相続税が課されるほどの財産を所有していたら、相続が発生したときに相続税がいくらかかるのか気になることと思います。相続税は決められた税率を用いて求めます。税額を誤って算出しないためにも、税率、計算方法について正しく理解しておきましょう。
本記事では、相続税の税率と、それを用いた相続税の計算方法を詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
1.相続税の税率は?
相続税の税率は一律ではなく、相続人によって異なります。本章では、相続税の税率の概要を解説します。
1.1. 相続税の税率は超過累進税率を採用している
相続税の税率は「課税遺産総額が一定額を超えるごとに、税率が上がっていく」という超過累進税率が用いられています。
つまり、受け継ぐ財産が増えれば増えるほど税率が高くなり、相続税額も増加します。超過累進税率が用いられている代表的な理由は「負担の公平性を図るため」です。
どういうことかというと、仮に、相続税率が一律20%だったとして、1億円のなかから2,000万円を納税することと、1,000万円のなかから200万円を納税することは負担がまったく違います。
これでは平等に相続税が課されているとはいえません。そこで、受け継ぐ財産が一定額を超えるごとに、税率を上げることで負担の公平を図っています。
超過累進税率を採用している税金は、相続税の他には所得税や贈与税が該当します。
1.2. 相続税の税率表は国税庁が公表している
相続税の税率表は国税庁のホームページに公表されています。実際に相続税を求める際には、下記の速算表を用います。
■相続税の速算表
法定相続分に応ずる取得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000万円以下 |
10% |
- |
3,000万円以下 |
15% |
50万円 |
5,000万円以下 |
20% |
200万円 |
1億円以下 |
30% |
700万円 |
2億円以下 |
40% |
1,700万円 |
3億円以下 |
45% |
2,700万円 |
6億円以下 |
50% |
4,200万円 |
6億円超 |
55% |
7,200万円 |
出典:国税庁|相続税の税率
このように、相続税の税率は10%から55%までの範囲で段階的に上がっていくように定められています。
1.3. 遺産総額5,000万円の税率は20%…ではない!いくらか?
課税遺産総額(被相続人が残した財産のうち、相続税の課税対象となる財産)が5,000万円の場合における税率は何%でしょうか。
上記の速算表には5,000万円の税率は20%と記載があるので、一見、20%のように見受けられます。しかし、税率は遺産総額によって決まるわけではありません。相続人各々の「法定相続分に応ずる取得金額」によって決まります。
税率の用い方については、次章で紹介します。
2. 相続税の税率・税額を算出する流れ|数値を用いて解説
本章では相続税額を計算する流れを解説します。前章で紹介した速算表をどのように活用するかを見てみましょう。
次のケースを用いて、実際に相続税額を計算します。
- 遺産総額:2億円
- 法定相続人:配偶者、子A(22歳)、子B(15歳)
- 相続人:配偶者、子A(22歳)、子B(15歳)
- 各相続人の財産の取得金額:配偶者1億5,000万円、子A4,000万円、子B1,000万円
ステップ1:相続する遺産を評価・集計
相続税額を求めるための第1ステップは、まず被相続人が残した財産にどのようなものがあるかを把握し、それらを評価することです。
ここでは財産の評価はせず、どのような財産が相続税の課税対象となるかについてのみ解説をします。相続税が課税される財産は次のようなものです。
①被相続人が死亡時に所有していた財産
現金や預貯金、有価証券、不動産、宝石などの他に、著作権や特許権など、目に見えない財産も含まれます。
②被相続人が死亡したことによりもたらされた財産(みなし相続財産)
代表的なものとして、死亡退職金や死亡保険金が該当します。これらは相続人固有の財産ですが、相続税法上は課税対象として扱われます。
③過去に贈与された財産
被相続人が亡くなる前3年以内に贈与された財産や相続時精算課税制度を利用して贈与された財産などは、贈与時の評価額で相続税の対象となる財産に含まれます。
ステップ2:非課税財産を差し引く
ステップ1で求めた相続財産から次に当てはまるものを差し引くことができます。
①被相続人が残した債務
借金や未払いの税金等は差し引かれます。
②墓地、仏壇や神棚など、日常礼拝をするもの
売却できるものや商品として所有しているものを除き、差し引かれます。
③相続人が定められた団体に寄付をしたもの
国や地方公共団体、財団法人日本ユニセフ協会等の慈善団体に寄付したものをさします。
④生命保険金や死亡退職金のうち「非課税限度額」
生命保険金や死亡退職金は「みなし相続財産」にあたりますが、「500万円×法定相続人数」の額は非課税です。
ステップ3:相続税が課せられる課税遺産総額を計算
「遺産総額」から「基礎控除額」を差し引いて「課税遺産総額」を求めます。ここからは、例示したケースを用いて計算します。
①計算に必要な「基礎控除額」とは?
基礎控除額とは「被相続人が残した財産から差し引ける一定の金額」を指します。適用要件がないため、相続人であれば誰しもが使える控除です。基礎控除額は次の計算式を用いて算出します。
- 3,000万円×(600万円×法定相続人の数)
法定相続人とは、民法で定められている被相続人の財産を受け継ぐことのできる相続人のことです。配偶者と血族が法定相続人に該当します。配偶者は必ず法定相続人となり、他の法定相続人は次の順番で法定相続人になることができます。
- 第1順位:被相続人の子
- 第2順位:被相続人の親
- 第3順位:被相続人の兄弟姉妹
詳しくは「相続税の基礎控除とは?対象となる法定相続人の範囲と計算方法」で解説していますので、そちらを参考にしてください。
例示したケースにおける基礎控除額は以下になります。
- 3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
②遺産総額と基礎控除額がわかると課税遺産総額が決まる
先に述べたように「遺産総額」より「基礎控除額」を差し引くと「課税遺産総額」を求めることができます。
遺産総額が基礎控除額に満たない場合は、相続税は無税となります。例示したケースにおける課税遺産総額は以下の通りです。
- 2億円-4,800万円=1億5,200万円
1億5,200万円に相続税が課されます。
ステップ4:相続税の総額を求める
課税遺産総額に課される相続税の総額を求めます。相続税総額を求めるためには、「法定相続分」を理解することが重要です。
あとで詳しく説明しますが、課税遺産総額が同じでも法定相続分が異なれば、相続税総額は異なるからです。
①法定相続分とは、各相続人の取り分の割合を指す
法定相続分とは、「民法で定められている相続人の財産の取り分」です。法定相続分は法定相続人の構成によって異なります。
法定相続人が配偶者のみである場合には、すべての財産が配偶者の法定相続分となります。法定相続人が配偶者の他にもいる場合には、次のようになります。
相続人 |
配偶者の法定相続分 |
他の相続人の法定相続分 |
配偶者と直系卑属 (子や孫) |
1/2 |
1/2÷法定相続人の数 (配偶者は除く) |
配偶者と直系尊属 (親や祖父母) |
2/3 |
1/3÷法定相続人の数 (配偶者は除く) |
配偶者と兄弟姉妹 |
3/4 |
1/4÷法定相続人の数 (配偶者は除く) |
ただし、実際の財産の取得割合は必ずしも法定相続分通りでなくても問題ありません。遺言に明記されている割合や遺産分割協議で決定した割合を用いて、遺産を分割することもあります。
②法定相続分で課税遺産総額を分けてから相続税率を掛ける
相続税の総額は、まず次の計算式を用いて相続人各々の「仮の相続税額」を算出してから、それらを合算します。
- (課税遺産総額)×(各相続人の法定相続分)×(税率)-控除額
この計算式における税率と控除額は、第1章で紹介した速算表に記載されている税率と控除額を用います。
例示したケースにおける、相続人各々の仮の相続税額は以下の通りです。
- 配偶者:1億5,200万円×1/2×30%-700万円=1,580万円
- 子A:1億5,200億円×1/4×20%-200万円=560万円
- 子B:1億5,200億円×1/4×20%-200万円=560万円
相続税の総額は以下のように求めます。
- 1,580万円+560万円+560万円=2,700万円
ステップ5:各相続人の相続税額を計算する
ステップ4で求めた相続税総額に実際の財産取得割合を乗じて、各相続人の相続税額を求めます。
例示したケースにおける各相続人の相続税の額は以下の通りです。
- 配偶者:2,700万円×(1億5,000万円÷2億円)=2,025万円
- 子A:2,700万円×(4,000万円÷2億円)=540万円
- 子B:2,700万円×(1,000万円÷2億円)=135万円
ステップ6:各相続人について控除等を適用する
ステップ5で求めた各相続人の相続税額から各々に適用できる控除の金額を差し引きます。
例示したケースにおいては、配偶者が「配偶者の税額軽減」、子Bが「未成年控除」を適用することができます。
詳しくは第4章で解説しますので、ここでは控除を適用した場合の計算のみ行います。
- 配偶者:2,025万円-2,025万円=0円
- 子B:135万円-10万円×(18歳-15歳)=105万円
最終的に納めるべき各人の相続税は、以下の通りとなります。
- 配偶者:0円
- 子A:540万円
- 子B:105万円
3. 相続税の税率と税額に関わる基礎控除額と法定相続分
遺産総額が同じでも、法定相続人や相続人が誰であり何人いるかによって、税率と税額が異なります。
本章では、3つのパターン別に税率と税額がどのように変化するかについて紹介します。なお、どのパターンにおいても遺産総額は3億円、実際の財産の取得割合は法定相続分通りであるとします。
3.1. 配偶者のみが相続するケース
基礎控除額、課税遺産総額、法定相続分は次の通りです。
- 基礎控除額:3,000万円+(600万円×1人)=3,600万円
- 課税遺産総額:3億円-3,600万円=2億6,400万円
- 法定相続分:配偶者1/1
課税遺産総額に法定相続分を乗じた金額は、2億6,400万円です。2億6,400万円の税率は45%ですので、相続税額は次の通り計算します。
- 2億6,400万円×45%-2,700万円=9,180万円
ただし、配偶者は後述する「配偶者の税額軽減」を適用できますので、納税額は0円です。
3.2. 配偶者と子1人が相続するケース
基礎控除額、課税遺産総額、法定相続分は次の通りです。
- 基礎控除額:3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円
- 課税遺産総額:3億円-4,200万円=2億5,800万円
- 法定相続分:配偶者1/2、子1/2
課税遺産総額に各人の法定相続分を乗じた金額は以下の通りです。
- 配偶者:2億5,800万円×1/2=1億2,900万円
- 子:2億5,800万円×1/2=1億2,900万円
1億2,900万円の税率は40%ですので、各人の仮の相続税額は次のように計算します。
- 配偶者:1億2,900万円×40%-1,700万円=3,460万円
- 子:1億2,900万円×40%-1,700万円=3,460万円
相続税総額(3,460万円+3,460万円=6,920万円)を財産の取得割合で按分(あんぶん)し、実際の相続税額を求めます。
- 配偶者:6,920万円×1/2=3,460万円
- 子A:6,920万円×1/2=3,460万円
ただし、配偶者は後述する「配偶者の税額軽減」を適用できますので、納税額は0円です。子が未成年の場合は後述する「未成年者控除」を適用できますが、ここでは考慮しないこととします。
3.3. 配偶者と子2人が相続するケース
基礎控除額、課税遺産総額、法定相続分は次の通りです。
- 基礎控除額:3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
- 課税遺産総額:3億円-4,800万円=2億5,200万円
- 法定相続分:配偶者1/2、子1/4、子B1/4
課税遺産総額に各人の法定相続分を乗じた金額は以下の通りです。
- 配偶者:2億5,200万円×1/2=1億2,600万円
- 子A:2億5,200万円×1/4=6,300万円
- 子B:2億5,200万円×1/4=6,300万円
1億2,600万円の税率は40%、6,300万円の税率は30%ですので、各人の仮の相続税額は次のように計算します。
- 配偶者:1億2,600万円×40%-1,700万円=3,340万円
- 子A:6,300万円×30%-700万円=1,190万円
- 子B:6,300万円×30%-700万円=1,190万円
相続税総額(3,340万円+1,190万円+1,190万円=5,720万円)を財産の取得割合で按分(あんぶん)し、実際の相続税額を求めます。
- 配偶者:5,720万円×1/2=2,860万円
- 子A:5,720万円×1/4=1,430万円
- 子B:5,720万円×1/4=1,430万円
ただし、配偶者は後述する「配偶者の税額軽減」を適用できますので、納税額は0円です。子が未成年の場合は後述する「未成年者控除」を適用できますが、ここでは考慮しないこととします。
3.4. 基礎控除額や法定相続分が変わると税率・税額が変わる
上記の例題を比較すると、各人の税率や相続税総額は、法定相続人の数や誰であるかによって、変化していることがわかります。
配偶者の税率は、法定相続人が1人(配偶者のみ)のときは45%であるのに対し、3人(配偶者と子2人)であるときは40%です。
子の税率も同様に、法定相続人が2人(配偶者と子1人)のときは40%であるのに対し、3人(配偶者と子2人)のときは30%です。
また、税率が変わるため、相続税総額も異なります。相続税の総額は、法定相続人が1人(配偶者のみ)のときは9,000万円ですが、3人(配偶者と子2人)のときは5,720万円です。
このように税率や相続税総額が異なる理由は、法定相続人が何人であるかによって基礎控除額が変わり、法定相続人が誰であるかによって法定相続分が変わるためです。
相続税額を計算するときは、法定相続人が誰であり、何人であるかを正確に把握しなければなりません。
4. 相続人の条件によって適用できる相続税控除制度を紹介
各人の相続税額から一定額を減らすことができる税額控除があります。
基礎控除が相続人であれば誰しもが適用できる控除であるのに対し、税額控除は適用要件を満たしていれば適用可能です。
本章では、代表的な控除制度を3つ紹介します。要件を満たしているものがあれば活用しましょう。
4.1. 配偶者の税額軽減
被相続人の配偶者は相続税額が軽減されます。
配偶者が受け継いだ課税対象の財産に対して、次の金額のどちらか多いほうまでは相続税が無税となります。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分にあたる金額
注意点は以下の通りです。
- 法律上の婚姻関係にある配偶者のみが適用を受けられる
- 配偶者の税額軽減を用いたことにより相続税が無税になった場合でも、申告しなければならない
- 申告期限までに遺産の分割ができていない場合は、適用を受けられない(ただし、所定の手続きを行えば適用を受けられる)
4.2. 未成年者控除
未成年の相続人は相続税額から一定額を減額できます。
要件は以下の通りです。
- 日本国内に居住していること
- 相続により財産を取得したときに18歳未満であること
- 法定相続人であること
控除額は以下の通りです。
- 10万円×(18歳-その相続人の年齢)
また、以下の2点に注意が必要です。
- 控除額が相続税額より多くて控除しきれない額がある場合は、扶養義務者の納税額より控除できる
- 未成年者控除を用いたことにより無税となった場合、申告不要
4.3. 障害者控除
障がいのある相続人は、相続税額から一定額を減額できます。
要件は以下の通りです。
- 日本国内に居住していること
- 相続により財産を取得したときに85歳未満であること
- 法定相続人であること
控除を受けられる額は以下の通りです。
- 一般障害者:10万円×(85歳-その相続人の年齢)
- 特別障害者:20万円×(85歳-その相続人の年齢)
また、以下の点に注意が必要です。
- 控除額が相続税額より多くて控除しきれない額がある場合は、扶養義務者の納税額より控除できる
- 障害者控除を用いたことにより無税となった場合、申告不要
まとめ
本記事では、相続税の税率について詳しく解説しました。
税率は一律ではなく、法定相続人の人数や誰であるかによって異なります。税率を間違えると誤った相続税額になってしまいますので、税率は正しいものを用いてください。
税率を確認するときは、本記事で紹介した速算表を活用してください。
富裕層だけが知っている資産防衛術のトレンドをお届け!
>>カメハメハ倶楽部<<
カメハメハ倶楽部セミナー・イベント
【12/10開催】
相続税の「税務調査」の実態と対処方法
―税務調査を録音することはできるか?
【12/10開催】
不動産「売買」と何が決定的に違うのか?
相続・事業承継対策の新常識「不動産M&A」とは
【12/11開催】
家賃収入はどうなる?節目を迎える不動産投資
“金利上昇局面”におけるアパートローンに
ついて元メガバンカー×不動産鑑定士が徹底検討
【12/12開催】
<富裕層のファミリーガバナンス>
相続対策としての財産管理と遺言書作成
【12/17開催】
中国経済×米中対立×台湾有事は何処へ
―「投資先としての中国」を改めて考える