ソフトウェア会社社長65歳、次男に会社を継がせたい
★登場人物★
鈴木一郎:ストーリーの主人公。ソフトウェア会社社長、65歳。次男に会社を承継するつもり。
山田太郎:生命保険会社営業マン。黒字対策として契約した生命保険を担当。
大谷浩平:自社株承継に詳しいコンサルタント。
※人物名はすべて仮名です。
鈴木一郎氏は、今から30年前にソフトウェアを開発する会社を設立しました。創業当時は、バブルがはじけ景気が悪くなっていく状況だったため、かなり苦しいときもありました。景気が悪くなる中でも、自社が開発した商品は社会のニーズをうまくとらえることができ、商品も認知されるようになり、売上は次第に増えていきました。何度かの苦境を経験しましたが、ここ10年間は経営も安定し、黒字を継続しています。
鈴木社長は、今年65歳。当面は自身で経営を続けるつもりですが、そろそろ後継者への承継についても、具体的な準備を始めていきたいと考えています。
鈴木社長には、長男、次男、長女と3人の子どもがいます。長男は38歳。大学で建築を学び、建築士の仕事をしています。次男は36歳。大学を卒業後、大手電機メーカーに就職しました。8年間その会社に勤務した後、6年前に鈴木社長の会社に入り、今は営業の最前線で働いています。長女は30歳。昨年、結婚しました。夫は大学病院に勤務する医師です。
鈴木社長は、次男が自社に入ってまだ6年しか経っていないものの、いずれは会社を継いでもらいたいと思っています。
取引金融機関からの「自社株承継対策」の提案に疑問…
年齢からか、それとも会社が順調なためか、取引先の金融機関から会社の承継について鈴木社長はいろいろ提案を受けるようになりました。次男を後継者と考えているならば、次男への自社株の承継を今から準備しておいた方がよいというのです。いくつかの銀行から同じような内容の提案を受けています。
【提案】持株会社を作り、その会社に鈴木社長がもつ自社株を売る
※ 以下、この提案については「持株会社スキーム」という
持株会社の株主を次男にし、次男は少額の資金を出資して持株会社を設立するスキームです。
持株会社に鈴木社長が自社株を譲渡すれば、鈴木社長は、株式売却代金を得ます。さらに、株式を売却したときの税率は、20.315%ですみます。
会社の現状と株価から、鈴木社長が亡くなったときに自社株を相続すれば、株式を譲渡する際の税率より高くなることも推測されるため、持株会社への株式譲渡はメリットもあります。
さらに、その提案では金融機関が持株会社に自社株を買取る資金を融資するから、持株会社や次男に資金がなくても、自社株を移すことができます。
持株会社スキームは「必要となる資金は銀行が融資し、鈴木社長は多額の売却代金を得て、そして自社株承継にかかる税負担の率を下げることができるよいスキーム」と、各金融機関は鈴木社長に提案しています。
鈴木社長は、かつて資金繰りでは非常に苦労したことから、「借りたお金は返さなければならないもの」と常に思っています。自社株を持株会社に移すために、金融機関から資金を借りるというのは、何か違うなとも感じています。
「金融機関は、持株会社に多額を融資するから売上もたち、それでよいだろうが、うちは、事業をしながらその資金をどう返していくのか?」
鈴木社長はこの提案には疑問を感じています。
税理士「私、相続税には自信がなくて…」
いろいろな税理士が「事業承継対策をしましょう」と言っているので、まずは税理士に聞いてみようと、鈴木社長は自社の法人税申告を依頼している顧問税理士に聞いてみました。
すると顧問税理士は、「私は相続税についてはあまり自信がないので…」というのです。税金のプロなのに自身がないとは、随分と正直な先生だなと思いながらも、プロとして苦手なことを苦手と言い切れる税理士に、鈴木社長は好感を持ちました。
相続に長けている税理士をどうやって探すべきか、鈴木社長はいろいろと広告を見てみましたが、すぐに問い合わせてみる気にはなれませんでした。初めて会う人に「会社の事業承継対策をどうしましょう?」と聞くのは、なんか気が引けると思うのです。
生命保険会社営業「コンサルタントを紹介しますよ」
すると突然、ある人の顔が思い浮かびました。
会社はこのところ黒字が続いていたので、その黒字対策として契約した生命保険を担当してくれた山田太郎氏の顔です。
早速、山田氏に相談すると「私は相続についてはプロではないのですが、相続に関する情報は必要と思っており、勉強はしています」と、山田氏は言います。そして山田氏は、「一度、懇意にしている自社株承継に詳しいコンサルタントと会社にうかがいます」というので、鈴木社長は、山田氏とそのコンサルタントに会うことにしました。
山田氏の「プロではない」とお客に正直に言うその人柄を信じ、その山田氏が推薦する人ならば会ってみようかと、鈴木社長は考えました。