【中小企業の事業承継】「家族の相続税負担を少なくしたい…」社長のニーズにどう応えるか? (※写真はイメージです/PIXTA)

商品の質にこだわり、お客様によいものを届けたいという思いで会社を経営してきた菓子製造会社社長。社会貢献への気概からしっかり法人税も払って経営を続けてきましたが、75歳となったのを区切りに、来年は第一線から退き、次世代への承継を考えています。本格的に承継への準備に着手しましたが、気がかりなのは税理士からも指摘を受けた家族への税負担です。社長とコンサルタントのやり取りを通じ、社長の自社株の信託を検討したケースを紹介します。

堅実で職人気質…菓子製造会社社長のケース

★登場人物★

稲垣 啓介:75歳。菓子製造会社の社長。

堀江 翔:自社株承継に詳しいコンサルタント。

※人物名はすべて仮名です。

 

稲垣社長は、35年前に洋菓子を製造する会社を創業しました。創業して10年目に考案した菓子が人気商品となり、会社経営が安定するようになりました。職人気質の稲垣社長は、妥協することなく菓子製造に取り組み、ほかにもいくつかの人気商品を生み出しました。会社の規模も次第に大きくなり、今は従業員30名の会社に成長しています。

 

稲垣社長の家族は、妻(72歳)、長男(50歳)、次男(48歳)、長女(46歳)の5人です。長男は製薬会社に勤務しています。長女は夫の実家がある北海道に住み、地元の企業に勤務しています。次男は、父の菓子を継ぐと決め、大学を卒業した後に洋菓子店に就職、その後、海外で菓子作りを学び、35歳のときに稲垣社長の会社に入社しました。

 

稲垣社長は、会社に利益が出たら法人税をしっかり支払い、残った資金は新たな菓子を考案し、製造機械を改良するなどの設備投資に充ててきました。創業当初に資金繰りに苦労した経験があり、すべてを投資することなく利益の一定割合を会社に留保もしてきました。とても堅実な経営者です。

すでに75歳、いよいよ承継準備に着手

次男が会社に入り、現在は製造部門の長を務めています。稲垣社長の思いを理解して、会社の伝統を引き継ぐことを意識しつつ、新商品の開発にも熱心に取り組んでいます。稲垣社長の職人気質を受け継いでいるようです。多くの従業員から慕われている姿を見ると、とても嬉しいと稲垣社長は言います。

 

75歳になった自分のことを考え、さすがに現役で仕事をしていてはいけないと思い、昨年に引退を決意したとのことです。今年1年間は、会社の引継ぎの時間として、次男とともに取引先を訪問する、社内にある契約書や決算書の内容を一緒に確認するなど、具体的に1つずつ承継の準備をしています。

「資産承継についての悩み」は1つではなく…

稲垣社長の資産は、自社株、現預金、自宅と会社の工場が建つ土地です。稲垣社長は会社の株式を80%所有しています。稲垣社長以外に、数社の取引先と1名の取締役が会社の株主です。取締役は創業より会社を支えてくれた人で、稲垣社長より10歳年下です。

 

【悩1】全資産の相続税評価額、3億2000万円にも…!

 

昨年、引退を決めたときに、税理士に稲垣社長が持つ自社株の相続税評価額の算出を依頼し、計算してもらい、その価値は2億4000万円であることがわかりました。あわせて土地や自宅も含めた全資産の相続税評価額を算出してもらいました。稲垣社長の資産の評価額は3億2000万円であることがわかりました。自宅は、奥さんが相続して引き続き住み続けることで、小規模宅地の特例が利用できるということで、評価額は高くならないと税理士は言います。

 

【悩2】退職金を「1億円」にしたいが、所得税は?

 

また、来年社長を退くにあたり、稲垣社長は役員退職金を得ることを予定しています。稲垣社長の現在の役員報酬や創業より社長を35年務めてきたことをふまえて、退職金額を1億円にしようと考えています。税理士によると、退職金の所得税は、役員報酬などの所得とは分けて納税額を計算するため、退職金は手取りで8200万円程度になるようです。

 

【悩3】社長引退時の資産総額「4億円」のうち、6割が自社株。次男の相続税が…

 

稲垣社長は、社長を次男にまかせて会長になり、会長として僅かな報酬を得るものの、年金とその報酬のみでは生活に足りないため、得た退職金を取り崩しながら生活していくことになります。来年に社長を退いた時点で、相続税を計算する上では、約4億円の資産を所有していることになります。

 

次男が会社を経営していく以上、自社株をすべて次男に相続することがよいと稲垣社長は考えています。しかし、現時点で自社株の価値は2億4000万円あります。4億円の稲垣社長の資産の6割を自社株が占めており、それをすべて次男が引き継ぐとすると、次男の相続税の負担が気になります。

 

【悩4】子どもたちへの相続財産の不公平で、わだかまりが残るのではと心配

 

また、次男に多くの資産が相続されることにより、長男と長女に不公平な相続になってしまい、子どもたちの間にわだかまりが生ずる可能性があることを稲垣社長は心配しています。

 

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    一般社団法人民事信託活用支援機構 理事
    株式会社継志舎 代表取締役 

    外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、本機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。著書に『信託を活用した ケース別 相続・贈与・事業承継対策』(共著・日本法令)『「危ない」民事信託の見分け方』(共著・日本法令)がある。

    株式会社継志舎
    東京都中央区日本橋兜町11-10 兜町中央ビル402
    TEL:03(5542)1233
    HP:http://keishisha.com/


    著者紹介

    連載株の渡し方で結果が決まる!中小企業「事業承継」の進め方

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