前回は、遺言書を作成することで防げる相続トラブルを紹介しました。今回は、税理士と特定の相続人だけで進めた遺産分割のトラブル事例を見ていきます。

遺産分割の「不透明なプロセス」が問題に

都内で自営業を営むKさんが、父親を亡くしたのは昨年のこと。資産家だった父親は複数のアパートや商業ビルを持っていたのですが、急に倒れたまま寝たきり状態となり、その後が長かったために遺言書を作成できませんでした。

 

そんな父親が亡くなって、四十九日の法要が行われたときに、自分がやっている事業の顧問税理士に遺産分割や相続税の申告をお願いしたいと、Kさんは母親や兄弟に告げました。「兄貴が事業で付き合いのある人なら、信頼できる人だろうから安心だよ」と、弟もいってくれました。

 

その後、みんなが多忙だったせいもあって、遺産分割協議なども、Kさんと税理士で話を進め、いざ最後の署名捺印という段階になって、Kさん以外の全員から、クレームがつきました。

 

遺産分割の決め方が不透明でわからない、Kさんにとって有利な分配になっているのではないか――そんな言葉が、自分の母親からもあり、なんと白紙に戻すということになってしまいました。

 

結局、遺産分割は未定のまま、相続税の申告はすませたものの、いまだに分割の方法でもめている状態。それ以後、母親や兄弟との仲は冷え切ったままです。

税理士等とのやり取りは「関係者全員」に開示を

こうした遺産分割の過程で、そのプロセスが不透明だったためにトラブルになってしまうケースもよくあることです。税理士と特定の相続人だけで話を進めてしまったために、他の相続人が税理士や特定の相続人に対して「不信感」を抱いてしまい、遺産分割の話がもつれてしまったわけです。

 

これは、税理士にも責任の一端がありますが、遺産分割の作業に入る前に全員を集めて「全体会議」を開催し、全員のコンセンサスをとっておくというプロセスが大切だと思います。それを怠ると、せっかく時間をかけて進めてきた遺産分割のプランが、他の相続人に反対されて白紙に戻されるといったケースになるわけです。

 

相続税の申告は、前出のように10カ月あるから時間的には十分あると思ってしまいがちですが、路線価の発表のタイミングなどを待っていると、最後はばたばたしてしまい、実質的には2〜3カ月で作業を完了しなければならなくなることもあります。

 

実務的な面では税理士の「独走状態」となり、他の相続人は「税理士とその税理士と仲のいい相続人」との間を懐疑的に見るようになってしまいます。すべて情報をオープンにすることも、トラブルを未然に防ぐためには重要なようです。

本連載は、2013年8月2日刊行の書籍『相続税は不動産投資と法人化で減らす』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続税は不動産投資と法人化で減らす

相続税は不動産投資と法人化で減らす

成田 仁,富田 隆史

幻冬舎メディアコンサルティング

従来より相続税対策として考えられてきた、アパートや小規模ビルなどの建設。しかし、それこそがリスクをもたらしているかもしれないとした…。 本書は、持て余している土地を収益性の良い賃貸物件に買い替える不動産投資の最…

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