(※写真はイメージです/PIXTA)

苦労して会社を軌道に乗せてきた社長も60歳。起業家を志す子どもたちは承継に興味がなく、二人三脚でやってきた取締役も引退を希望。いずれはM&Aを…と考えていますが、いまは夢を持つ子どもたちに最大限メリットを享受させ、なおかつ面倒ごとのリスクになりかねない株式の分散を回避したいと考えています。社長と税理士とコンサルタントのやり取りを通じて、社長の希望を実現する方法を探ります。

映像制作&コンサルティング会社社長60歳の自社株承継

★登場人物★

木村 拓郎:60歳。映像制作・コンサルティング会社の社長。

泉 洋:木村の会社の顧問税理士。

福山 雅夫:自社株承継に詳しいコンサルタント。

※人物名はすべて仮名です。

 

木村拓郎氏は元々テレビ局に勤務していましたが、40歳で独立し、制作会社を設立しました。テレビ局時代に築いた人脈で各方面の映像制作をおこない、業界では名が知れた存在です。

 

最近、木村社長はメタバースに興味を持ち、若手のエンジニアを積極的に採用しています。今後は、これまでのような映像制作からメタバース関連の事業を増やしていくことを考えています。

 

泉洋氏は、木村社長が会社を創業したときから、顧問税理士として会社の税務申告を担当しています。木村社長と同年代の税理士です。木村社長は今後も引き続き顧問税理士として、会社の経理の支援や税務申告を泉税理士に担ってもらいたいと思っています。

 

木村社長の家族は、妻(58歳)、長女(32歳)、次女(30歳)の4人家族です。長女も次女も未婚。長女は商社に、次女はメーカーに勤務しており、映像の仕事には就いていません。娘は2人とも将来起業したいという希望をもち、会社に勤務しながら起業のアイデアを研究しているといいます。

 

木村社長は創業当初、会社の資金繰りに大変苦労した経験があり、2人の娘たちが起業するときには会社に投入できる自己資金があったほうがよいと思い、2人の娘にいまからその資金を貯めておくようアドバイスをしています。

起業希望で承継に無関心な娘、引退する気満々の取締役

昨年、泉税理士は木村社長に、会社の承継についてどのように考えているか聞いてみました。

 

「親族には後継者がいないようですが、会社の承継をどのようにお考えですか?」

 

木村社長は、

 

「2人の娘は自分の会社を持つことが夢のようで、私の会社を継ぐことにはまったく興味がないようです。〈映像に関する業務を担わずに、経営者として会社の事業を拡大していくのも面白いよ?〉と言ったのですが、2人とも、既存事業の経営ではなく、自分で考えた事業を立ち上げて経営することに興味がある、会社を継ぐ気はまったくないとバッサリ…」

 

木村社長はがっくりと肩を落としました。

 

創業時より木村社長と一緒に映像の仕事をしてきた取締役がいるのですが、その取締役も木村社長と同年代。会社を継ぐというより、木村社長と一緒に引退することを望んでいるようです。

 

木村社長はまだ60歳のため、あと10年ぐらいは会社を経営する気持ちがあるようですが、現時点では後継者を明確に決めておらず、その点については、どうしたらよいものかと悩んでもいるといいます。

社長の資産は自社株が中心、将来も安泰の見通し

木村社長は映像制作のプロではありながら会社経営にも長けていて、会社の経営は安定しています。映像制作事業の売上は大きく増えることはないもののコンスタントに受注できており、黒字が続いています。

 

会社は安定しているものの、木村社長は映像にとってかわる事業を作りたいと考え、メタバース関連の事業を今後の柱にしたいと新規事業開発に力をいれています。新たに事業部を作り、積極的に若手エンジニアを採用し、すでにプロトタイプもできています。来年には、このプロトタイプを商品として外部に販売することを予定しており、現在はプロトタイプのチェックに余念がないともいいます。

 

木村社長は、20年前に会社を創業しました。創業後5年くらいまでは会社の資金繰りが苦しく、木村社長の私財を会社に投じながらしのいできました。そのようななかで、ある作品が爆発的にヒットし、それ以降は積極的に営業をしなくても制作を依頼されるようになり、創業10年目以降は継続的に黒字となっています。

 

継続的に黒字を維持できているため、木村社長の役員報酬も増やしてきました。木村社長は堅実で、あまり無駄遣いもせず、報酬が増えた分を貯蓄しています。またいつか以前のように会社に木村社長の資金を投じなければならないときがくるかもと思い、その備えとして銀行預金のままにしているといいます。

 

木村社長の資産は、自宅(マンション)と預金、そして自社株です。今後も預金を金融商品で運用することは考えていないといいます。老後の資金は、自身が代表取締役を退く際に退職金を得れば、自宅もあるので不自由しないだろうといいます。

 

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