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相続財産に土地が含まれる場合は、小規模宅地等の特例を活用して相続税を大幅に抑えることができる可能性があります。土地の評価が最大80%減となるため、相続税の節税効果が大きい特例です。本記事では、要件、他の優遇的な特例との併用の可否などを解説しています。

小規模宅地等の特例とは、一定の要件に当てはまる相続財産の土地評価を80%減又は50%減とする制度です。利用するかしないかで、支払う相続財産が数百万円~数千万円変わることもあるため、非常にインパクトが大きい特例です。

 

「同居要件」「保有要件」等、適用されるためにはいくつか要件があり、すべての相続人が利用できるとは限りません。

 

本記事では、小規模宅地等の特例や要件、具体的な節税効果等を解説します。ぜひ参考にしてください。

目次
1. 小規模宅地等の特例とは?制度内容と導入の背景
1.1. 小規模宅地等の特例|土地評価額を最大80%減少させる制度
1.2. 知っておきたい前提知識
1.3. 適用はいつから?導入の目的は「相続人の多額の税負担」
2. 特例の適用される土地は4種類|各要件を解説
2.1. 特定居住用宅地等
2.2. 特定事業用宅地等
2.3. 貸付事業用宅地等
2.4. 特定同族会社事業用宅地
3. 特例の適用される土地の上限面積・減額される割合
3.1. 対象土地別|上限面積・減額割合一覧
3.2. 適用できる上限面積を超過するときの扱い
4.【シミュレーション】小規模宅地等の特例の減税効果は?
シミュレーション1:上限面積150㎡・減額割合80%の場合(特定居住用宅地等)
シミュレーション2:上限面積200㎡・減額割合50%の場合(貸付事業用宅地等)
シミュレーション3:上限面積400㎡・減額割合80%の場合(特定事業用宅地等)
5. こんな場合は適用?判断が難しいケースと適用の可否
5.1. 被相続人が老人ホームに入っていた
5.2. 土地の贈与に相続時精算課税制度を利用した
5.3. マンション(土地+建物)を相続した
5.4. 被相続人である親と2世帯住宅で居住していた
5.5. 駐車場として活用されていた土地を相続した
5.6. 農業用の土地を相続した
5.7. 同一敷地内に2棟の家屋で親と別々に居住していた
6. 特例を利用する前に把握したいポイント
6.1. 特例要件にある「同居」の定義
6.2. 適用される4種類の土地について特例の併用が可能
6.3. 遺産分割が整ったあとに申告する
6.4. 小規模宅地等の特例と物納の関係
6.5. 更生の請求による適用は不可
7. 小規模宅地等の特例を利用したいときの手続き方法は?
7.1. 必要書類|適用する土地の種類ごとに異なる
7.2. 提出場所はどこか・申告期間はいつまでか
まとめ

1. 小規模宅地等の特例とは?制度内容と導入の背景

小規模宅地等の特例とは?制度内容と導入の背景
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相続が発生し、相続財産のなかに土地が含まれる場合、「小規模宅地等の特例」を利用できる可能性があります。

 

小規模宅地等の特例は、土地の評価額を最大80%も減らせる特例であるため、相続税に大きな影響を及ぼします。まずは、制度内容や導入の背景について解説していきます。

 

1.1. 小規模宅地等の特例|土地評価額を最大80%減少させる制度

小規模宅地等の特例とは、土地を相続した際に、評価額を「50%減」あるいは「80%減」できる制度です。

 

すべての土地に使えるわけではなく、一定の要件をクリアする必要があります。相続財産や土地の評価額によっては、数千万円の節税にも繋がるのでインパクトがあります。

 

また、利用することで、相続税がゼロになるケースもあることから、この特例について知っておくことは重要です。保有している財産に土地が多く含まれる方や、土地を相続する見込みがある方は、しっかりと制度の内容や適用条件を確認しておきましょう。

 

1.2. 知っておきたい前提知識

小規模宅地等の特例について解説する前に、土地を相続するにあたって「まず知っておきたいこと」を解説していきます。

 

「土地の評価方法」や「相続税の計算方法」など、相続の前提を確認しておきましょう。

 

1.2.1. 土地の評価額|国税庁の基準に基づいて算出された金額

相続税は、被相続人が残した遺産の「時価」に対して課税されます。 一般的に、土地の評価をするのは簡単ではありません。

 

国税庁が土地の評価額である「相続税評価額」の計算ルールを作っているので、それを使って土地の評価額を算出することになります。

 

土地については、「路線価方式」といい、毎年7月に国税庁が公表する路線価に対して、評価したい土地の面積を乗じれば土地の評価額が算出可能です。土地の評価額は、固定資産税の納税通知書を用意したうえで、国税庁のホームページで路線価を確認すれば計算できるため、気になる方は試してみてください。

 

なお、共有登記等で持分割合がある場合、算出された金額に持分割合(50%の持分割合であれば50%)を乗じれば「自分の持ち分の土地の評価額」がわかります。

 

また、路線価が設定されていない土地の場合は、「倍率方式」という方法で土地の評価額を計算します。

 

倍率方式における評価倍率は、路線価と同じく国税庁のホームページでチェックできます。

 

路線価方式・倍率方式ともに、不整形地や間口狭小地、地積規模の大きな宅地は減額補正がされることもあります。

 

1.2.2. 相続税の考え方|相続総額と相続税の関係をおさえよう

相続税は、「基礎控除額」を超えた分に対して課税されます。また、課税遺産総額が一定額を越えるごとに税率が高くなる、累進課税という仕組みをとっています。

 

つまり、課税遺産総額が少なければ相続税も少なくなります。そのため、相続する土地の評価額を下げるということは、相続税の節税に繋がります。

 

なお、相続税額の計算は、下記の手順で進めていくことになります。

 

  1. 相続財産の時価総額から基礎控除額を差し引く
  2. 各相続人が「法定相続分で相続したもの」と仮定する
  3. 仮の各相続人の相続分に対して相続税率を乗じる
  4. 3で計算した各相続人の相続税額を合計する
  5. 4で合計した相続税額の合計に対して、各相続人が実際に相続した割合を乗じる

 

なお、相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万×法定相続人の数」で、法定相続人が3人いる場合は4,800万円となります。

 

また、相続税の税率は下記の速算表を参考にしてください。

 

法定相続分の取得金額

税率

控除額

1,000万円以下

10%

-

3,000万円以下

15%

50万円

5,000万円以下

20%

200万円

1億円以下

30%

700万円

2億円以下

40%

1,700万円

3億円以下

45%

2,700万円

6億円以下

50%

4,200万円

6億円超

55%

7,200万円

 

1.3. 適用はいつから?導入の目的は「相続人の多額の税負担」

小規模宅地等の特例が導入された目的は、「相続人の生活や事業を保護するため」です

 

たとえば、被相続人と同居していた家を相続した人に多額の相続税の負担を負わせると、その相続人は、自宅や土地を手放さなければならなくなる事態に陥ることも考えられます。

 

相続税は現金納付が原則です。高度成長期の地価が高騰する時代には、「相続税を支払うために無理やり土地や建物を現金化する」というケースが多発していました。

 

このように、遺族の生活を脅かすような多大な税負担を強いることを防ぐために定められたのが、小規模宅地等の特例です。また、被相続人が事業を行っていた土地や貸している土地にも使えるため、税負担を軽減し事業承継を円滑にするためにも用いられています。

2. 特例の適用される土地は4種類|各要件を解説

特例の適用される土地は4種類|各要件を解説
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小規模宅地等の特例が適用される土地には4種類あります。どのような土地に使えるのか、自身のケースに当てはめながら参考にしてください。

 

2.1. 特定居住用宅地等

特定居住用宅地等とは、被相続人が自宅として使っていた土地です。「自宅」として使っていた土地なので、別荘地や子に貸している土地等は対象外となります。

 

特定居住用宅地等の小規模宅地等の特例を利用できるのは、下記の場合です。

 

  1. 被相続人が居住していた土地の場合
  2. 被相続人と同一生計の親族が居住していた土地の場合
  3. 家なき子特例の場合

 

特定居住用宅地等の小規模宅地等の特例は「330㎡まで80%の評価減」の措置を受けられるため、節税のインパクトが大きいです。

 

2.1.1. 被相続人が居住していた土地の場合

被相続人が居住していた土地の場合、下記に該当する方が相続すると、小規模宅地等の特例を利用できます。

 

  1. 被相続人の配偶者
  2. 被相続人と同居していた親族
  3. 別居親族(家なき子特例)

 

被相続人の配偶者については「同居」等の要件は設けられていません。配偶者は同居していなくても特例を利用できるし、相続後に売却した場合でも特例を利用できます。

 

被相続人以外の親族については原則として「同居」していることが求められます。「同居」の要件は同居の実態で判断し、住民票が同一かどうかは問いません。あくまでも、同居の実態があれば適用可能である点も併せて押さえておきましょう。

 

「3. 別居親族」に関しては、適用を受けるために要件が設けられています。詳しくは「家なき子特例」のところで後述します。

2.1.2. 被相続人と同一生計の親族が居住していた土地の場合

被相続人自身ではなく、被相続人と同一生計の親族が居住していた土地についても、下記の要件をクリアすれば小規模宅地等の特例を利用できます

 

  • 居住要件(相続税の申告期限まで、相続した親族が当該宅地等に居住する)
  • 所有要件(相続税の申告期限まで、相続した親族が当該宅地等を所有する)

 

つまり、相続した人が相続税の申告期限までに当該土地を売却すると、特例が利用できなくなるということです。

 

2.1.3. 家なき子特例の場合

別居親族でも一定の要件をみたせば小規模宅地等の特例を利用できます

 

これを「家なき子特例」と呼びますが、「被相続人が亡くなる前3年間、持ち家では無く借家に住んでいる別居親族」が、下記の要件をクリアすれば利用できます。

 

  • 被相続人に配偶者がいない
  • 被相続人と同居している相続人がいない
  • 相続人が、相続開始前の3年以内に、その相続人、相続人の配偶者、相続人の3親等内の親族又はその相続人と特別な関係にある法人が所有している家屋に居住したことがない
  • 相続発生時に、その相続人が居住している家屋を、過去にその相続人が一度も所有したことがない
  • 相続した自宅の土地を相続税の申告期限まで保有する

 

たとえば、これまでに賃貸暮らしをしていた子が、親が持ち家として利用していた土地を相続して住むなどの場合です。

 

2.2. 特定事業用宅地等

特定事業用宅地等とは、事業で使われていた土地を指します。

 

特定事業用宅地等の小規模宅地等の特例は「400㎡まで評価額80%減」の措置を受けることができ、適用条件は下記の通りです。

 

  • 相続開始3年前よりも前から当該土地で事業を営んでいる
  • 相続人が相続税の申告期限まで事業を継続している

 

ただし、下記のケースであれば、相続開始前3年よりもあとから事業用に使われた土地であっても特例を利用できます。

 

  • 当該土地上の事業に使用されている減価償却資産の価額が土地価額の15%以上

 

当該土地上の事業に使用されている減価償却資産の価額:土地価額の15%以上

 

2.3. 貸付事業用宅地等

貸付事業用宅地等とは、第三者に貸している土地や賃貸アパートを建てている土地、貸し駐車場等を指します。「200㎡まで評価額50%減」の措置を受けられます。

 

貸付事業用宅地等の小規模宅地等の特例を受けるための条件は、下記の通りです。

 

  • 相続人が、相続税の申告期限まで当該土地を継続して所有する
  • 相続人が、相続税の申告期限まで賃貸経営を継続する

 

また、相続の発生時点に空室があるアパートでも、「賃貸経営を継続している」と認められれば特例を使うことができます

 

実際に、国税庁のホームページにも以下の記載があります。

 

「空室となった直後から不動産業者を通じて新規の入居者を募集しているなど、いつでも入居可能な状態に空室を管理している場合は相続開始時においても被相続人の貸付事業の用に供されているものと認められ、また、申告期限においても相続開始時と同様の状況にあれば被相続人の貸付事業は継続されているものと認められる。」

 

2.4. 特定同族会社事業用宅地

特定同族会社事業等宅地等とは、被相続人が自分が関与する「同族会社」の事業に使っていた土地を指します。

 

たとえば、被相続人が所有していた土地を自分が経営している会社(同族会社)に貸していたケースです。

 

下記の要件に該当した場合、400㎡まで評価額80%減の措置を受けられます。

 

  • 当該土地を相続した法人の役員である親族が、相続税の申告期限まで引き続き保有する
  • 当該土地に構築物がある

 

舗装されていない更地や青空駐車場、単なる資材置場は「構築物がない」と判断されます。

3. 特例の適用される土地の上限面積・減額される割合

特例の適用される土地の上限面積・減額される割合
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小規模宅地等の特例は、土地の種類に応じて減額される面積の上限や減額割合が異なります。適用された場合の上限面積や減額される割合を確認していきましょう。

 

3.1. 対象土地別|上限面積・減額割合一覧

小規模宅地等の特例には、下記のように土地の性格に応じて減額できる面積の上限や減額割合が異なります。

 

要件

面積

減額割合

特定居住用宅地等

330㎡

80%

特定事業用宅地等

400㎡

80%

貸付事業用の宅地

200㎡

50%

特定同族会社事業用宅地等

400㎡

80%

 

3.2. 適用できる上限面積を超過するときの扱い

先述したように、小規模宅地等の特例には適用できる面積に上限があります。ただし、上限を超える面積の土地でも、限度面積までは使えます

 

たとえば、相続した特定居住用宅地等が400㎡だった場合、330㎡まで小規模宅地等の特例によって80%減額した評価額で計算し、上限を超えた70㎡については通常の評価額で計算すれば問題ありません。

4.【シミュレーション】小規模宅地等の特例の減税効果は?

続いて、シミュレーションを用いて、小規模宅地等の特例を使った際の具体的な節税メリットを見ていきましょう。

 

シミュレーション1:上限面積150㎡・減額割合80%の場合(特定居住用宅地等)

まず、母と子(同居)の家族で相続が発生したケースです。「特定居住用等宅地等」に該当します。

 

相続財産が2,000万円の現預金、評価額が2,000万円の居住していた土地(150㎡)の場合でシミュレーションしてみます。

 

■小規模宅地等の特例を使わない場合

  1. 基礎控除:3,600万円
  2. 相続財産:現預金2,000万円+土地2,000万円-3,600万円=400万円
  3. 相続税額 母:400万×法定相続分1/2=200万円×税率10%=20万円 子:400万×法定相続分1/2=200万円×税率10%=20万円
  4. 相続税総額:母20万円+子20万円=40万円

 

小規模宅地等の特例を利用しない場合、40万円の税負担が発生します。

 

■小規模宅地等の特例を使う場合

  1. 土地評価額の減額:2,000万円-(2,000万円×80%)=400万円
  2. 相続財産:現預金2,000万円+土地400万円=2,400万円
  3. 基礎控除内に収まるため、相続税は発生しない

このように、小規模宅地等の特例を利用することで、相続税がゼロになります。

 

シミュレーション2:上限面積200㎡・減額割合50%の場合(貸付事業用宅地等)

続いて、貸付事業用宅地等について小規模宅地等の特例を利用した際の節税シミュレーションです。

 

相続人が被相続人の子1人で、遺産の合計額が現預金2,000万円、貸し付けていた土地(200㎡)の評価額2,000万円だった場合で考えてみましょう。

 

なお、相続後の継続要件などはクリアしているものとします。

 

■小規模宅地等の特例を使わない場合

  1. 基礎控除額:3,600万円
  2. 相続財産:現預金2,000万円+土地2,000万円-3,600万円=400万円
  3. 相続税総額:400万円×税率10%=40万円

 

■小規模宅地等の特例を使う場合

  1. 土地評価額の減額:2,000万円-(2,000万円×50%)=1,000万円
  2. 相続財産:現預金2,000万円+土地1,000=3,000万円
  3. 基礎控除内に収まるため、相続税は発生しない

 

このように、貸付事業用宅地等の小規模宅地等の特例を利用することで、支払う相続税がゼロになります。

 

シミュレーション3:上限面積400㎡・減額割合80%の場合(特定事業用宅地等)

続いて、特定事業用宅地等について小規模宅地等の特例を利用するケースです。

 

相続人が被相続人の子1人、遺産の合計額が現預金1,000万円、事業用の土地(500㎡)の評価額7,000万円のケースでシミュレーションします。

 

■小規模宅地等の特例を使わない場合

  1. 基礎控除額:3,600万円
  2. 相続財産:現預金1,000万円+土地7,000万円-3,600万円=4,400万円
  3. 相続税総額:4,400万円×税率20%-控除額200万円=680万円

 

■小規模宅地等の特例を使う場合

  1. 土地評価額の減額:7,000万円-7,000万円×400㎡÷500㎡×80%=2,520万円
  2. 相続財産:現預金1,000万円+土地2,520万円=3,520万円
  3. 基礎控除内に収まるため、相続税は発生しない

 

このように、非常に大きな節税効果がある特例であるといえます。

5. こんな場合は適用?判断が難しいケースと適用の可否

こんな場合は適用?判断が難しいケースと適用の可否
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小規模宅地等の特例が適用となるか否か、判断が難しいケースは多くあります。判断が難しい具体的なケースや、適用の可否について解説していきます。

 

5.1. 被相続人が老人ホームに入っていた

相続される方が老人ホームに入っていた場合でも、以下の要件を満たしていれば、小規模宅地等の特例を受けることができます。

 

  • 介護が必要であるため老人ホーム等に入居した
  • 老人ホームに入居後、自宅を賃貸していない(子に住まわせるのもNG)

 

たとえば、被相続人が要支援や要介護認定を受けて下記の施設等に入居していた場合は、小規模宅地等の特例を利用できます。

 

  • 介護医療院
  • 特別養護老人ホーム
  • 有料老人ホーム
  • 軽費老人ホーム
  • サービス付き高齢者用住宅
  • 介護老人保健施設
  • グループホーム等、共同生活援助を行う住居
  • 障害者支援施設

 

なお、有料老人ホームを設置する際には都道府県知事への届出が義務付けられています。未届状態の老人ホームに入居した場合には小規模宅地等の特例が利用できません。

 

また、老人ホーム入居後に賃貸に出した場合も、特例を利用できません。

 

5.2. 土地の贈与に相続時精算課税制度を利用した

相続時精算課税制度とは、生前に2,500万円まで非課税で直系卑属に贈与できる制度です。

 

相続時精算課税制度を利用すると、相続発生時に過去に贈与した財産を相続財産の評価額に足し戻して相続税を計算することになります。

 

相続時精算課税制度を利用して土地を贈与することは可能ですが、この場合には小規模宅地等の特例が使えません。

 

すなわち、小規模宅地等の特例は、「相続または遺贈等」によって取得した土地が対象となるため、生前に贈与によって取得した土地には適用できないということです。

 

5.3. マンション(土地+建物)を相続した

マンションの評価は、建物部分と土地部分に分かれます。したがって、マンションを相続した場合でも、土地部分に関しては小規模宅地等の特例が利用できます

 

被相続人が分譲マンションに住んでいた場合でも、登記簿上の保有している土地に対しては減額を受けることが可能です。

 

ただし、分譲マンションの土地部分の相続税評価は、マンションの土地全体に敷地権の持分割合を乗じて算出します。土地部分の面積が小さく、戸建てのケースと比較すると節税効果を得られない可能性がある点も知っておきましょう。

 

なお、このマンションの特徴を逆手にとった相続税対策もあります。たとえば、「任意組合型」の不動産小口化商品などです。

 

5.4. 被相続人である親と2世帯住宅で居住していた

2世帯住宅でも、小規模宅地等の特例を利用することは可能です。しかし、2世帯の居住する各専有部分に登記がされている、いわゆる「区分所有登記」がされている場合は別の不動産として扱われ、「同居」の要件を満たさないので、適用されません

 

5.5. 駐車場として活用されていた土地を相続した

駐車場として活用されていた土地を相続した場合も、小規模宅地等の特例を利用できます

 

貸付事業用宅地等に該当し、限度面積は200㎡まで50%の減額を受けることが可能です。

 

ただし、土地の上に何の構築物もない青空駐車場の場合は利用できません。

 

アスファルトや砂利等で舗装されている駐車場や、機械式の構築物が設置されていれば利用できます。

 

5.6. 農業用の土地を相続した

農業用の土地を相続した場合は、土地の現況や利用実態を見て小規模宅地等の特例が利用できるか判断します。ビニールハウス等を設置し、農業や耕作のために使っている土地は「農地」と判断され、利用できません。

 

しかし、農業機械やトラクターの保管等、直接的な農地として利用していない場合は、「農地」ではなく「特定事業用宅地等」に該当し、特例が利用できます。

 

5.7. 同一敷地内に2棟の家屋で親と別々に居住していた

親の所有する敷地内に2棟の家屋を建て、それぞれ別の建物に居住しているようなケースでは、小規模宅地等の特例は利用できません。被相続人以外の同居親族が特例を利用する場合、「相続発生時に同居」していなければなりません。

 

敷地内に2棟の家屋で居住しているケースのように、同じ敷地に住んでいても建物がそれぞれ独立している場合は「同居」に該当しません。

6. 特例を利用する前に把握したいポイント

特例を利用する前に把握したいポイント
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小規模宅地等の特例は、相続税評価額の減額の割合が大きいので、相続税の節税効果が高い魅力的な制度です。しかし、利用するにあたって注意点もあるため、確認しておきましょう。

 

6.1. 特例要件にある「同居」の定義

小規模宅地等の特例のなかには「被相続人と同居」等、同居要件が設けられているケースがあります。

 

この同居は「被相続人が亡くなった日まで、同じ家で生計同一の生活をしていた」ことを意味しています。

 

つまり、住民票だけ同じ場所に移しておけば利用できるわけではありません。逆に、住民票の住所が違っていても、実態として「同居」していれば利用可能です。

 

また、同居している期間に関しては特に要件はなく、1週間程度等、亡くなる直前から同居していた場合であっても利用できます。

 

6.2. 適用される4種類の土地について特例の併用が可能

4種類の小規模宅地等の特例は併用可能です。

 

6.2.1. 貸付事業用宅地等を含まない場合

まず、貸付事業用宅地等を含まない場合、たとえば「特定居住用宅地等と特定事業用宅地等」「特定居住用宅地等と特定同族会社事業用宅地等」は完全併用が可能です。

 

つまり、最大で730㎡(400㎡+330㎡)まで減額措置を受けることができるため、非常に大きな節税効果が期待できます。

 

6.2.2. 貸付事業用宅地等を含む場合

これに対し、貸付事業用宅地を含む場合は完全併用ができず、限度面積に制限が加えられます

 

すなわち、以下の計算式を満たす限度で併用できます。

 

(特定事業用宅地等)×200/400+(特定居住用宅地等)×200/330+(貸付事業用宅地等)≦200㎡

 

6.3. 遺産分割が整ったあとに申告する

遺産分割協議が相続税の申告期限までに整っていない場合、小規模宅地等の特例は利用できません

 

もし、遺産分割協議が整っていなくても利用したい場合は、法定相続分で相続したものと仮定し、そのうえで「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出する必要があります。

 

その後、3年以内に遺産分割協議が整い、更正の請求を行うことで適用を受けることができます。

 

6.4. 小規模宅地等の特例と物納の関係

物納とは、金銭以外で税金を納める方法を指します。

 

相続税の納付は「現金一括納付」が原則ですが、「金銭での納付が困難で、また延納(分割払い)でも金銭での納付が難しい」というケースでは、物納できる可能性があります

 

なお、物納をするためには延納しても金銭で納付することが困難である事由を申し立て、税務署長の許可を得なければなりません。物納できる財産として代表的なのが債券・株式・不動産等ですが、税務署が物納に不適格と判断した財産は物納できません。

 

また、小規模宅地等の特例を受けて評価減を受けた土地を物納する場合、評価減されたあとの価額が収納価額となる点も、併せて押さえておきましょう。

 

6.5. 更生の請求による適用は不可

更正の請求とは、税額を申告したあとに税額が過大であることを知り、納税申告をし直すことです。

 

よくあるのが、相続税の申告後、土地や非上場株式等の評価額が過大になっていることに気付き、更正の請求を行うケースです。しかし、小規模宅地等の特例を利用して相続税の申告後、他に有利な申告方法があることに気付いたとしても、更正の請求はできない点に注意しましょう。

7. 小規模宅地等の特例を利用したいときの手続き方法は?

特例を利用したいときの手続き方法は?
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続いて、小規模宅地等の特例を利用する際の手続き方法について解説していきます。用意する書類は多くあるため、事前に知っておくことでスムーズに動けるようになります。

 

7.1. 必要書類|適用する土地の種類ごとに異なる

小規模宅地等の特例を利用するためには、相続税の申告の際に税務署へ申告しなければなりません

 

土地の種類によって提出する書類が異なりますが、共通の書類は下記の通りです。

 

  • 相続税の申告書
  • 遺言書または遺産分割協議書の写し
  • 法定相続情報一覧(被相続人と相続人の関係を証明するための書類)
  • 被相続人の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 申告期限後3年以内の分割見込書(申告期限内に遺産分割が終わらない場合)

 

法定相続情報一覧」は、法務局のホームページでフォーマットを入手できます。

 

上記の共通書類に加えて、ケースによって必要な書類が増えます。

 

■特定居住用宅地等について同居親族が特例を受ける場合

  • 相続発生日以降に作成された住民票の写し(マイナンバーカードを提出する場合は不要)

 

■特定居住用宅地等について別居親族が「家なき子特例」を受ける場合

  • 相続発生日以降に作成された戸籍の附票の写し
  • 相続する家屋の登記事項証明書
  • 現在住んでいる借家の賃貸借契約書等

 

■特定居住用宅地等について親が老人ホーム等に入居していた場合

  • 相続発生日以降に作成された被相続人の戸籍の附票の写し
  • 介護保険の被保険者証、要介護認定証等
  • 施設等へ入居する際の契約書等

 

■特定同族会社事業用宅地の特例を受ける場合

  • 法人の定款の写し
  • 法人の登記事項証明書
  • 法人の株主名簿

■貸付事業用宅地の特例を受ける場合

  • 賃貸借契約書等

 

7.2. 提出場所はどこか・申告期間はいつまでか

小規模宅地等の特例を利用する場合、相続税が0円になる場合でも相続税の申告が必要になります。

 

また、申告期限(被相続人の死亡から10ヵ月後)までに被相続人の住所地を所轄する税務署に申告することになります。「相続人の住所地」ではなく「被相続人の住所」を所轄する税務署が提出先なので、間違えないようにしましょう。

 

小規模宅地等の特例を利用するためには、原則として相続税の申告期限までに遺産分割を済ませて税務署に申告書を提出する必要があります。もし、小規模宅地等の特例を使ったにもかかわらず申告を忘れると、税務署から追徴課税をいい渡されてしまう恐れもあるため、注意しましょう

まとめ

本記事では、小規模宅地等の特例を利用するための条件や、実際に利用できるケース等について解説してきました。

 

小規模宅地の特例には4つの種類があり、また、状況に応じて適用できる条件が異なるため、複雑な仕組みであることは確かです。

 

しかし、小規模宅地の特定は「居住用宅地を相続する場合」「事業で使っていた土地を相続する場合」「賃貸に出している土地を相続する場合」など、幅広いシーンで利用できます。

 

土地の評価額を最大80%減らしてくれる節税効果の大きい特例であるため、要件に該当する方は利用を検討しましょう

 

知っているだけで数百万円~数千万円の節税にも繋がるため、ぜひ本記事を通じて理解を深めてください。

 

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