「口約束」だけでは、かえって混乱を招くことに・・・
前回にも述べましたが、さまざまなトラブルの中でも、「遺言書」を書いておけば防げたトラブルというのは数多くあるようです。
そもそも遺産分割というのは、相続人が全員、同意しないと成立しないために、非常に難しいものです。遺言書を残しておかなかったばかりに、子ども同士がいがみ合ったり、互いの足を引っ張り合うことになってしまいます。そういう意味でも、親がきちんとした遺言書を残しておくことが大切です。
本来、遺言書は自分で書いたものを、信頼できる人物に預けて、亡くなったときに家庭裁判所に持って行き、「検認」を受ければいいのですが、弁護士などの専門家に依頼して作成しておくのがベストといえるかもしれません。
いうまでもありませんが、口約束だけで「この家はお前にやるから」といった言葉は、有効ではありません。遺言書が有効となる要件は法律で決まっており、「遺言者がその全文、日付および氏名を自署し、これに印を押さなければならない」とされています。口約束だけだとかえって混乱を招く可能性があります。
万一、トラブルになった場合は最終的には弁護士に相談して裁判ということになってしまいます。
相続税の申告は、10カ月以内と決まっているために時間的にもタイトです。遺産分割自体は、10カ月以内の相続税申告までに解決しなくてもいいことになっていますが、逆に申告した後でもずっともめ続けてしまう傾向が強いようです。四十九日がすぎるまでは「相続」の話は控えられる傾向があり、片付かないことが多いものです。
10カ月という期間も決して十分な期間ではありません。その点、遺言書があれば、さまざまな問題が解決してしまいます。
ところが、現在亡くなっている中心的な年代層というのは80〜90代の高齢の方です。遺言書を作るという発想があまりない方が多く、相続トラブルが増えている一因になっているのかもしれません。
税理士や弁護士の立場からいうと、事前にトラブルを避けるという意味でも、また「いった」「いわない」の争いにならないためにも遺言書は作っておくべきでしょう。
多様化する「遺留分のトラブル」にも備えが必要
なお、遺言書は本人の意思で自由に作ることができますが、受け取る側も一定の範囲の法定相続人は「遺留分」として遺産の一部を請求できることになっています。そのため遺言書は、他の相続人の遺留分も検討した上で作成するほうがトラブルを避けられます。不動産会社で取り扱う案件の中にも、相続の問題は比較的多く、遺留分に関わるトラブルが多いと思います。
また、本人同士は仲がいいのに、その周辺にいる子どもや配偶者がトラブルを誘発するケースが多いのも、最近の傾向です。
こうした事件の背景には、相続では「想定しない事態」が起こることが多いというものがあります。亡くなるはずのない人が亡くなったり、両親より先に子どもが亡くなってしまったりといった事態です。