保険金を受け取ることができる保険です。多くの終身保険は、80歳までしか加入することができません。
人生100年時代といわれている現代においては、80歳はまだ元気であることが多く、相続を意識して、終身保険に加入する人はそこまで多くはないでしょう。一時払い終身保険であれば90歳でも加入できる商品が多数ありますので、相続税対策に向いている保険です。
一時払い終身保険への加入に向いている方は次に当てはまる方です。
- 保険金を一括で支払う余裕のある
- 確実に財産を相続したい人がいる(受取人を指定できるため)
8.2. 墓など非課税財産を購入する
墓は相続税の課税対象の財産とはなりません。
具体的には、墓地、墓石、仏具、仏壇や神棚など、日常礼拝をするものは、相続税の非課税財産です。
仮に、現金を5,000万円所有している人が、墓を500万円で購入してから亡くなったとしましょう。墓は非課税財産に該当するので、5,000万円から500万円を差し引いた4,500万円に相続税が課されます。
一方で、500万円の墓を購入せずに亡くなった場合は、5,000万円に相続税が課されることになります。墓をいずれは購入しないといけないのであれば、生前に購入するほうが得策です。
「墓は自身が残したお金のなかから遺族が買うもの」と考えている方は、生前にお墓を購入しておくことをおすすめします。
8.3. 孫への相続にも便利な家族信託を利用する
家族信託とは「家族に財産を預けて代わりに管理してもらう」制度です。
認知症になって財産を管理できなくなるかもしれない、という万が一に備えて、活用する人が増えてきています。
家族信託そのものには節税効果はありませんが、「確実に財産を家族に残したい」という場合に最適な方法です。
子どもに財産を相続したあと、確実にその財産を孫に受け継がせたいというケースにおいては、家族信託を活用しましょう。遺言で財産を受け継ぐ人を指定できるのは一次相続のみであり、そのあとの財産承継は、財産を受け取った人が決めます。自身の財産を受け継いだ子どもが孫ではなく、血縁関係のない第三者に財産を相続させるかもしれません。
しかし、家族信託では孫以降の直系卑属が代々受け継いでいくように定めることができるので、孫に確実に財産を相続することが可能になります。
8.4. 会社を設立する
会社を設立し、自身の所有している不動産などを会社に移動させることで、相続税を節税するという手もあります。
相続税は、相続する財産の額が大きいほど税率が高くなる「超過累進課税」です。会社に財産を移動させることで、相続する財産額を減らし、税率を低くすることができます。
相続人はその会社を引き継ぎ、役員報酬という形で財産を得ることが可能です。ただし、役員報酬を受け取るということは所得税や住民税が課されます。場合によっては、相続税を納めて財産を受け継いだほうが支払う税金が少なくなるケースもあります。
会社の設立を検討する際は、専門家である税理士に相談をしましょう。
まとめ
本記事では、21種類の相続税対策を詳しく紹介しました。
相続税対策は早く始めるほど、より大きな効果を得ることができます。紹介した相続税対策のなかには、すぐに取り組めるものもあります。
ぜひ本記事で紹介した相続税対策を活用して、より多くの財産を大切な人に残してください。
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