「自社株のすべてを後継者へ」…遺言作成後の経営者に、必ずやっておいてほしいこと【中小企業の事業承継】 (※写真はイメージです/PIXTA)

中小企業の事業承継において重要な「後継者への自社株移転」。社長から後継者への移転を相続で実現する際、準備が甘いと、納税資金の不足や後継者以外の相続人の遺留分侵害といった、対処の難しいトラブルが起きるリスクがあります。リスクを回避、あるいは軽減する具体的な方法と、相続にあたって留意すべきポイントを解説します。

 

社長の自社株を後継者に「相続で渡す」ことを検討しているなら、相続時、確実に自社株が渡るよう、まずは遺言を作成するのがお勧めです(『【中小企業の事業承継】社長が〈承継者に自社株を相続させる〉メリットと課題』参照)。

 

そして、自社株の相続で生じる相続税は、後継者への事業承継における「コスト」と位置付け、納税を覚悟し、それに向けた準備を行います。これは、突然の相続が生じても、後継者が自社株を速やかに取得し、納税にも対処できるような準備です。自社株承継における節税については、この準備を終えたあとに検討していけばよいでしょう。節税できれば、当初覚悟したコストを削減することもできます。

 

ここでは、遺言作成後の社長が注意すべき点等について述べてみたいと思います。

遺言を定期的に見直すため「個人資産のB/S」の作成を

社長の資産内容は、遺言を作成したときから、時間の経過とともに変化します。社長が自社株を売却・贈与しなければ、遺言作成後に社長の持株数が変わることはありませんが、株価は変化します。自社株以外の金融資産や不動産は、額と内容も変化していきます。

 

そのため、遺言を作成したあとも、定期的な遺言の見直しが必要です。資産内容の変化が影響して、相続する資産額が遺留分の額(法定相続割合の1/2。ただし被相続人の兄弟姉妹が相続人の場合、兄弟姉妹には遺留分はない)に満たない相続人が生じる、ほかの相続人の遺留分侵害には至らなくても、当初の想定より相続額が多くなり、相続税の支払いに課題が生じるかもしれない…といったことが見えてくるかもしれません。

 

一定の期間を経過した遺言は見直し、必要に応じて書き換えることも必要です。

 

遺言の見直しは、社長の個人資産の棚卸しと合わせて行います。会社のバランスシート(以下、B/Sと言います)は決算ごとに作成し、社長はそれをチェックします。しかし、社長の個人資産のB/Sを定期的に作成している社長は少ないと、筆者は思っています。会社の顧問税理士は、会社のB/Sを作りますが、社長の個人資産のそれまでも作るとは考えていないでしょう。この記事を読んだ社長は、これを機会にぜひ、社長の個人資産のB/Sを定期的に作り、会社決算を見るのと同じ感覚でそれを眺めてみていただきたいと思います。

 

個人資産のB/Sを作るとき、不動産や自社株の評価額をいくらにすべきか悩む場合もあるでしょう。作成時点での自社株と不動産の相続税評価額がわかっていればいいのですが、両者の額を把握している社長は多くありません。

 

自社株や不動産の相続税評価額は、税理士に依頼したうえでコストと時間をかけて作成する必要があるため、ためらう気持ちもわかります。まずは、自社株は会社のB/S上の純資産額で、不動産は固定資産税納税通知書に記載された固定資産税評価額で、社長の個人資産のB/Sを作ってみましょう。

全体資産における「固定資産の割合」に注目!

社長の個人資産のB/Sは「固定資産が資産全体のうち、どの位の割合を占めているか」に注目してみてください。

 

個人資産のB/Sでは、自社株、会社への貸付金(社長が会社にお金を貸している)を通常のルールに反して、固定資産とします。自社株は有価証券、貸付金は債権なので、通常は流動資産として区分しますが、個人資産のB/Sでは固定資産としてください。いずれもすぐに現金化できない資産のため、社長の相続を考える際には、固定資産として取り扱うほうが、社長の相続の課題を見つけやすくなるからです。

 

◆固定資産の割合が50%超なら、相続トラブルになるリスクあり

現金、預金、上場株などすぐに換金できる有価証券、社長が亡くなったときに保険金が受け取れる生命保険の死亡保険金額、車・美術品などの動産は「流動資産」、不動産、自社株、会社への貸付金を「固定資産」として、社長の個人資産のB/Sを作成します。

 

上記のルールで区分し、全体の資産のうち固定資産の割合が50%を超えていたら、社長の相続時、後継者の納税資金の問題や、遺産分割における不公平、場合によっては遺留分侵害が生じる可能性があります。また、納税額をおさえることやなるべく公平に資産を相続することに重きをおけば、不動産を共有するような相続や、自社株を後継者以外に分散させてしまうような相続へとつながる可能性もあります。

 

◆固定資産の割合が50%超だった社長は、生命保険の内容を確認

「自社株は後継者に相続させる」との遺言を作成している社長の固定資産の割合が50%を超えていたら、まずは生命保険の内容を確認します。死亡保険金受取人は後継者になっているでしょうか? 後継者になっていなければ、後継者へと変更することを検討します。後継者の経営を安定させるため、社長が持つ自社株を後継者に集中して相続すれば、後継者は相続税の納税資金が必要です。

 

また、自社株を後継者が相続することで、後継者以外の相続人の遺留分を侵害するようなことが生じても、後継者が保険金を受け取れば、そのお金で遺留分侵害額の支払いが可能になります。社長が亡くなったあと、社長の配偶者の生活資金のことを考えて、配偶者を死亡保険金受取人としていることもあるでしょう。まずは、保険証券をすべてそろえ、保険の専門家に相談してみましょう。

 

また、社長の個人資産のB/Sの状況を正確に把握するために、固定資産の割合が50%を超えているような社長は、税理士に自社株と不動産の固定資産税評価額の算出を依頼し、その額を把握するとよいでしょう。

 

◆万一の「遺留分侵害額」への対応も抜かりなく

遺留分侵害額は、社長の相続時の資産の価額で計算します。今後、株価がさらに高くなれば、後継者が他の相続人の遺留分を侵害する可能性も上がります。今は大丈夫でも、定常的に利益がでる会社、今後、利益が上がっていきそうな会社は注意しましょう。

 

社長が亡くなったことを原因として保険金が支払われる生命保険は、社長の相続における必要資金をファイナンスする機能をもっています。社長には、この生命保険の重要な機能を今一度、認識していただきたいと思います。

 

個人資産のB/Sで固定資産の割合が50%を超える社長は、生命保険の契約状況を確認し、場合によって追加の契約も検討してみましょう。検討するためにも、まずは、契約している生命保険について管理できるよう、保険契約一覧表のようなものを作成することをお勧めします。

 

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    一般社団法人民事信託活用支援機構 理事
    株式会社継志舎 代表取締役 

    外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、本機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。著書に『信託を活用した ケース別 相続・贈与・事業承継対策』(共著・日本法令)『「危ない」民事信託の見分け方』(共著・日本法令)がある。

    株式会社継志舎
    東京都中央区日本橋兜町11-10 兜町中央ビル402
    TEL:03(5542)1233
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    著者紹介

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